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下山救世録 (Gesan Kyūsei Roku)  作者: Daophong
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第十六章 白衣の使者(その三)

**下山救度人げざんきゅうどじん**


物語は、大学生 **呂天陽りょてんよう** を主人公とする。

彼は師命に従い**下山**し、

昼は凡俗の学徒として学び舎に通い、

夜は\*\*道士どうし**として真の姿を現し、

**人間界にんげんかい**に潜む数多の**妖異ようい**、**邪祟じゃすい**、

そして**怪変かいへん\*\*へと立ち向かってゆく。


やがて、幾多の試練を経て友を得、

共に世を乱す闇を打ち破らんと誓う。


---


**陰陽両界いんようりょうかい ことごとく収め**

**邪物じゃぶつ現れし時 如何いかに破らん?**

**判官はんがんすらも 人間界に見えず!**


---


呂天陽は一路**下山**し、

天地を震わせる数百の戦いを経て、

**鬼侯きこう**、**仙妖せんよう**、**凶霊きょうれい**、\*\*邪神じゃしん\*\*と渡り合う。


友と共に\*\*六道三界ろくどうさんがい\*\*を突き破り、

\*\*歴劫れきごう**を乗り越えて**証道しょうどう\*\*へ至らんとす。


挿絵(By みてみん)

---




呂天陽リョ・テンヨウはゆっくりと目を開いた。

——神跡のような光景が消え、静寂が戻る。


「……夢、なのか?」


彼は周囲を見回した。

ディエップ・ホアイアン(迪懷安)はまだ傍らに立ち、

カオ・エン(高燕)も同じ場所にいた。


夢ではない。幻でもない。

ただ時間が、すべてを巻き戻したかのように——。


カオ・エンがしばらく呆然としていたが、やがて袖を引きながら言った。

「だ、大哥だいか……さっきのは一体なんだったの?

 白衣の使者はくいのししゃは? どうして何もなかったみたいになってるの?」


リョ・テンヨウも首を振った。

その時、軽い咳払いの音が聞こえた。

二人が振り向くと、テイ姉(丁姉)とディエップ・ホアイアンが向かい合って座っていた。


さっきの出来事を思い出しながら、リョ・テンヨウはゆっくりと立ち上がり、

口元に笑みを浮かべ、道門の礼をとりながら恭しく言った。


「——白衣の使者はくいのししゃ殿。」


テイ姉はうっすらと目を開け、手を軽く振った。

「……はぁ、やめてくれ。やっぱり“テイ姉”と呼ばれるほうが落ち着くの。」


リョ・テンヨウは気まずそうに笑い、興奮気味に言葉を続けた。

「信じられませんよ……あの大名鼎々たる白衣の使者様が、

 人間界に降りてきて、亡魂を超度されるなんて!

 この話が法術界に伝わったら、大騒ぎになりますよ!」


白衣の使者——その名は天下に轟いている。

もし法術界の者たちが彼女の所在を知れば、

群れをなして押しかけてくるに違いない。


伝承によれば、大帝の麾下には「四大聖使者しだいせいししゃ」が存在する。

彼らは大帝直属の特使であり、それぞれが異なる任務を担う。

まるで古代の欽差大臣、あるいは現代社会の特派官のような存在だ。


そのうち、名が広く知られているのは「紅衣の使者こういのししゃ」と「黒衣の使者こくいのししゃ」である。


紅衣の使者は大帝の聖旨を代読し、昇進・戦勝・恩赦などの吉報を告げる役目。

一方、黒衣の使者は戦乱・刑罰・滅亡といった凶報を伝える任を負う。


残る二人の使者のうち、一人が白衣の使者。

その身分は極秘とされ、ほとんど姿を現さない。

彼女は主に、法術界や陰司いんすの特別な任務を受け持つ存在だという。


過去に数度、陰司で姿を見せたことがあるが、

それも単なる補佐や謁見の場に限られていた。

それでも——

彼女が「大帝の代理」として現れるという一点だけで、

三界すべての存在が頭を垂れるのだ。


そして、ただの名義ではない。

彼女は大帝の直弟子——第二代弟子にして、

その実力は……言うまでもない。


リョ・テンヨウは酒を注ぎ、一息に飲み干した。

「まさか、そんなお方が人間界で酒場を開いて、

 こんな普通の生活をしているなんて……想像もできませんよ。」


四大聖使者のもう一人——それが「紫衣のしーのひと」である。


この人物については、ただの一度も公の場に現れたことがない。

大帝とごく一部の長老しか、その姿を知らぬという。

三界・陰司の誰もが噂する、まるで伝説のような存在。


彼が誰なのか、何をしているのか、どこにいるのか——

誰も知らない。

だが確かに「存在している」と信じられているのだ。


リョ・テンヨウは苦笑しながら杯を置いた。

背後で、カオ・エンが怯えたように身をすくめていた。

彼女はもとより邪霊であり、

こんな超格上の存在を前にしては落ち着かないのも無理はない。


ディエップ・ホアイアンはその様子を見て笑い、指を軽く動かして呼んだ。

「こっちへおいで。」


カオ・エンはおそるおそる近づき、ディエップの隣に座った。

「……そんなに怯えてどうしたの? まさか、テイ姉に食べられるとでも?」


「ち、違うのよ姐さん……」


「姐さん?」

ディエップが呂天陽を見ると、彼も同じく真っ赤な顔で固まっていた。


「ちょ、ちょっと待って、“姐さん”って、私のこと!?」


「ぷっ、あはははっ!」

テイ姉が噴き出した。

「なるほどね、もう“義姉あね”扱いされてるのかい?」


呂天陽は咳払いして、顔を真っ赤にしながらカオ・エンを睨んだ。

「お前なぁ……もう少し慎みを持て。でないと、テイ姉——いや、白衣の使者に鍛え直してもらうぞ!」


「だっ、だめぇ! 大哥、そんなのひどいよ!

 この前まで“安全第一”とか言ってたのに、今度は修羅場に放り込む気!?」


カオ・エンは泣きそうな顔で呂天陽の腕にしがみつく。

女の涙——それが彼の唯一の弱点だった。


「……わかった、わかった。渡さない、放り込まない。これでいいだろ?」


「うんっ! やっぱり大哥は優しい~」

カオ・エンはたちまち笑顔に戻った。


テイ姉はふと真顔になり、呂天陽に言った。

「リョ、私が人間界にいること——誰にも言わないでね。」


「承知しました。」

呂天陽が頷くと、彼女の視線がカオ・エンへと向いた。


「あなた……“玉琵琶ぎょくびわ”ね?」


カオ・エンはびくりと身を震わせた。

たった一目で正体を見抜くとは——その力量、想像を絶する。


「そ、そうです……」


テイ姉は微笑んで言った。

「あなたは邪霊ではあるけれど、正道を歩む霊。

 それに、道家の法も修めている。

 私があなたを捕らえる理由などないわ。

 時々ここへ来なさい。少し教えてあげることもあるかもしれない。」


「えっ……!?」

カオ・エンは目を丸くして固まった。


ディエップ・ホアイアンは横で笑いながら言った。

「ふふっ、まさか弟子入りでもさせるつもり?」


テイ姉は肩をすくめた。

「だって、ここ退屈なのよ。ゲームばかりも飽きたし、

 たまには話し相手くらい、いてもいいでしょ?」


「じゃあ決まりっ!」

カオ・エンは嬉しそうにテイ姉の肩を抱きしめた。

「姐さんの義姉様なんだから、私にとっても“姉上”ね!」


リョ・テンヨウは呆れ顔でため息をついた。

「……さっきまで怯えてたくせに、もうこれか。

 ほんと、女って生き物はわからん……」



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挿絵(By みてみん)

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