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1-2 リザードマンも美味しくいただきます!

 

「はぁ……さっきのすごかったぁ……聖なる裁きを、ジャッジメント!ってさ」


 討伐が落ち着いた頃。先の千早を真似て、借りた水月の杖を振るってみた。

 右に振ってみたり、左に振ってみたり。ついでにエイヤと突いてみたり。しかし、わたしには魔法適正がないのかもしれない。杖は故障したのかってくらいウンともスンとも言わなかった。

 なんで千早だと反応するのに、私には反応しないんだろう。ピカッと光るくらいしてくれてもよくない?それとも昔の分厚いテレビみたいにブッ叩いたら治ったりする?

 ムムムと睨んでも、杖の先にある水晶玉に間抜けな顔が映るだけ。それがまた憎たらしいのなんのって。

 おかしいなぁ。千早の白魔法と言えば、いつだって聖女だって揶揄されるほどの力を感じるのに。これも彼女が神代神社(かみしろじんじゃ)生まれの巫女であることが関係しているのだろうか。

 私がいくら振るったところで、大きな水晶玉が反応する事は無かった。


 リザードマンの解体処理を進める朝陽に向けて、ファイアーボールとか、ライボルトパレットとか、記憶にある限りの魔法を唱えてみる。ワンチャン属性をかえたらいけるかも!と思っての行動だった。

 しかし、反応は無く、代わりに瓜二つの燈夜(とうや)から拳骨を落とされた.


 ゴン!


 その鈍い音と、重い衝撃と言ったら!


「ンギャ!」

「……魔法を人に向けて唱えるな。万が一魔法を放てたらどうするんだ」

「いったぁ……!」


 幼馴染の朝陽はいつでもそれなりに優しいのに、双子の弟である燈夜はいつもそれなりに手厳しい。塩対応というわけではないが、どこかダウナーみがあるというか、なんというか。とにかく彼らは対極なのだ。

 燈夜は異空間に物を収納する事の出来るスキル・マジックバックに並べたアイテムたちを仕舞いながら、それを可視化したアイテムパネルを見る。アイテムパネルは簡単なイラストで中にあるものが表示されているものの……なんというか、リザードマンの肉詰め状態だ。


「臭そう」


 そう言うと、鬼のような睨みが一つ返ってきた。


「……なんだって?」

「あっ、ごめんなさい!アッアッ、首!首、締まってます!」


 これだから幼馴染は!

 羽交い絞めにされて、腕を叩く。その光景も見慣れたのか千早はのんびりとした様子で温かいまなざしで見守ってくれるが、多分そういう温かい光景ではないと思う。むしろ、助けてほしいまである。

 遠くで、鑑定に勤しむミズキに朝陽が声を掛けた。


「ミズキ、何か良いものはあったか?」

「うん。めめちのお陰でね。……ああ、これとか特に私たちが欲しかったドロップ品なんじゃないかな」

「……へぇ!これ、リザードマンの逆鱗か」


 ミズキが見せたのは、リザードマンの逆鱗であった。そのサイズ感は親指の爪ほど。その小さな逆鱗は紺碧色で、滑らかな光沢はあれど、誰もが気付けるほどの強い輝きは無い。

 そんな中で見落とさずに入手出来たのは、羽交い絞めにされている芽衣の功績か。……まぁ、燈夜が特に理由もなく羽交い絞めにする事はないので、止めはしないが。

 朝陽は気を取り直して、もう一度ミズキに尋ねた。


「これでダンジョンの鍵は出来そうなのか?」

「うん、材料も揃ってるし大丈夫だと思う。……まぁ、時間はかかると思うけど」

「どれぐらいだ?」

「えーっと……、……あぁ、四時間……ううん、三時間程度で良さそう」


 わざわざリザードマンの多い洞穴にやってきたのは、次のダンジョンへ進む際に必要なキーアイテムを修復するためであった。

 ――キーアイテム・紅蓮の宝玉。これは魔王の居るダンジョンに入るために必要な鍵なのだが、まさか入手した直後に待ち構えていた宝玉の守護者・動く石像に踏みつぶされて、粉々に割られてしまうとは思いもしなかった。

 あの時はなんとか全員で這いつくばって宝玉のカケラを全て拾い上げたものの……なかなか骨の折れる作業であった。


 あの時の苦労を考えたら、三時間が何だと言うのだ。

 彼女を非難する者は絶対にいない。


「そうか、じゃあその間に芽衣と飯の準備でもするかな……。そこのリザードマンは使っていいのか?」

「うん、アイテムは拾ったしね。……あ、もし使うならそっちのリザードマンがいいよ、肉質が最高ランクだから」


 ミズキはリザードマンたちをじっと見渡しながら、そのうちの一体を指して言った。――彼女の鑑定スキルが光る瞬間だ。


 このスキルは、対象物に魔力を翳すだけでその詳細を見抜くことができる。さらにミズキはクラフターとしての才もあり、鑑定スキルを活かして新しいアイテムをクラフトすることを得意としている。

 その姿はさながら錬金術師のようで、複数のアイテムに魔力を注いで一つにまとめる光景は、どこか神秘的ですらある。


 彼女は半透明のパネルに表示されたレシピを参考に、材料を集める。必要な素材を次々と手元に並べ、真剣な表情で作業を進めているが食事を作るにも決めなければいけない事がある。


 様子を見ていた芽衣は、自由の身になった途端に近寄って尋ねた。


「ねぇねぇ、ミズキはなにが食べたい?」

「ん~、長くかかるから片手でも食べられるものがいいかも」


 視線と集中力は手元に縫い付けたまま、ミズキが雑な注文をする。

 あまりにも漠然とした要望に、首を傾げながら朝陽に助けを求めて視線を向けた。


「片手でも食べられるもの……何があるかな」

「ハンバーガー、おにぎり、サンドイッチ、……色々あるな」

「あ、ラップチキンとか、ケバブとかも片手で食べられるんじゃない?」


 しかも、ラップチキンやケバブなら、お肉と一緒に千切りした野菜たちもたっぷりいれられてビタミンやミネラルといった栄養もしっかりと取る事が出来る。芽衣が推すと、ミズキは頬を緩めて言った。


「あ、めめちいいねぇ。それならお肉がたっぷり入ってるやつがいいなー」

「オッケー、まっかせといて!芽衣ちゃんが異世界料理(美味しいもの)を作っちゃうんだから!」


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