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7-3 折れた刃と燃えない炎

 朝陽と燈夜、イサハヤは積もった雪を踏みしめていた。

 白く凍り付く吐息に、感覚を奪っていくほどの冷たさ。此処はイサハヤが代理領主を担うランコットにほど近いダンジョン《《地中雪林》》。地下に続く階段を下りた先には雪が積もっていた。

 一体どこから降っているんだとか、そもそもどうしてこんなところに雪があるのかとか。色々と聞きたいことはあるのに、魔物とはまったく空気が読めないらしい。音もなく這いよる蔦がとつぜん足を絡めとると、まるでマグロの一本釣りのように力任せに吊り上げた。


「おわっ?!ちょ、なんだよこれ!」


 吊り上げられた体は天井近くまで。足に絡む蔓は骨まで折ってきそうな勢いだが、吊るされたお陰でこの《《地中雪林》》を見渡せるようになった。

 随分と広いダンジョンだ。イサハヤ曰く、このダンジョンは階数があまり無いかわりに横に広いらしい。気温や雪のことはあるけれど、此処まで広ければ地上で最悪の事態が起きた場合には避難する選択肢もありそうだな。

 ……まぁ、それにはこの厄介なモンスターたちの討伐が必要そうだが。


「いいか、朝陽。すべてのモンスターには弱点と言うものがある。それを見極める事がお前たちの上達方法だ」

「と言ってもなぁ……!」

「よって、魔法はファイアーボール系の初級魔法のみとする」

「はぁ?!」


 大声を出しているわけでもない筈なのに、よく通る声に舌を打つ。

 普通はもっと見極めの方法を教えるとか、小さな動きもしないものから練習を始めるとか段階を踏むものじゃないのか?

 確かに、半端にゲーム知識があるせいで兎に角殴れば倒せるとか、草には炎が強くて、鳥には雷が強いとかそういうことは知っているから多少のごり押し感があったことは認めるが、それにしたって急すぎるというかスパルタすぎる。


 足首がミシミシと軋み始めた頃合い、俺は剣を振るって足に絡まる蔦を切る。それから落下する合間にウゾウゾと蠢く蔦の根本にある蕾に向けて、ファイアーボールを打ったのはいわゆる試しうち。

 狙い通り、火炎球は蕾を飲み込むようにして燃やしつくすものの――天井びっしりに生えている蔦型の植物をすべてを一掃することは難しかった。……であれば、あくまでファイアーボールの範囲内で、大きさを変えて打ち込んでみようか。


「物は試しだな……」


 剣を右に、それから開いた左手に魔力を集中させて、産み出したファイアーボールに油を足すよう魔力を注ぎ込んで大きく広げる。ゴオゴオと燃え盛る炎は魔力の注入により一層膨れ上がり、周囲の空気が歪み始めるものの、二倍、三倍と魔力を注ぎ込む手を止める事はない。しかし――背筋を這い上がるような悪寒が走った。

 それだけではない。熱の中に、"異質な冷気"が入り込み、周囲の温度が、急激に下がる。まるで何かが……いや、確実に"何か"が近づいている――!!


「く……ッ!」


 振り返ると、そこにはアイスゴーレムがいた。

 レンガを積み立てたようなゴーレムとは異なる、真っ白な雪だか氷だかで作られたアイスゴーレム。しかし、相性で言えば雪や氷よりも炎が勝る筈。咄嗟に大きく育ったファイアーボールを打ち込んだ。


「ファイアーボール!」


 しかし、流石は初歩魔法と言うべきか。いくら多少のサイズは大きくなっても効果は薄かった。魔力を注入している時間なんて関係なく、たった一発の叩きで消されてしまう。

 ――ああ、くそ。魔法はファイアーボールなどの初級魔法しか使ってはいけないという指示がなければ、もっと早くに倒せただろうに!


「オオオオオ……!!!」


 アイスゴーレムが樹木のように太い両腕を振りかぶり、力強く叩き下ろす。ドォンと走る振動は外へと走り、せりあがるように氷の刃が首を狙って伸び進み、それを避けて飛び上がると、その行動を狙っていたとばかりに天井から伸びる蔦が足を狙う。俺はそれを剣で弾きながら叫んだ。


「燈夜!」

「……ああ!」


 そちらが入れ替わりで攻撃をするならば、此方も入れ替わり攻撃だ。

 飛び出した燈夜が、アイスゴーレムの頭上から剣を突く。人間でいえば脳天突きの一撃必殺ともいえる攻撃だ。鋭く突き込んだ刃がアイスゴーレムの装甲を打つものの……その瞬間、衝撃と痛みが腕に跳ね返ってきた。


「……っ!?」


 まるで岩壁に針を刺したかのような手応えのなさが手に響く。指先から痺れるような感覚と、剣の先に薄くついた傷。そのまま、鋼のような硬度を誇る装甲が刃を押し返すと、――キンッ!!と甲高い音とともに、剣が真ん中から弾け飛んだ。

 燈夜の表情が一瞬固まり、茫然と零す。


「オイオイ……武器はこれしかないんだぞ……」


 まだ、手がしびれている。燈夜は鬱陶しそうに腕を振るうアイスゴーレムを避けて後ろへと下がった。……武器の問題なのだろうか。いや、それにしたって手応えが無さすぎる。ともすれば、狙いどころがあそこではないと考える事が自然だが、試すといっても中ほどで折れてしまった剣は頼りない。

 ……ああ、くそ。

 嘆いている暇はない。



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