第十五章:白衣の使者(パート2)
**下山救度人**
物語は、大学生 **呂天陽** を主人公とする。
彼は師命に従い**下山**し、
昼は凡俗の学徒として学び舎に通い、
夜は\*\*道士**として真の姿を現し、
**人間界**に潜む数多の**妖異**、**邪祟**、
そして**怪変\*\*へと立ち向かってゆく。
やがて、幾多の試練を経て友を得、
共に世を乱す闇を打ち破らんと誓う。
---
**陰陽両界 悉く収め**
**邪物現れし時 如何破らん?**
**判官すらも 人間界に見えず!**
---
呂天陽は一路**下山**し、
天地を震わせる数百の戦いを経て、
**鬼侯**、**仙妖**、**凶霊**、\*\*邪神\*\*と渡り合う。
友と共に\*\*六道三界\*\*を突き破り、
\*\*歴劫**を乗り越えて**証道\*\*へ至らんとす。
---
呂天陽の額には、玉のような汗が滲んでいた。
まさか、あの男が不意打ちを仕掛けてくるとは——一瞬の油断だった。
通常の鬼魂が一定の修行段階に達すると、それぞれ独自の攻撃術を生み出すものだ。
あの男が放ったのは「魔眼一撃」――怨霊級の鬼が会得できる秘術の一つ。
彼らは修行の過程で「気海」の穴に自身の修為を注ぎ込み、
それを蓄積することで修練と防護を兼ねる。
その中でも怨霊は「魔眼」を生成することで知られており、
魔眼は気海および命門と連動して三十六の死穴を守護する。
ゆえに法術界ではこう伝えられている——
「鬼を捉えんと欲するなら、まずその魔眼を見抜け」と。
魔眼の位置は鬼魂によって異なり、手のひら・足の裏・口中・腹部など
様々な箇所に隠される。
本来なら呂天陽の実力をもってすれば怨霊一体など敵ではない。
だが、今回は油断が過ぎた。
「——フッ」
呂天陽は掌に気を流し込み、魔眼から放たれた霊光を徐々に侵蝕していく。
口の中で《驅邪呪》を唱え、邪気を祓い、
やがて霊光を逆流させて元の主——王と呼ばれる怪人へと叩き返した。
王の怪人は「ぐはっ」と呻き、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
呂天陽が息を吐くと、怪人は慌てて膝をつき叫んだ。
「大法師様っ! 命ばかりはお助けを!」
その言葉とは裏腹に、彼の眼には憎悪の炎がちらついていた。
——今は敵わぬ。だがいつか、この仇を。
そんな思念が透けて見える。
呂天陽は冷ややかに言った。
「……いったい、いくつの生魂を殺めた?」
「な、なにを……?」
「百ほど、でしょうか……」
「その百の魂、そなたに仇を成した者たちか?」
王は口角を吊り上げ、嗤った。
「大法師は、天に代わって裁きを下すおつもりか?
忘れぬことだ。我もまた“生魂”——人間よ。
そなたに我を殺す権利はない。地府に引き渡すのが掟であろう?」
「……その通りだ。掟では、我はおまえを殺せぬ」
呂天陽もそれを認めた。
たとえ相手が鬼を喰らう外道であっても、
法師は人の生死を勝手に決してはならぬ——それが戒律であり誓いであった。
しかし——。
彼は静かに立ち上がり、剣を抜いた。
「だが——もし我が手を汚さずして、あの百の魂に顔向けできるか?」
「だっ……大法師——!」
その声を無視し、呂天陽は桃木剣を掲げた。
刃に符文を刻み、呪を唱える。
次の瞬間、剣光が唸りを上げ、王の頭上を斬り裂いた。
怪人は両腕を交差させて必死に防ぐが、
剣風はそのまま彼を切り裂き、魂を無数の光粒へと分解して散らした。
「——やった! 見事だ!」
周囲にいた鬼魂たちが手を叩いて歓声を上げる。
迪懷安も微笑み、
高燕は呂天陽の腕に抱きついて言った。
「やっぱり大哥、英明ねっ!」
呂天陽は顔を真っ赤にして苦笑するしかなかった。
——その時。
「流天師、お見事。まこと見事。見惚れましたわ」
不意に、どこからともなく響く女声。
その声に聞き覚えがある。だが、迪懷安のものではない。
「——誰だ!?」
呂天陽が振り返ると、
そこに現れたのは白き衣をまとった一人の女だった。
白い漢服の上に雪のような白衣を羽織り、
長い髪を高く結い上げ、そこに白玉の簪を挿している。
背には塵払、手には羽扇。
その容貌は古の仙女のように清雅で、額には蓮花の印が輝いていた。
「——丁姉っ!?」
呂天陽が思わず声を上げる。
丁姉は両手を背に組み、柔らかく微笑んだ。
迪懷安は彼の傍に寄り、囁く。
「さっき言ってたでしょう? 彼女の正体、知りたいって」
その言葉と同時に、周囲の鬼魂たちは一斉に跪き、
声を揃えて叫んだ。
「白衣の使者様に拝謁!」
呂天陽の目がまん丸になる。
「——白衣の使者、だと……!?」
高燕も息を呑み、慌てて膝を折った。
丁姉は表情を引き締め、厳かに言った。
「王国林、李小風、韓林。」
呼ばれた三人の鬼魂が前へ進み、深く頭を下げた。
「そなたら三兄弟、生前は墓荒らしを生業とし、
不孝・暴虐・博打・女色に溺れた。
死してなお地府の裁きを逃れ、鬼節に乗じて鬼差を買収し、脱走した——」
「……だが、悔い改め、我に従った功を考慮し、
今宵、地府へ送り返す時が来た。」
袖を払うと、空間に黒い裂け目が生じ、
そこから角兜を被った黒鎧の鬼差が現れた。
左手に鎖、右手に鬼令牌、背には帥旗。
「命を受け、北の河を渡り、両岸に気を配れ。奴らの目を逃れるのだ。」
「はっ!」
鬼差たちは鎖で三兄弟の手を縛り、
丁姉に一礼して北へと飛び去る。
残された丁姉は小さく息を吐き、残る鬼魂たちに命じた。
「お前たちも持ち場へ戻れ。」
その一言で、空間が割れ始める。
周囲の景色が硝子のように砕け、
まばゆい光が視界を覆った——。
呂天陽は一瞬、目眩を覚え、次に目を開けた時、
彼は再び同じ酒場の中にいた。
何も変わっていない——すべてが夢のようで、現のようだった。
---




