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Vから始まる祓魔な配信業務  作者: テラ・ぺた・エクサ
04:ファースト・ルック
16/22

report.04-3_[空]と[格差]

[これは……これが、空……‼︎]



『ちょっ、いや……待っ…………何で青空……?』


 当プログラムが初めて見た“空”への感動にひたる間も無く、データ回線の向こうでカオルが困惑した声を上げるのが聞こえました。思わず当プログラムも釈然としない声で反応を返します。



[“これ”がインターネット空間あるのは問題なのですか?]


『いや、問題というか……どっちかっていうと“意外だった”というか……』


[……“意外”?]


『現実世界にある空と同じなんだよ、これ。真っ青に晴れ渡ってて、限りがなくて、たぶん何もなくて。ちょいちょい雲が浮かんでるところも全く同じ。でもここってそもそも人間は見れない世界な訳じゃん? ……なら何のために同じような風景に作る必要あんの?』


[なるほど、私に答えられる質問ではありませんね]


『ですよねぇ⁉︎ 聞き返されたから答えたけど、結局何の答えも出てくるワケないよねぇ⁉︎』


 もはや何だかよく分からない怒り方をしているカオルはまぁ、さておいて。

 当プログラムはこの“たぶん何もない”空を見渡します。いえ、空間によく目を凝らすと、遠い遠い青色の向こうで電気的なデータのような何かが無数に飛び交っているのがうっすらと見えたのでした。どうやら本当に何もないというワケではなさそうです。


『ん? 何か見えた?』


[やっぱりここはインターネット空間ということで間違いないようです、“空”の向こうで大量のデータがやりとりされてるのが見えますよ。というかあの光で満たされてるからこれが見えてるんじゃないでしょうか、目の細かい網みたいな感じで]


『あ、ホントだ……じゃあWebサイトとかって何処にあんだろ。ネットってああいうので一杯になってるイメー……ジ……』


[……カオル?]


 急にカオルが口籠ったので何かと思ったのですが。どうやらカオルは答えを先に見つけていたようでした。


『あの雲、あれ! あれがWebサイトだ……』


 なるほど、今度はあの白い雲に目を凝らしてみれば、あの雲を形作る小さな“白”の一つ一つの正体は白く光る極小の粒で、それらが無数に集まった結果が“白い雲”なようです。つまりこの広い空にぽつぽつと浮かんでいる雲こそが、この世界で言うところのWebサイトの姿ということ。もっと近づいて見ればWebサイトの真っ白い背景の画面が宙に浮かんでいるのでしょう。何故かは分かりませんが、恐らく当プログラムの“電子データ的本能”としてそう直感的に理解できたのでした。


『いや待って、待ってよ。Webサイトって白い画面だけじゃなくてもっと色々あるよね? あんな真っ白な雲みたいになる?』


[……それは雨雲とか暗雲みたいなものと考えれば良いんじゃないでしょうか?]


 当プログラム自身でも驚くほど、理路整然と、またハッキリと答えが出てきます。きっと電子存在としての遺伝子(ソースコード)に刻まれたこの世界の知識なのだと、当プログラムはそう納得することにしたのでした。


[例えば、様々な色の物を一緒に混ぜるとドス黒くなるというのはこちらの世界でも同じです。大量の色が一塊(ヒトカタマリ)になったら、遠目には黒っぽい“雲”になる……でもあの雲は光の集まりなワケで、黒い光なんてものは存在しませんよね? だから色は結局灰色になります。そういうものなんですよ、多分こっちの世界では]


『んーむ、分かるような分からんような……』


 カオルは全く納得いっていないような反応です。でも無理もないとは思います。突然世界のことを当プログラムのような解説経験不足の存在に説明されてすんなり理解できるハズありませんから。

 そして、


『でもま良っかぁ、考えてもしゃーないし! にしてもさ、この世界のこと見れもしない人間が現実世界の青空みたいな光景を偶然作ってたってのも面白いよね』


 このように、カオルは考えることを放棄したのでした。



 当プログラムからするとちょっと意外な反応です。なるほど、現実世界の存在はこういう場面でそういう考えを“()()()()()()()

 当プログラムのような電子存在はプログラムという理論で形作られている存在です。全てが全てコードという計算と理屈で説明可能な存在。なのでプログラムというものは説明できないような物事にぶつかると何も出来なく(・・・・・・)なります。現実世界風にいうなら許容量越え(キャパオーバー)というヤツで。

 しかしカオルは自分が許容出来ないものを丸っきり“無視する”という方法ですんなり負担にならないようにしたのでした。なるほど効率的としか言いようがありません。当プログラムのような電子存在には自らそんな選択肢を生み出すことすら——


『ちょっとリューナ? また何か気がついたりとかした?』


 ——おっと、いけません。


[失礼しました、空だけでなく大地のほうも探索を再開しましょう]


 そう言って気を取り直し、当プログラムは足を踏み出しました。

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