5-2 オオミミズ襲撃戦
「っみんな!下から何かが来る!逃げて!」
「逃げてって言ったって、どこにだよ!」
「っいいから、後ろに下がるとか、兎に角逃げて!」
叫ぶと同時に、地面が破裂するように弾けた。
頭上で、硬い土の塊が跳ねるように宙に舞い、泥混じりのシャワーがパラパラと降り注ぐ。土煙と、降り注ぐ土や泥。視界はぐしゃぐしゃに濁っていて、何が起きているのかも分からない。
でも、本能だけはザワめき叫んでいた。――来る。何か、とてつもなく巨大な何かが。この下からやってくるって。確信した瞬間、ぐうっと足元が膨らむように揺れはじめ、もう一度地面が破裂するように強い衝撃が走り、私の体は宙に押し出された。
それが地面を突き上げるように現れた、巨大なオオミミズの仕業だと気づいたのは――体が宙へと投げ出されてから。
「ッ芽衣!!」
遠くで、朝陽の叫ぶ声が聞こえる。
ポーンと突き上げられた体と、そこから見える、ミズキたちが茫然と見上げる姿。――ああ、四人とも、うまく避ける事が出来たんだ。忠告の甲斐があったな。でも、まさか自分の足元から飛び出してくるなんて、思ってもみなかった。
ひとりだけ運悪く足をとられて、地面を押し上げられたその体。相変わらず押し上げられた砂や土埃は鬱陶しいことこの上ないが、体勢が大きく崩れていない事から、此処からいくらでも得意の拳を叩きこむ事は出来る。寧ろ、今この時がチャンスだ。
でも、拳を握ってもうまく力が入らない。
その違和感は、それを見上げることしか出来ない四人にも届くほどであった。
「芽衣……?」
ぽーんとぬいぐるみを放り投げるように、高く浮かんだままの芽衣は恰好の餌食だ。堅い土を破り、晴れて陽の目に出たオオミミズは、ガパッと鋭い牙を備えた口を大きく開いて、地面を揺らがすほどの勢いで芽衣めがけて突っ込んでいく。
――あんなのに食べられたら一瞬で即死だ。
「させません!聖なる壁よ、今此処に――ホーリーシールド!」
すかさず、千早は両手を前に突き出した。凛と響いた声はシールド魔法を唱えてみたものの、魔力を増幅させる杖のない状態では効果が薄い。オオミミズの前に生まれた薄い壁はオオミミズの攻撃を一度弾いただけで崩れて割れる。オオミミズはバネのように後ろへと縮み、もう一度体勢を戻して伸びあがると大きく口を開いて今度こそ芽衣を狙った。
「………ミズキ、援護を頼む!」
ああ、くそ、ちゃんと近くに剣を置いておくべきであった!
朝陽はいち早く雑草取り用の小鎌を取り、それを避雷針替わりに投げつける。それに続いて燈夜がサンダーボルトを横から打ち込む事で、サンダーボルトは避雷針となった鎌を追いかけてオオミミズの横っ腹を打つものの――あのグミのような弾力ある体が厄介すぎる。大きく仰け反ってはくれたものの、いまいち致命傷を与えられている気がしない。
「……めめち、いま助けるからね……ッ今だ!」
ミズキはすかさず変形武器・弓を構えて引き絞る。目を鋭く細めて一瞬で照準を定めた先は芽衣の真横だ。
「――ウィンド・シューター!」
風魔法を込めて矢を放つと、矢に続いて吹き荒れる風が芽衣の身体を押して、オオミミズよりも遠くに吹き飛ばす。
「ッ芽衣‼」
それを見越して走る朝陽は、しっかりと芽衣を追いかけていた。それから芽衣の身体を抱きとめて、なんとか抱え込む事が出来たものの、その声を聴いたのは芽衣だけではない。真横からサンダーボルトを撃ち込まれたオオミミズが声も無く仰け反った後、垂らした頭を振り回すようにして今度は朝陽を狙って這い出した。
「朝陽!そっちにいったぞ!」
「分かってるっつうのう……!」
魔法を使って耕した土を、平然と地面を抉りながら猪突猛進の勢いで這い進むオオミミズ。
ガタガタと揺れ出す地面は、足元の感覚を奪い、踏み出そうとした一歩すらままならない。その状況でどう逃げろというんだ。ぐったりとする芽衣を抱え込むだけで精いっぱいの朝陽には、回避する余裕などあるはずもなかった。
迫りくる、巨大なオオミミズ。なんとかその突撃する軌道から避けるよう外側へと飛び込むも芽衣を抱きしめるように庇ったままの朝陽の肩をかすめたオオミミズは力任せに朝陽の身体を弾いて飛ばす。
「あ、ぐ……ッぅ……!」
大きな質量がぶつかるような、それこそ何か車にでもぶつかられたような感覚にメキメキと肩の骨が軋み、息が詰まる。それから、間もなく弾き飛ばされた体は木に激突し、勢いで折れた枝葉が落ちてくるも、それに構う余裕もなくズルズルと地面に崩れ落ちた。
当然、次の手を出すほどの余裕はない。
「あ……朝陽……?」
朝陽の腕の中で、芽衣の目が大きく揺らいだ。緩んだ腕に、垂れる頭。寄せた胸からは確かに心臓の音が聞こえるが、零れ落ちる朝陽の声は力ない。
「う…………芽衣……」
「あさ、……」
駄目だ、動かなきゃいけない。
すぐに立ち上がって、朝陽を助けないと。朝陽を安全なところに連れて行って、それであのオオミミズもやっつけなきゃいけない。
だけど、こうしなきゃ、ああしなきゃと思う事はできるのに足が動かない。
全身の血の気が引いて、ピリピリと指先が痺れる。
オオミミズが、突進を終えた先でうねりながら方向を変えた。
再び、此方に向かって突進しようとしている。
「……っダメ、ダメダメダメ……!!やだ、来ないで……」
何かしなきゃいけない。戦わなきゃいけない。でも、あのオオミミズを前にしてどうすればいいのか分からない。
戦わなきゃいけないのに、体がすくんでしまって動けない。
力いっぱい握った朝陽の服には皺が寄り、手が真っ白になる。背後から感じる、大きな力の塊に芽衣はついに崩れた。
「いや……っ……やだ、……パパ……、……ママ……ッ」
叫ぶことも出来なかった。
ただこの場に居ない人を呟くだけで、何もできない。
オオミミズが口を開き、襲いかかる。芽衣が朝陽の身体を抱きしめて庇うと、突然行く手を阻むように風の矢が頭上から降り注ぎ、オオミミズの動きを一瞬だけ鈍らせる。続いて、静かに詠唱をする千早と燈夜の武器は、それぞれ対象へ向けられた。
「――ホーリーシールド!」
「――ゲイルストリーム!」
千早は朝陽と芽衣の前に強固なシールドを。
燈夜はオオミミズの真下を狙って旋毛風を起こす魔法を唱える。天へと向かって巻き上げる風の塔が、重たい巨体のオオミミズの身体を後ろへとなぎ倒す。
「……っくそ……っこれぐらいの邪魔にしかならないか……!!」
全員がギリギリのタイミングで間に合った。
その一方で、芽衣はまだ動けない。
「めめち……?」
命に関わる怪我でもないのに、芽衣が異常な動揺を見せている。その顔は青く、それを見てモンスターを警戒しながらもミズキや千早はそれぞれに違和感を抱いたものの、こればかりは心配を口にしている場合ではない。
燈夜は指示役の朝陽が使えなくなったことを悟り、声をあげた。
「今はあのオオミミズが先だ!!」
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