第十七章 丁姉の策略(ちょうし の さくりゃく)
**下山救度人**
物語は、大学生 **呂天陽** を主人公とする。
彼は師命に従い**下山**し、
昼は凡俗の学徒として学び舎に通い、
夜は\*\*道士**として真の姿を現し、
**人間界**に潜む数多の**妖異**、**邪祟**、
そして**怪変\*\*へと立ち向かってゆく。
やがて、幾多の試練を経て友を得、
共に世を乱す闇を打ち破らんと誓う。
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**陰陽両界 悉く収め**
**邪物現れし時 如何破らん?**
**判官すらも 人間界に見えず!**
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呂天陽は一路**下山**し、
天地を震わせる数百の戦いを経て、
**鬼侯**、**仙妖**、**凶霊**、\*\*邪神\*\*と渡り合う。
友と共に\*\*六道三界\*\*を突き破り、
\*\*歴劫**を乗り越えて**証道\*\*へ至らんとす。
呂天陽が顔を上げた瞬間、三つの怨めしい視線が自分に突き刺さっているのに気づき、しまったと思いながらも、仕方なく気まずい笑みを浮かべ、頭をかきながら話題をそらした。
「えっと、そういえば丁姉、人間界に来たのは亡霊を導くためだけじゃないんですよね?」
悪霊を超度し、妖を捕らえるのは人間界の法師の務め。天地大道の理によれば、陰司は決して人間界の事に干渉してはならない。人を裁くのは人間界の判官たる天師道門の責任であり、呂天陽もその一人であった。ゆえに彼は興味深げに探りを入れる。丁姉はしばらく彼を見つめた後、深くため息をついて答えた。
「お前は勘が鋭いな。私が人間界に来たのは師の命による任務のためだ。この任務は……秘密だがな。」
呂天陽は静かにうなずいた。相手が話したくないなら深入りはしない。知りすぎれば自分に不利になることもあるからだ。彼は隣の高燕を見やり、ふと何かを思い出したように言った。
「丁姉、この小さな邪霊を弟子にしてくれるなら、しばらく彼女を丁姉のそばに置いてもいいですか?」
高燕はすぐに飛び上がった。
「リーダー、私のこと嫌いになったんですか!?」
呂天陽は苦笑いを浮かべて言った。
「いやいや、俺は男だしな。お前みたいな女の子をずっと連れ回すのは、ちょっとな……」
「何がいけないんです?」
高燕が首をかしげる。呂天陽は少し考えて理屈を並べた。
「まず第一に、男と女は節度を持たねばならん。そうだろ?」
「ふーん。」
「それに、俺まだ彼女いないんだ。もしお前がいつも一緒にいたら、女の子たちに誤解されるだろ? それに男子寮には女の子を四六時中置いておけないんだよ。」
そう言って、わざと隣の葉懷安を指さした。
「たとえば彼女が俺の彼女だったら、お前を一緒に住まわせられるか?」
「私は彼女じゃない。」葉懷安が冷たく言う。
「だから例え話だってば。」
呂天陽は柔らかい口調で高燕をなだめた。高燕は不満そうだったが、結局納得してうなずいた。
夜が明けるまで話し込み、呂天陽と葉懷安は先に帰った。丁姉は二人を見送り、車が遠ざかるのを見届けてからほっと息をついた。
店を片付けて閉めようとしたその時、ドアを押さえる手があった。
「すみません、今は営業していませんよ。」
丁姉は疲れた声で言った。しかし返事がない。眉をひそめて振り向く。
「誰?」
高燕はすぐに構えの姿勢を取った。だがその影は中指と親指を軽く鳴らすだけで、恐ろしい気が放たれ、高燕の額に当たり、彼女はその場で気絶した。
「はっ!」丁姉は叫び、掌を繰り出す。だが相手は動じず、冷笑を浮かべる。
「その程度か?」
彼女の掌を相手は軽く掴み、霊力を瞬時に無効化した。丁姉は驚愕した。逆流する霊力の衝突に彼女は即座に塵払いを抜き、払いの一撃で相手を後退させた。
「まさか……お前は!」
相手の無表情な顔に、やがて皮肉な笑みが浮かぶ。丁姉は塵払いを下ろし、かすれた声で言った。
「紫衣人!!」
「その名で呼ぶな。」
「なぜここに……? この数年どこにいたの?」
紫衣人は答えず、高燕が倒れている机に歩み寄り、酒壺を手に取り匂いを嗅ぐ。
「百花酒か。」
丁姉は彼の横顔を見つめ、深く息を吐いた。何年経っても彼の顔は変わらない。紫衣人が酒を口にしようとすると、丁姉が手を掴んで止めた。彼は不快げに眉をひそめる。
「何のつもりだ。」
「先に質問に答えなさい。」
「話す時間ならいくらでもあるが、今じゃない。」
「私は待たない!」
丁姉の瞳に涙が滲む。だがすぐに顔を背け、涙を拭い、落ち着きを取り戻した。
「ここに来た理由を教えなさい。」
「白衣の使者が泣くなんて子供みたいだな。」
「からかわないで!」丁姉は怒って腰に手を当てた。「用もなく私を訪ねるはずないでしょ。何の用?」
紫衣人は小さく笑い、席に座りながら彼女を見つめた。
「数年ぶりに会ったと思ったら、その格好は何だ。」
丁姉は自分の服を見下ろし、くるりと回って元の白衣姿に戻る。
「これで満足?」
「まあ……悪くはない。」
丁姉は満足げに笑い、手を叩くと酒と盃が二つ、ふわりと宙に現れた。
「紫衣人、教えて。今までどこにいたの? 何を企んでいるの?」
彼は答えず、酒を飲もうとした。だがまたも彼女が手を掴んで止める。彼の顔に苛立ちが走る。
「また止めるのか?」
丁姉はいたずらっぽく笑った。「今日は話すまで一滴も飲ませないわよ!」
――普段威張り散らすくせに、今日は観念しなさい。丁姉は心の中で毒づいた。
紫衣人はしばらく黙ってから、低く言った。
「彼は……ここに来たのか?」
「彼?」丁姉は一瞬考え、誰のことか悟ると顔を曇らせた。「来たわよ。」
そして突然怒りの表情で盃を奪い取った。「結局その人のために来たのね! 私を訪ねたわけじゃないのね!」
「盃を返せ。」
「イヤよ。これは私の酒だもん。」
紫衣人は黙ったまま冷たい目で彼女を見た。丁姉は心の中で笑う。――ふふ、今日はこっちが優勢ね。この傲慢で扱いづらい男、どうするのか見ものだわ。
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白衣を纏う若き修道士・呂天陽は、天空に立ち、渦巻く雲海の中から押し寄せる万の妖魔鬼怪を正面から睨み据えた。その眼差しには一片の恐怖もなく、ただ正道を貫く決意と燃え盛る闘志だけが宿っていた。
「天師、人間界を守護す!」




