第八話
ラドフォールの朝は、澄んでいた。
北方特有の冷気は残っているが、夜を支配していた重さは、もうない。
空は高く、雲は薄く、陽光が雪解け水に反射して眩しい。
冒険者ギルド《ファルク・ネスト》の前。
四人は、揃って街門へと向かっていた。
荷は軽い。
必要以上の武装もない。
それだけで、
これまでとは違う旅だと分かる。
石造りの門が開かれる。
門番が、敬礼でも詮索でもなく、ただ手を振った。
「気をつけてな」
それだけ。
アレックスは、深く息を吸い込む。
冷たい空気。
だが、胸が痛まない。
背中に感じるのは、魔剣の重みではなく、自分の足で立っている感覚だった。
街道は、広かった。
ブランディア大陸を貫く中央路の支脈。
交易路として整備され、馬車の轍が穏やかに続いている。
両脇には、春を待つ草原。
雪の下で眠っていた緑が、すでに目を覚まし始めている。
ソフィが、思わず足を止める。
「……魔力が、澄んでる」
「北方は、余計なものが少ないからな」
レイの声も、軽い。
ジルは、遠くの地平線を眺めている。
「この先は、国境と都市の連なり」
「面倒事も増えるわね」
「でも――」
アレックスが、歩きながら言う。
「今は、それも悪くない気がする」
道中、すれ違うのは――
農夫の荷車。
巡礼の一団。
小さな商隊。
誰もが、急いでいない。
挨拶が交わされ、笑顔が返る。
戦争の影は、ここには届いていない。
ソフィが、小さく呟く。
「守れたのね……」
レイが、頷く。
「ああ」
ジルが、からかうように言う。
「英雄の顔じゃないわね」
アレックスは、肩をすくめる。
「なりたくもない」
丘を越えた先で、景色が一気に開ける。
ブランディア大陸。
河川が輝き、都市の塔が点在し、街道が網の目のように延びている。
それは――
争いと希望が共存する土地。
ソフィが、地図を広げる。
「次の目的地は?」
レイが答える。
「中央平原。情報も仕事も多い」
ジルが笑う。
「噂話もね」
アレックスは、剣に手を置く。
まだ、新しい剣。
だが、もう“借り物”ではない。
「行こう」
一歩、踏み出す。
光が、背中を押す。
これから先、再び闇は現れるだろう。
選択に迷い、剣を振るい、失うものもある。
だが――
今はただ、進むための光がある。
ブランディア大陸全域へ。
四人の旅は、ここから始まる。
街道を進むにつれ、ブランディア大陸の「広さ」が実感として迫ってきた。
一日歩いても、景色は尽きない。
丘を越え、川を渡り、昼は陽光に照らされ、夜は満天の星に包まれる。
ラドフォールでの緊張は、少しずつ、だが確実に抜けていった。
三日目の夕刻。
街道沿いの簡素な宿場村。
石壁もなく、守備兵も最低限。
それでも、人は多い。
交易路の要衝――それが理由だ。
だが、アレックスは足を止めた。
「……静かすぎる」
ソフィも同時に眉をひそめる。
「人はいるのに、魔力の流れが……重い」
ジルが肩をすくめる。
「歓迎されてない、って感じ?」
レイは周囲を一瞥し、低く言った。
「違うな。怯えてる」
宿の食堂。
木製の長机。
煮込みの湯気。
味は悪くない。
だが、会話が弾まない。
アレックスが、静かに問いかける。
「最近、何かあった?」
宿主は、一瞬だけ視線を伏せた。
「……中央平原の方でな」
声を落とす。
「“消える”んだ」
「人が?」
「それだけなら、まだいい」
鍋をかき混ぜる手が止まる。
「村ごとだ」
レイが訊く。
「魔物か?」
「分からん」
「痕跡は?」
「ある時は焼け野原。ある時は……何もない」
ソフィが、はっとする。
「結界系……?」
宿主は首を振る。
「専門家じゃない。だが、王国の騎士団も来た」
「結果は?」
沈黙。
それが答えだった。
ジルが、乾いた笑みを浮かべる。
「大陸編、早速ね」
部屋に戻り、
四人は円卓を囲む。
剣、杖、短剣、地図。
戦争は終わった。
だが、世界は――
戦争の名残を手放していない。
アレックスは、新しい剣を見下ろす。
ファルシオンは、もうない。
だが、それで終わったわけではない。
「行くか?」
レイが即答する。
「行かない理由がない」
ソフィは、少し考え、頷いた。
「影の家じゃないとしても、放置できる話じゃない」
ジルは、笑った。
「選択肢は最初から一つ、でしょ」
夜半。
アレックスは、目を覚ました。
理由は分からない。
だが――
剣が、鳴っていた。
音ではない。
感覚だ。
外へ出る。
月明かりの下、遠くの平原が――
わずかに歪んで見えた。
まるで、空間そのものが呼吸しているかのように。
「……始まってるな」
誰にともなく呟く。
これは、影の家ではない。
だが――影の家が消したはずの“仕組み”の残滓。
ブランディア大陸は、まだ何かを抱えたままだ。
中央平原に入った瞬間、風の質が変わった。
それまで草原を撫でていた柔らかな流れが、ここでは――引き剥がすように吹く。
「……ここだな」
レイの声は、自然と低くなる。
街道から外れた先。
小高い丘を越えると、“村だったはずの場所”が現れた。
家は、ない。
焼け跡もない。
瓦礫も、崩落も、血の痕も。
最初から何も建っていなかったかのように、ただ平らな地面が広がっている。
だが――
アレックスは地面に膝をついた。
土は踏み固められている。
道だった部分は、わずかに凹み、井戸のあった場所には円形の沈みが残る。
「……消された、んじゃない」
ソフィが、静かに言う。
「“なかったことにされた”」
ソフィが杖を突く。
探査魔術。
空気に走る淡い光が、数拍遅れて、歪んだ反応を返した。
「記録層が削られてる……」
ジルが目を細める。
「魂だけじゃなく、“意味”ごと、か」
「普通の破壊じゃない」
ソフィは唇を噛む。
「存在情報の圧縮、その後の……再配置?」
「再配置?」
「別のどこかに“移した”可能性もある」
一同が、沈黙する。
それは、殺戮に等しい――悪辣な行為だった。
アレックスは、立ち上がらなかった。
剣に手を添え、地面を見つめ続けている。
新しい魔法剣は、ファルシオンのように囁かない。
だが――
何も語らないからこそ、逆に“何かを拒絶している”感覚があった。
「……ここ、不穏だな」
ぽつりと漏れた言葉に、ジルが一瞬だけ、彼を見る。
「理由は?」
「分からない」
アレックスは正直に言う。
「ただ……“ここで選ばされた”感じがする」
ソフィが、はっとする。
「選択……」
レイが周囲を警戒しながら言う。
「これは影の家のやり口とは違う」
「同感」
ジルも頷く。
「彼らは“誇示”する。帝国だの、戦争だの、必ず物語を上書きする」
ソフィが続ける。
「光の教団なら、もっと分かりやすく“救済”を装うわ」
「残るのは――」
三人の視線が、自然と、地面の“空白”に落ちる。
アレックスが、静かに言った。
「灰……か」
名は出した。
だが、断定ではない。
灰の勢力は、痕跡を残さない。
痕跡が“残らないようにする”勢力だからだ。
ジルが、ふと立ち止まる。
「……いや」
彼女は、足元の土を蹴った。
乾いた音。
「完全じゃない」
彼女は短剣で地面を掘る。
浅く。
ほんの数センチ。
出てきたのは――
割れた木製の玩具。
動物を模した、粗末なもの。
ソフィが息を呑む。
「……子供が、いた」
アレックスは、それを拾い上げた。
軽い。
あまりにも軽い。
「消せなかったんだな」
ジルが呟く。
「存在を消しても、“誰かが大切にしていた”って事実までは」
風が、再び吹いた。
今度は、逃げるような風ではない。
押し返す風だ。
レイが言う。
「進もう」
「中央平原の奥だな」
ソフィが地図を広げる。
「この消失点、他と繋がってる」
アレックスは、玩具を懐に入れた。
剣を握る。
ファルシオンはいない。
だが――
「剣がなくても、俺は進む」
それは、誰に向けた言葉でもない。
世界そのものに対する宣言だった。
消えた村は、何も語らない。
だが、語らないこと自体が、次の戦いを告げていた。
玩具を懐に収めた、その瞬間だった。
空気が、張り詰める。
霧でもない。
魔力の奔流でもない。
「整えられた清浄さ」が、強引にこの場へ流し込まれた。
ソフィが、即座に杖を構える。
「来る――!」
地面に刻まれた淡い紋章が、村の“中心だった場所”に浮かび上がる。
円環。
放射。
祈りの言語。
――光の転移陣。
次の瞬間、光が“降りた”。
人影が三つ。
白金の装甲。
太陽を象った意匠。
剣は抜かれていない。
だが、抜く必要がないという自信が、全身から滲み出ている。
その背後。
ローブ姿の男が、一歩前に出た。
「安心していただきたい」
穏やかな声。
「我々は敵ではない」
レイの表情が、微かに揺れる。
「……シャイニング・ワンか」
男は、微笑んだ。
「あなたはサー・レイでしたな」
男は胸に手を当て、名乗る。
「光導監査官セラフィム=ローディア」
名を告げた瞬間、空気がさらに“定義”される。
「この地域において発生した“非許可の存在消失事象”。それに伴う均衡逸脱の兆候。そして――」
彼の視線が、アレックスへ向けられる。
「高危険度観測対象の接触」
沈黙。
ジルが、舌打ちを噛み殺す。
「……ずいぶんと、早いお出ましだな」
セラフィムは否定しない。
「光は、遅れてはならない」
「闇の侵食、灰の逸脱、いずれであっても」
彼は、地面を一瞥する。
「この村は、“救済対象”でした」
ソフィが即座に反論する。
「救済?」
「存在ごと消されて?」
「光の名を使うなら、その言葉の重さを理解なさい」
セラフィムは、困ったように眉を下げた。
「だからこそ、我々が来たのです」
セラフィムは、レイを見る。
視線が、剣でも魔法でもなく――過去を突く。
「元・光の騎士レイ」
名を呼ばれた瞬間、空気が一段、冷えた。
「あなたには、理解できるはずだ。選択とは、許されるものではなく。管理されるべきものだと」
レイは、剣を抜かなかった。
だが、一歩前に出る。
「……それを否定するために、俺は教団を離れた」
白金の騎士たちが、わずかに剣に手を掛ける。
セラフィムの視線が、再びアレックスへ。
「魔剣ファルシオンの使用者」
「現在は、剣を喪失」
「だが――」
彼は、静かに言う。
「危険性は変わらない」
アレックスは、真っ直ぐに返す。
「俺は、誰も消してない。この村も」
「ならば」
セラフィムは、首を振る。
「消える可能性を持つ者が、ここに立っている」
それが、光の教団の結論だった。
「提案します」
セラフィムは、声を落とす。
「この件は、我々が引き取る。あなた方は、これ以上関与しない。代わりに――」
彼は、穏やかに笑った。
「保護を約束しましょう」
ソフィが、低く言う。
「それは、監禁の言い換え?」
「管理です」
即答だった。
アレックスは、剣を抜いた。
新しい魔法剣。
光も、闇も、選ばない刃。
「……悪いな。俺はもう」
彼は、地面を見渡す。
消えた村。
残った玩具。
「誰かに選ばれる側には、戻らない」
沈黙。
次の瞬間――
白金の騎士たちが、
一斉に剣を抜いた。
光が、戦闘の色に変わる。
だが、その瞬間。
ジルが、笑った。
「来たな……」
ソフィが、目を見開く。
「まさか――」
地面の“空白”が、かすかに歪む。
光でも、闇でもない。
灰色の魔力が、遠くで“応答”を始めていた。
三大勢力。
同じ地点。
同じ事件。
もはや――退路はない。
白金の剣が、半歩前に出た、その刹那。
音が消えた。
金属の鳴動も、魔力の脈動も、呼吸音さえも――
一拍、遅れて失われる。
世界が、“待て”と言われた。
セラフィム=ローディアの瞳が、初めて揺れる。
「……これは」
光の転移陣が、軋む。
白金の騎士たちの足元で、影でも光でもない紋章が浮かび上がった。
円ではない。
十字でもない。
割れた天秤。
ジルが、低く笑う。
「公式裁定だ」
「しかも――かなり“重い”やつ」
空白が、再び歪む。
だが今度は、裂けない。
“折り畳まれる”。
村の中心だった地点が、まるで紙を折るように内側へ畳まれ、その奥から――
一人の存在が、現れた。
背は高くない。
体格も、平均的。
だが――
存在密度が、異常だった。
灰色の外套。
装飾はない。
武器も見えない。
顔は、はっきりしているのに、記憶に残らない。
ソフィが、呟く。
「……定義拒否型」
レイはその存在を確認する。
「まさか……」
ジルが、わずかに頭を下げた。
「灰の超越者グレイ=バレイサス……裁定者」
その存在は、ゆっくりと周囲を見渡す。
光の騎士。
灰の構成員。
闇の影は、すでに気配だけで退いている。
そして――アレックス。
「――確認」
声は低い。
だが、感情がないわけではない。
「三勢力同時介入」
「均衡規約、第四十三条」
「現地裁定権、発動」
裁定者の視線が、セラフィムへ向く。
「光の教団シャイニング・ワン」
「質問する」
空気が、再び“定義”され始める。
「この村は、救済対象であったか」
セラフィムは、即答しない。
「……記録上は」
「答えになっていない」
裁定者の声が、わずかに低くなる。
「消失後に、救済は成立するか」
セラフィムの喉が、鳴る。
「……成立しない」
「よろしい」
裁定者は、淡々と告げる。
「光の教団による事後介入は、正義を名乗る資格を失う」
白金の騎士たちの足元で、
光の紋章が一段階、格下げされた。
明確な“敗北”。
裁定者は、空白を一瞥する。
「影の家シェイド・フォロウ」
「本件は、観測を装った誘導実験」
「裁定:敵対的均衡破壊行為」
言葉が落ちた瞬間、遠くで“何か”が切断された感覚が走る。
ジルが、目を細める。
「……拠点の一つ、死んだな」
最後に、裁定者はジルを見る。
「構成員・赤のジル」
「逸脱を確認」
ジルは、肩をすくめる。
「はいはい」
「覚悟の上だ」
裁定者は、少しだけ首を傾げる。
「……更新として、記録」
「処分は――保留」
ジルが、わずかに目を見開く。
裁定者の視線が、アレックスに向く。
剣を握る手。
失われた魔剣の痕跡。
それでも、前に立つ意思。
長い沈黙。
そして――
「魔剣喪失個体」
「だが、選択拒否を継続」
裁定者は、はっきりと告げる。
「――観測対象から、当事者へ昇格」
ソフィが、息を呑む。
「それは……」
「守られない、ということだ」
裁定者は、淡々と続ける。
「光にも、闇にも、灰にも」
「君は――属さない」
アレックスは、短く笑った。
「ちょうどいい」
裁定者は、一歩退く。
「本件、ここまで」
「以降の介入は、各勢力の“責任”に委ねる」
最後に、一言。
「世界は――まだ、壊れる価値がある」
次の瞬間。
灰の外套が、霧のようにほどけ、存在は完全に消えた。
沈黙。
白金の騎士たちは、剣を下ろさない。
だが、もう“正義”は振りかざせない。
セラフィムは、静かに言った。
「……今回は、退く」
光の転移陣が、再起動する。
光が消え、村跡には――四人だけが残った。
ジルが、深く息を吐く。
「ふう……」
「最悪の三つ巴は、回避」
ソフィが、呟く。
「でも――もっと厄介になった」
レイが、頷く。
「裁定が下ったってことは」
アレックスは、剣を納める。
「もう、誰も止めてくれない」
遠くで、雷鳴が鳴った。
これは、嵐の前触れではない。
戦争が、正式に始まった音だった。
夜は深いが、町のギルド酒場はまだ起きている。
依頼帰りの冒険者たちの笑い声。
木製の床を踏み鳴らすブーツ。
酔いと疲労が混じった、いつもの空気。
奥の席。
壁際の丸卓に、四人は腰を下ろしていた。
派手な勝利も、凱旋もない。
ただ、仕事が終わった後の顔だった。
ジルが、グラスを軽く掲げる。
「……ま、とりあえず」
琥珀色の酒が揺れる。
「生きて戻ったことに、乾杯」
誰も声を上げないが、
グラスは触れ合った。
軽い音。
レイが、先に沈黙を破る。
「結局――中央平原の件は、どうなる」
ソフィは、杯に口をつけないまま答えた。
「公式には“原因不明”」
「魔術事故」
「あるいは、自然災害」
淡々とした声。
「誰の責任にもならない形で、終わるわ」
レイが、苦く笑う。
「便利な言葉だな」
ジルが肩をすくめる。
「責任を取らせる相手が多すぎる時、一番よく使われる」
アレックスは、黙って木製のテーブルを見ていた。
傷だらけの指先。
剣を失った手。
「……つまり」
ゆっくりと顔を上げる。
「誰も裁かれない」
ソフィが、視線を逸らす。
「裁けない、が正しい」
「影の家だけの犯行じゃない」
「光も、灰も、そして――私たちも」
言葉が、重く落ちる。
レイが、深く息を吐いた。
「教団は、こう扱うだろう。“救済対象の消失は遺憾”。再発防止を誓い、具体的な名前は出さない。つまり――
光は光のまま、逃げ切る」
自嘲気味な口調。
「昔なら、それを守る側に立ってた」
ソフィが、静かに言う。
「でも今は?」
レイは、即答する。
「否定する側だ」
ジルは、酒を一口飲んでから言った。
「灰の側では、あの村は“記録”になる」
「失敗例として」
「均衡を信じすぎた結果、何も選ばせなかった結果」
アレックスが、眉をひそめる。
「反省は?」
ジルは、少しだけ笑う。
「あるさ。だから裁定者が出てきた。でもね」
グラスを置く。
「灰は、“過去を償う”勢力じゃない。次を止めるために動く」
ソフィが、ようやく杯に口をつけた。
「私たちが出来ることは、一つだけ」
三人が見る。
「同じ構図を、繰り返させない。誰かが決めて、誰かが消える世界を当たり前だと思わせない」
彼女の声は震えていない。
覚悟が、すでに固まっている。
アレックスは、少し考えてから言った。
「村は――」
一拍。
「戻らない」
誰も否定しない。
「でも」
彼は、静かに続ける。
「“仕方なかった”で終わらせたら、次も起きる」
「それだけは、嫌だ」
新しい魔法剣に、手を置く。
「だから俺は、次は、誰かが選ばれる前に立つ」
ジルが、ふっと息を吐く。
「つまり。この事件の結論は?」
レイが答える。
「勝者はいない」
ソフィが続ける。
「正義もない」
アレックスが締める。
「だが、終わらせない」
沈黙。
酒場の喧騒が、少しだけ遠く感じられる。
そして――ジルが笑った。
「上等。一番、面倒な答えだ」
四人は、もう一度グラスを合わせる。
乾杯の言葉は、ない。
その代わり――
それぞれが、同じ方向を見ていた。
中央平原の村は、終わった。
だが、物語は――ここから先へ進む。




