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report.02-2_[マイペース]と[ハウリング]

 とまぁ、そんなこんなで今に至る現在。


「……こ、これイタズラとかですか?」


 当たり前だが、私の思考は手頃な仮説に行き当たった。


『な、何これ……そんなハズ……! こんな悪趣味な真似、やるにしたって誰が……⁉︎』


[“不要”なプログラムの選定を当プログラムが実行するわけにはいきません、権限が認められていません。このPCのユーザーが速やかに行なってください]


 通話越しにそんな即座に弁明の言葉が飛んでくる。そして画面上では相変わらずの、一周回ってどこか呑気にも聞こえてくる調子でアバターのアナウンス(?)も響く。そんな中、画面通話越しのケーコさんの声は真逆で明らかに焦りに焦っていた。相当動揺しているらしい。それはとにかく、こちらの状況は画面越しとはいえ向こうにもしっかり伝わっているようだった。


『昨日の納品されたタイミングではこんな……‼︎』


「つ、つまり、運営さんもコレを一切把握していないってことですよね?」


[当該プログラムは昨日(さくじつ)の活動記録ログを保持していません。繰り返します、当該プログラムは昨日(さくじつ)の活動記録ログを保持していません]


 そんな目の前で人間二人が右往左往する光景を無視するみたいに、アバターはただただ文章を繰り返した。……なんだコイツ、ひょっとして使おうとしたヤツを機械的に煽るようなことを喋る機能でもついてるのか? いや、ちょっと待って。


「“昨日の活動記録”? ……何これ、こっちの言葉に反応したみたいなこと言うじゃん」


[単に“昨日”と聞こえたのでこちらから反応を返したに過ぎません。扱いに対して『不快感』を表明いたします]


「な……何これケーコさん……この通話、傍受さ(ぬか)れてたりしてません……?」


 まただ。どうもこっちの発言内容に対して適切な言葉を選んで反応を返してるらしかった。となるとハッキングか? いや、いま使っているのはインターネット上で広く使われている通話アプリだ、仮にそんなことがあったら大騒ぎになってるハズ。

 それともAIを使ったイタズラだろうか。最近はAIも進化しているという話はよく聞く。そういうことなんだろうか? 今どき、どこのSNSにだってAIのチャットbotくらいの機能は普通にあるし。しかしそれにしては打てば響くようなというか、あまりにも反応速度に時間差(ラグ)が無さすぎるような……。


[謝罪が無いという状態を検知しました、今後の信頼関係を築く上で障害となりかねません。この問題を解決するにはこちらを参照して下さい]


 その言葉と共に画面の端のほうから青色のアンダーバーをくっつけた文字列がふよふよとスライドしてくる。もう見るからに“いかにも”なリンクだ。……このおちょくり方、やっぱこいつウィルスファイルか何かだろうか。


「は? 信頼関係? なんで何事もなく一緒にやってくことになってんのさ! こんなん作り直し(リテイク)に決まってんじゃん‼︎‼︎‼︎」


[先程の、あなたにされていた説明から推測しましたが違うのですか?]


『…………ッッ‼︎ か…………っカ……オルちゃ、待って……耳が……ッ』


「い……あ……ご、ゴメンナサイ…………」


 感極まって叫んでしまい、景子さんの耳に音波攻撃を仕掛けてしまった。それこそ咄嗟(とっさ)に謝ってもそれこそ後の祭りというヤツで。あーもー……!


「とにかく! さすがにこれじゃ配信で使えないですって。今なら元のデータもクリエイターさんのとこにあるでしょうし、また送ってもらいましょうよ。それとケーコさんには通話用で無料のコンプレッサーも良いのありますから教えますね」


『……ふう落ち着いた。あとさ、会社のPCにそういうソフトって入れらんないからカオルちゃんが声抑えるかそっちでソフト入れといてよー』


 取り敢えずはこうするしかない。私とケーコさんが今後のことについて無駄口も交えつつ話し合っているところで。



[当プログラムは破棄されるということでしょうか?]


 うっ。


[当プログラムは破棄されるということでしょうか?]


 Live2Dは抑揚のない声で繰り返す。全く変わらないハズの声に、うっすらと不安やら悲しみのようなものが感じた気がした、ガラにもなく。……こんなデータにそんなもの、あるわけないのに。


『まぁ……これじゃ仕方ないか。わかった、事情話してもっかい送ってもらうね。あのクリエイターさんもクセ強いけど安心して、こういう連絡もマネージャー業務の一環——


「ま、待って! やっぱ待ってください‼︎」


 このトラブルで敬語の仕事モードが吹っ飛んだらしいケーコさんに向かって私はまた叫びそうになる。今回はさっきみたいな絶叫になるギリギリ前で踏みとどまったが、ケーコさんの怪訝(けげん)な顔が通話画面の向こうに浮かんでいた。


『ど、どしたー? 何か気づいたことあった?』


「あ、いや、えっと……」


 切り出したのは私なのに、反応が返ってきてまごついてしまう。今いった提案と正反対なことを他ならぬ自分が言い出すのだ。そりゃ及び腰にもなるよね、うん。


「……あのですね、言ったことをソッコーで無しにしちゃうんですが……突き返すんじゃなくてしばらく放置、じゃなくてコイツを保護するのなんてどうですかね?」


 でも言いづらいからってずっとしどろもどろにはなってられない。諦めてこう切り出す。

 こうやって、私は——というか私たちは。

 こうなった理由もお互いのことも分からないままに、共存のための第一歩を踏み出そうとしていた。

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