7-4 地中雪林の突破者たち
燈夜は、冷静にアイスゴーレムのパターンを見ていた。
右に腕を振るい、左に腕を振るい、両手を広げてグルグルと大回転。タイミングをかえて両手を振り下ろしてアイスウェーブ。……そういえば、現代でも巨大生物を倒していくゲームをやっている時も、まずは攻撃パターンを覚えていたっけ。
暫くは防御に徹し、攻撃パターンを見極めたうえで、折れた剣でアイスゴーレムを叩く。右腕、左腕、足、膝、胸。……どれも硬すぎて攻撃は入らず、弾かれる腕がそろそろ痛くなってきた。アイスゴーレムもその間鬱陶しそうに腕を振るうが、攻撃パターンは見極め済みだ。大振りする腕を避けて背中に回り込んで切りつけた瞬間、カンッと甲高い音が入って、背中に大きく線が入った。
――ここだけ異様に柔らかい!
「………ッ朝陽!背中だ、背中が柔らかい!」
「了解!こっちの蔦は、上にある赤い木の実みたいな部分が本体だ!」
そうと分かれば早い。なんせアイスゴーレムは上空に対抗するだけの攻撃手段がない。
飛び上がって上にある蔦を構う間はこちらに攻撃が向くことはなく、アイスゴーレムの、頭を踏み台代わりに飛び上がった燈夜は迎いくる蔦を払い、朝陽とは別に蔦の根本にある赤い木の実を狙った。
「はぁ…ッ!ファイヤーボール!」
ゴオッと炎の球が赤い木の実を焼き、いくつかの蔦が落ちる。パラパラと蔦が降り落ちるなか、燈夜と朝陽は記憶した攻撃パターンをもとに避け続け背中を狙う。――そしてついに、数度の攻撃を経て朝陽の刀身が背中を突き刺した。
ほどなくアイスゴーレムの体がガラガラと崩れ落ち、衝撃で白い雪煙が上がる。
朝陽と燈夜は二人で横に並び、握った拳をゴツンと当てた。
「はぁ……っはぁ……ッ……やったな、燈夜」
「ああ……はぁ………はぁ……流石に疲れた」
凍てつく空気が喉を焼き、白い息が激しく脈打つたびに煙のように揺れた。頬に当たる風は容赦なく、汗が瞬時に凍りつきそうだった。
ダンジョンとは覆われた場所である筈なのに、一体どこから風が吹いているのだろう。ビュウビュウと吹き荒れる冷たい風が汗を冷やし、震えが止まらない。二人は汗が凍らぬよう拭い、イサハヤの元へと向かうと笠に積もる雪を落としながら立ちあがり、静かに呟いた。
「見事だ。……これまでお前たちはただ切るだけ、ダメージを与えるだけが多かったように思うが、うまく今ある手札を使い、それから冷静に動きを学んだな」
「お陰様で……でも、修行場所がどうしてこの洞窟なんだ?」
朝陽が訊ねる。確かに足場は悪いし、上からも下からも違うパターンで攻撃がくる。まさに修行場所としてはピッタリの場所だ。しかし、この洞窟に入るとき、ガチガチに鎖などで封鎖されていた入り口部分が気になったままで尋ねると、イサハヤは静かに答えた。
「……あぁ、此処は封鎖したダンジョンなんだが、まだ色々と宝箱やモンスターが残っている状態でな」
「へぇ、それまたどうして?」
「此処はすでにダンジョンクリア済なのだが、物に興味がなくてな」
「ああ、そういうこと。でもどうしてダンジョンを封鎖したんだ?」
「先ほど見たとおり、此処は色々と人手が足りていない村だからな。その状態で、洞窟に入ってなにかあってもすぐには動けない」
「成程な、それで此処を封鎖し続けていたわけか」
「……でも、俺の武器折れたんだけど」
たしかに修行はありがたかったが、武器が無くなるのは痛い。折れた剣を握りしめたまま言うと、笠から下がる石を揺らすイサハヤは「大丈夫だ。お前たちを連れてきたわけは、武器変更も兼ねているからな」そう言って自分の背後を指さした。
「そいつは、鋏太刀。本来二刀流が使う武器だが……お前たち双子ならば一振りずつ使いこなせるだろう」
雪の中に突き立てられた二振りの刃は、月光を受けて青白く輝いていた。
刃は互いに噛み合うように交差し、まるで“閉じた鋏”のような形状をしている。
「……」
「これが、鋏太刀……」
燈夜が無言のまま柄を握ると、冷気が手元に伝わる――。
朝陽もまた、もう片方の柄に手を伸ばし、ゆっくりと持ち上げる。二人の手が武器を握った瞬間、鋏太刀はまるで待ち望んでいたかのように、わずかに震えた。
七話おしまい。
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