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下山救世録 (Gesan Kyūsei Roku)  作者: Daophong
5/19

第五章:玉琵琶

**下山救度人げざんきゅうどじん**


物語は、大学生 **呂天陽りょてんよう** を主人公とする。

彼は師命に従い**下山**し、

昼は凡俗の学徒として学び舎に通い、

夜は\*\*道士どうし**として真の姿を現し、

**人間界にんげんかい**に潜む数多の**妖異ようい**、**邪祟じゃすい**、

そして**怪変かいへん\*\*へと立ち向かってゆく。


やがて、幾多の試練を経て友を得、

共に世を乱す闇を打ち破らんと誓う。


---


**陰陽両界いんようりょうかい ことごとく収め**

**邪物じゃぶつ現れし時 如何いかに破らん?**

**判官はんがんすらも 人間界に見えず!**


---


呂天陽は一路**下山**し、

天地を震わせる数百の戦いを経て、

**鬼侯きこう**、**仙妖せんよう**、**凶霊きょうれい**、\*\*邪神じゃしん\*\*と渡り合う。


友と共に\*\*六道三界ろくどうさんがい\*\*を突き破り、

\*\*歴劫れきごう**を乗り越えて**証道しょうどう\*\*へ至らんとす。


挿絵(By みてみん)


呂天陽は眉をひくひくさせ、口元を引きつらせた。

「なんだよ、“応劫して報いを受ける”だと? もし俺が断ったらどうするつもりだ?」


曹燕はぽかんとし、答えた。

「あなたは天師。世を救い、人を護り、魔を祓う――それが法師の責務ではありませんか?」


呂天陽は目を泳がせ、頭をかきながら言った。

「言ってることはもっともだが……あんたは古代に生きすぎて、今の社会を知らんのだろう。

人は変わり、物質も精神も変わり、金が人の目を曇らせる。

得にならんことを、誰がわざわざやるもんかね。」


――結局は報酬が欲しいってことか。

なぜ素直にそう言わんのだ、と曹燕はうんざりして首を振った。

「まったく、末法の世だわ。天師ですら金に目が眩むなんて。」


呂天陽は苦笑しながら言う。

「いやいや、別に金に目が眩んだわけじゃない。ただ……俺、今ほんとに金欠でな。餓死寸前なんだよ。天師だって人間なんだから。」


曹燕は俯き、静かに言った。

「私はちっぽけな邪霊。お金なんて持っていません。」


そう言ってから、自分の体を見下ろし、ちらりと呂天陽に視線を投げた。

呂天陽はその意味を測りかねて、慌てて言う。

「お、おい、まさか……何をする気だ?」


曹燕は唇を尖らせる。

「天師、あなたは私が何を差し出せると思っているのですか? 私に与えられるものは、これひとつだけ。」


呂天陽の脳裏に、くだらない日本のアクション映画のワンシーンがよぎった。

美しい女がベッドに座り、短いスカートから脚を組み替え、指をくいっと曲げて男を誘う……。

一瞬、背筋に冷たいものが走る。


だが――曹燕の次の行動に、彼は思わず目を剥いた。


曹燕は口を開き、その中から青白く光る球体を吐き出したのだ。

まるで透き通る水晶玉のようなその光は柔らかく、しかし強い邪気と霊力を放っていた。


――邪霊の宝珠ぎょくたん


呂天陽は呆然とした。

宝珠とは、邪霊が千年の修行を経て体内に結実させる唯一の核。

生まれ変わり、霊智を得て、邪気を吸収し続け、己の霊力を補い、肉体を築き、修為を高める。

その果てに、体内で結晶するもの――それが宝珠である。


宝珠は本体と密接につながっており、それを壊せば邪霊自身も滅びる。

だからこそ、邪霊が主を認める時、命そのものを託すように宝珠を差し出すのだ。


曹燕の宝珠は大きく、放たれる邪気も尋常ではない。

つまり、彼女は並の邪霊ではない。


宝珠を受け入れねば、いずれ枯れ果てる。

呂天陽は深くため息をつき、手を伸ばしてそれを受け取った。


宝珠が掌に落ちた瞬間、そこに青い琵琶の紋章が刻まれる。


――やはり。


曹燕の本体は琵琶そのもの、すなわち琵琶の精《琵琶子》だったのだ。


呂天陽の脳裏に古書の記録がよみがえる。

長き時を経て天地の霊気を吸収し、琵琶は自ら霊智を開き、人に寄り添う心を持ち、感応の神通を得て人の姿を取る。

それを琵琶子と呼ぶ。


また別の説もある。

ひとりの楽師が長きに渡り琵琶を奏で続け、魂と音がひとつに溶け合う。

その楽師が死ぬと、魂が琵琶に宿り、霊智を生む――そうして生まれたのも琵琶子だ。


さらに材質によって成精の難易も異なる。

玉の琵琶は霊気をよく吸うため最も成精しやすい。

石の琵琶は最も難しく、何百年も有利な地で霊気を浴びねばならない。

木の琵琶は材質によって差があり、良木なら数百年で霊智を持つこともある。


もし正道を歩めば琵琶子。

もし邪道に堕ちれば琵琶精。


かつての封神の戦いには、琵琶精として名高い「玉貴人」が現れ、九尾狐や雉鶏精とともに紂王を惑わした――。


そこまで思い至り、呂天陽は怪訝そうに問う。

「まさか、あんた……あの封神の時代の琵琶精か?」


曹燕は眉をひそめ、鼻を鳴らす。

「私を何だと思っているのです!」


「じゃあ……石製か? 木製か?」


呂天陽が舌を出してからかうと、曹燕は口を尖らせる。

「天師は、女に年齢を聞くような真似を……最低です。……もう、話す気が失せました!」


曹燕はぷいと顔を背けたが、やがて真剣な眼差しで言った。

「主を得た以上、天師。あなたはこの件に向き合ってくれますね?」


「……はあ、断れんだろうな。」


「報酬はいらないのですか?」


呂天陽は肩を竦める。

「欲しいさ。でも仕方ないだろ。」


「なら、学校の校長を頼ればいいのです。

ここは彼の食い扶持。学校に邪霊が巣食っていると知れたら、彼も黙っていないでしょう。

必ずあなたに報酬を払います。」


呂天陽はしばらく考え、なるほどと頷いた。

「いい考えだな。」


そう言って、曹燕の頭をぽんぽんと叩き、指を立てる。

「名案だ、試してみよう。」


曹燕は胸を張り、得意げに笑った。

「人と邪霊の違いは、結局ここです。」


そう言ってこめかみを指差す。

呂天陽は苦笑し、曹燕はさらに問いかけた。

「で、これからどうするつもりですか?」


「今のところ手がかりが少なすぎる。もっと資料を集めねばな。暇なら手を貸してくれ。」


曹燕はこくりと頷く。

「この図書館には多くの書物があります。学校の歴史に関わるものを探して、後で持ってきましょう。……では、失礼。」


そう言うや、彼女はふっと姿を消した。

だが、図書館の奥から声が響く。


「天師! 金儲けのチャンス、逃すんじゃないですよ!」


呂天陽は泣き笑いの表情を浮かべ、深く息を吐いて首を振った。

「誰が金に目が眩むか……。金がなくてもやるさ。これが天師の責務なんだからな。……はあ。」


そう苦笑し、窓辺へと歩み去る呂天陽。

彼は知らなかった。


その言葉を、窓の外の月明かりの下、

闇に潜むひとりの影が聞いていたことを。


その人影は――静かに、微笑んでいた。



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