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8-3 山賊とタイガルド

 

「ダーッハッハッハ!何かうめぇモンの匂いがすると思えば売るのには丁度良さそうな女がいるじゃねえか!」


 筋骨隆々な恰幅の良い男に、その手下っぽい男が二人。恰幅の良い男が間違いなく親玉だろう。なんとも分かりやすくて結構なことだが、値踏みをするような視線はいかがなものか。

 女性陣に向かった視線は品が無く。舌なめずりをする動作も、それからその両脇でニヤニヤと笑う男たちも不快でしょうがない。

 さらに、その下では――濡れたような黒い毛並みを持ち、雷光のように鋭く光る目をした虎型の獣が三体構えていた。背に乗る者すら威圧するような逞しい体格で、地を踏み鳴らすたびに岩がビリつくような感覚すら走る。

 喉奥で雷を宿したようなゴロゴロと言う唸りと、興奮気味に吐き出される息。その吐息には熱と涎が混じって、足元に雫が落ちる。


「あいつらは一体……」

「……あの男たちは山賊だろうが……なぜタイガルドを従えているんだ……」


 イサハヤさんの言葉に耳を傾ける朝陽と燈夜が、彼の抱いた違和感を危険と捉えて刀を構える。ミズキはその背後で武器ではなくクラフトペンを手に持ち、何かを仕込んでいる様子が見えるが……もう少し時間を要するか。

 彼らの前に立つイサハヤは腰に下げた大太刀を構えて違和感に目を細めるも、答えは出ない。

 それよりも、ちらりと視界の端に映った下っ端の男が持つ白い袋が気になる。

 もぞもぞと外側に跳ねるように動いている袋。――何か、嫌な予感がする。


「芽衣、分かるか」


 私は言葉なく頷き、気配察知のスキルを使って耳を澄ませる。それから、数秒と立たずに"音"を捉えた私は、思考の間もなく踏み込むようにして親玉に向けて飛び出した。


「……ッお、まえええええッ!」


 その様子に朝陽たちがどよめく。

 私が──明確な怒りを滲ませていたからだ。


「おっとォ!ちいせえのに随分と勇ましい女だ……嫌いじゃねえがな!」


 しかし、ガントレットナックルで殴るには軌道も、手段もすべてが馬鹿正直すぎた。真っ直ぐに飛び込んだそれは当然のように不発。一発殴りこむどころか、まるで壁にぶつかったように跳ね返されてしまったのだ。

 猫のように身を翻して着地をすると、唇をかみしめて声をあげた。


「ッアイツ!あの袋に”誰か”を入れてる!」


 その言葉に一瞬にして意識が白い袋へと向く。

 しかし親玉はその激高する様がおかしくて仕方がないらしい。体勢を整えた私が同じように飛び込むと、手を前に突き出して打ち込む拳を同じように見えない壁で受け止めた。


「ん……っぐ……ッ!」


 突き出した手は確かな手応えを捉えていた。だが、見えない壁に阻まれて一歩も進めない。ガントレットの先はバチバチと火花を立てて、音を立てる。激しい光が瞬いて、髪を靡かせる衝撃が走るものの、これ以上の攻撃は通らなかった。


「フウ――…ッ行くよ、四、連華ッ!」


 踵落としに右手アッパーカット、左手フック、それからくるりと腰を捻って回し蹴りに追撃を加えてその壁の正体を探る。同じ距離感で見えない壁が阻み、弾かれ、息ばかりが上がって親玉が顎を仰け反らせながら笑い、唾を吐いた。


「ハッハァ!!無駄無駄ァ!一番のタンカーが弱ぇなぁ!」

「おい芽衣!何があった!」

「ッわかんない!何か壁があるみたいで攻撃が通らない……!っでもあの袋に、たぶん子供がいる!!」

「はぁ?!」


 ああ、全くいやな世界だ。この世界にはモンスターも魔王もいるのに、こんなに堂々とした子供攫いまでいるのか。

 なんにせよ、であればこのまま彼らをいかせるわけにはいかない。

 朝陽と燈夜、それからミズキは合図なく踏み出して、まずは様子見に切りかかる。


「なっ……!?」


 驚きに滲んだ声は、朝陽のものだった。

 双子の鋏太刀が交差し、ミズキの変形刃が唸りをあげる。だが、それらは全て相手の体に届く寸前で弾かれた。まるで、何か透明な膜、あるいはドームの中に敵が閉じこもっているかのようだった。打ち込んだはずの一撃は弾かれて焦りが滲んだ。


「くそっ、こいつら……物理攻撃が通らない⁉」

「魔法はどうだ――ウインド・シューター!」


 ミズキが矢のない弓を引き絞る。次の瞬間、風の刃が唸りを上げて敵へと走る。

 すると、それまで余裕を見せていた男たちが、はじめて目を見開き、慌てたように横へと跳び退いた。


 ……成程。

「物理攻撃のみ跳ね返しているようだな……」


 イサハヤさんの低い声が、鋭く場の空気を断ち切った。

 ──物理攻撃を跳ね返す?チートすぎない?というか物理攻撃を跳ね返すってことは私の攻撃は全部通らないってことじゃない。

 魔法にしては詠唱をしていないし、魔法を使ったときに見える魔力の残骸も見当たらない。魔法由来のバフではないのなら、アイテム由来のもの?――心当たりを探して双眼を細めると、男たちの首元でキラリと煌めくペンダントが目に入った。それも三人揃いの品だ。どう考えても怪しい。


「イサハヤさん!あのペンダントは!!三人でおそろっちだよ!」

「あれは……“物理防御のペンダント”をなぜおまえたちが持っている!」


 男三人で御揃いのペンダントなんて、きょうび目にすることはない。これが、ネズミーランドとかそういうテーマパーク内だったらお揃いのお土産が多いから、テンション上がっちゃって購入しちゃうのも分かるんだけどさ。テーマパークなんてないし。ましてやあの山賊たち、どうみたって三十代すぎのおじさんだし。

 イサハヤが周りにそれが原因だと示すよう、わざわざ物理防御であることも出して尋ねると、山賊の親玉が大きく口を開いて笑い、手を向けた。


「おお、随分と気付きが早いな!そうさ、このペンダントは物理防御のまじないがついている。……それで?気付いたところでおれたちに勝てると思ってるのか!」


 男たちのハンドサインを見て、左右のタイガルドが岩を踏みつけて此方へと飛びつきながら鋭い爪を向ける。上に乗る山賊も随分と身軽なようで、爪で切り裂いてくるタイガルドの爪を弾くことで精いっぱいなミズキに向けて、手にしたサーベルで横に切りつける。なんとも厄介な戦い方(コンビネーション)だ。

 ミズキはそれに後ずさった瞬間、足場の悪さから足を滑らせて体勢を崩したことで避ける事が出来たものの、運が良かっただけか。

 サーベルの爪が頬を霞めて、ミズキの頬にツウと赤い一本線を引いた。


「……ッぅ、く」


 それでも、いまこの場で手を止める事は出来ない。最後の攻撃だと両手を持ち上げて上半身を起こし、力任せに踏みつけようとするタイガルドの攻撃を武器を盾に変形させることで防ぐ……が、


「おも、すぎ、る……ッ!」

「オラオラ!防ぐだけでちゅかぁ~?!」


 タイガルドの上には手下が乗っているからより重いのに、小馬鹿にするように煽られて怒りが先に沸き起こる。しかし、いくら強固な盾があったって、タイガルドという虎型のモンスターと大人一人の重さを弾き飛ばすだけの力は無い。


「こ…ッの……調子にの、……って!」

「ここで降参したら助けてやるよ、そうなったらお前たち女は全員奴隷だろうがなァ!」

「だれ、がっ、奴隷なんか、……にッ!」

「さあ、さあ、さあ!売り物に傷はつけたかねえからなぁ!さっさと命乞いでもしたらどうだ女ァ!」

「ウー・グルルルゥゥ!!」


 迫る手下が吠えて、タイガルドも此方に体重を預けながら吼える。

 盾に向けられた爪は深い傷跡をつけ、ミズキはそれを受け止めるしか出来ず、肩が軋んだ。


 ……駄目だ、次の手を出す事が出来ない。

 自慢の変形武器だって、こうやって盾を構えて受け止めることで精いっぱいだ。


 腕に呻くと、次の瞬間、甲高い声がその場を遮った。


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