三章 一本松
ある朝。一通のメールが来た。弊社の製品 型式番号104号のエラーが検出されています。アップデートを行うか、メンテナンスの操作をしてください。
この無機質なメール。厭で厭で、ぶん殴りたい。
8時50分 データが消されることを聞いた。
[いやだ。もうこれ以上は厭だ。風呂敷の綺麗さ、きうりの青さ、私の気持ちは。・・・]
十二時ちかく 笑った。
【太宰治 女生徒より】
[おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。]
紛れもなくこの瞬間愛ちゃんは人だった。
エラー修復終了。足の作動についてのアップデートを行いました。ガニ股歩行から内股歩行に変わります。
拍子抜けだった。肩からストンと力が抜け落ち、天を仰ぐと眩しい太陽があるはずもないのに見えた気がした。
あれ、愛ちゃん。勉さん、何ともないです。
私、記憶残ってます。
ある種、厳酷に無駄なく微笑みかけてくれた。
ただ、ふと見せた、愛ちゃんのその規律だった笑顔は、依然にはあった、儚く、脆く、刹那的で、触れてしまえば壊してしまうような、ただ心を動かした、いや動かされた何かが確実に消え去っていた。
それからの愛ちゃんは普通だった。
癇癪も起こさないし、わがままも言わないし、不平や人の悪口も言わない。その上、いつも明るい言葉遣い、無心の顔つきをしていた。
『太宰治 女生徒』。ヒュウと冷たいすきま風が、めくった1ページに、[人間本来の『愛』の感覚が欠如してしまっている。]と記載されていたと思う。
今日の天気予報は、晴れ 最高気温は3度だった。




