表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/51

9-2 ドワーフの村とトラップ講座、はじめます

 

 しかし、和やかに休んでいる暇はないらしい。千早が私に回復を図る隣で、イサハヤとドワーフ族の長たち大人組は深く話し込んでいる。

 たまたま此方に向かっている最中に山賊とタイガルドに遭遇したこと、その山賊が物理防御のペンダントを持っていたこと、それには呪印があって最後はその力で殺されてしまったこと。

 事情を聴く間、ドワーフ族の長老は胡坐をかいた状態で長考していた。

 しかし、全ての話が終わり、それから子供たちが無事に戻ったことをもう一度確認をすると、長老は安堵するように深く息を吐き出した。そして、拳を地面につけて深く頭を下げるとゆっくりと語らい始めた。


「ある夜に突然仮面の男が現れ、村の工房を襲った」

「初めは山賊だった。しかし我らはドワーフ族。わしらがこの坑街に設置したトラップで多くは逃げ帰ったのだが……そこに仮面の男がやってきたんです」

「奴は何かを探していた。金でもない、銀でも、金になるような宝石でもない何かを。……途中、うちの若いモンも立ち向かいましたがてんで駄目で、何人かやられてしまい……」


 長老は、地面につくほどの長いひげを摩るようにして触りながら語る。

 その声色は力ないもので、イサハヤが静かに尋ねる。


「ドログは」

「………いえ」

「……そうか」

「……その後、ポログと、ロログだけは引き離されてしまい……本当に私たちの孫をありがとうございました」

「いや、助けたのは私ではなく彼らだ……それで、結局一体何を獲っていったんだ」

「それが……ミスリルや、アダマンタイトを」

「ミスリルとアダマンタイトって確かすっごい珍しい鉱石じゃなかったっけ?」


 色々とイサハヤさんと長老の話を聞いても分からないことだらけだけど、ミスリルとアダマンタイトは元の世界に居たときにオタクくんから聞いたことがある。

 大体こういう異世界で武器を作るときには、強い鉱石を使う必要があってその鉱石の最上位がミスリルとか、アダマンタイトなんだって。

 その時はミスリルなんて、某バンドじゃんくらいにしか思ってなかったし、アダマンタイトに関してはなんにも思い浮かばなかったけれど、やたらとゴロが良くて覚えやすいなぁということをよく覚えている。


「芽衣、お前よく覚えてんな」

「隣の席のオタクくんが熱心に教えてくれるからさぁ」

「隣……って田中か」

「そそ」


 いや、今はそのオタクくんもとい田中くんの話はどうでもよくって。

 話を戻すように「それを盗まれたってことはやばいってこと?」と尋ねると、長老は手癖のようにまた髭を触りながら言った。


「それが、盗んだのは精錬したものではなく、原石でして」

「……未精錬品を?精錬品には手をつけてないのか」


 精錬とか原石ってなんだ。よく分からずハテナマークをいっぱいに浮かべていると、朝陽が顔をベチンと叩いて囁いた。


「原石はそのままのゴツゴツした石で、精錬品は余計な部分を削ったりして加工したものだ」


 なるほど。お米とかも収穫したあとは、精米するもんね。

 フンフン頷いていると朝陽が分かってんのかコイツって顔を見てきたが、話は続いている。私たちは話に耳を傾ける。


「ええ、盗んだアダマンタイトやミスリルを保管していた場所には精錬品も多くあったのですが、それらには手をつけられていない状態でして」

「……妙だな」


 その言葉に尋ねる。


「何が妙なの?別に盗むなら原石でよくない?」


 その言葉に、イサハヤは笠から下がる石を揺らしながら呟いた。


「ミスリルやアダマンタイトで武具を強化する場合、まずはミスリルやアダマンタイトの原石を精錬する必要があるんだ。その精錬も、ミスリルやアダマンタイトともなると、そう簡単には精錬できない」

「ああ、それなのに精錬品は持って行かず、そのまま原石だけを持って行ったから妙なんだ」

「じゃあその未精錬品の原石は何に使うんだ?」

「原石の状態は豊富に魔力を含んでいる。だから魔力の増幅が目的かもしれん」


 突然やってきた謎の男に、盗まれたミスリルとアダマンタイト。魔力の増幅。それら要点が繋いだ答えは最悪の事態だろう。……きっと、ロマネルクに繋がっている。

 それこそ、ここにやってきたのもロマネルクだろう。


「ねぇ、他には何か言ってなかったの?」


 長老は少し考えこんだ後に言った。


「大した会話はなかったが……しかしテンイシャがどうこうと……」

「テンイシャ……転移者のことか」

「どういうこと?私たちは転移してきたなんて一言もいってないのに」

「先代の勇者たちが転移者であることを知っていたんでしょうか……」

「いや、前の戦いではそれらしいことをいってはいなかったが……もしかしたら、お前たちが転移者であると気付いたのかもしれないな」


 沈黙。五人の顔が曇り、小さく零した。


「じゃあ、増々やばいんじゃない?」

「……あまり、長居はできんな。……いや、しかしお前たちが無事なようで良かった。」

「しかし、イサハヤ殿が此処へ来るとは……もう一度旅立つので」

「ああ……それでお前たちにトラップについて学びたく訊ねさせてもらったわけだ」

「そうでしたか、それはそれは。我らドワーフ族はトラップと共に生きる者、ぜひ覚えてもらいましょうとも」

「へー……」

「これから行こうと思っているところはトラップの多い場所だ、まぁ、覚えておいて損はないだろう」

「まぁ、たしかに」

「頼めるか、アルテラ」

「ええ、うちの若いもんにやらせましょう」


 場所を移して、坑街の一角。崖のように削られた岩場の先に、訓練用の通路があった。

 案内役を任されたのは、オールドという名の職人だった。がっしりした体格に、前髪を後ろに流したオールバックと、鼻筋を横切る大きな傷。肩に担がれた鉄のハンマーは、見るからに年季が入っている。


「まずは基本中の基本だ。……そこの床を見てみな」


 彼が顎で示したのは、ごく普通の石畳だった。

 誰がどう見ても、特別な仕掛けがあるようには思えない。


「え? ただの床……にしか見えないけど……」


 小さく呟いて、ミズキや千早、それから朝陽と燈夜も同じように首を傾げる。どうみても間違い探しの領域で、その様子にオールドはにやりと笑うと、足元に落ちていた小石を拾い、軽く放った。

 ぽーんと放たれた石が床の中央に触れる。その瞬間、ガコンッと鈍い音を立てて一部が沈んで、黒々とした空間――落とし穴が口を開けて近くにいた朝陽が後ずさった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ