5-1 それは、地の底から
「もお!いつになったら依頼が終わるの……ッよ!」
迷い猫探しに、墓地掃除。屋根の修理、薬草集め。未開拓地の畑づくり。イサハヤさんの言う依頼は、どれも新米冒険者向けの依頼ばかりであった。どれも報奨金は雀の涙と言うやつで、今に至っては最低価格での草むしりだ。どれもこれも、これからの冒険に役立つようには思えない。
これってもしかして、言いように使われているだけなのでは……?それとも、実はこの草をむしる際の動きが戦闘に役立つとか?なんか、そういう映画をむかし見た気がする。
しかし、此方からすればただの雑用だ。お金にもならない雑用を、ただの女子高生である私が楽しめる筈がない。躍起になって、両足で踏ん張りながら硬い土に根付いた草を掴む。それから思い切り起き上がる力を使って引き抜いたのだが、思いのほかスルリと抜けてしまった。思い切りの踏ん張りが仇となり、勢いよく後ろへと倒れるとこれまでに抱いた不満が爆発してしまった。
「ああもう!せっかく可愛く編み込んだ、お団子ヘアにしたのに!」
「うわ~~ん、もう草むしりしたくないよ~!」
背中から思い切り倒れた私は、十七歳のごねりを見せる。
見上げた空は高い建物がないせいか、広い。それにゆっくりと流れていく雲は羊みたいとかシュークリームみたいにモコモコと広がっていて……ますます自分が泥だらけになって草むしりをしている状況が馬鹿馬鹿しく思えてならない。
ぎゃーっと騒いで、子供みたいに嫌々を言っていると、近くにいたミズキがカラカラと笑いながら手を差し出した。
「あはは、ごねめめちだ。いや、ごねち……?」
「ごねちって何⁈可愛くないんだけど!」
「そんなにごねてたらもっと汚れちゃうよ、ごねち」
「あーん……」
ミズキの言うとおり、上半身を起こしてみると背中側は泥だらけで、背中側がじっとりと冷たい。……これ、洗濯したら落ちるかな……。そう考えたのも束の間、傍で「アースクエイク!」と朝陽の詠唱が響く。アースクエイクってどんな魔法だっけ?考えるうちに足元が大きく揺らいで、今度はポヨンポヨンとお尻側が前に跳ね――今度は前のめりに倒れた。
「おお、思ったとおり畑を耕すにはアースクエイクがうってつけだな」
言葉の通り、朝陽が地面を抉る土魔法を打ったせいでこうなったらしい。前も後ろも泥だらけになった災難続きの私は、うつ伏せのまま、ついに動けなくなった。
その一方で、硬い地面を内部から押し上げる事で耕した土は広範囲にわたる。それに混じる石や、根っこまで抜けた雑草たちを回収する千早を見たミズキは、お得意のクラフトスキルで土由来のお手伝いゴーレムたちを使うことでさらに時短をしていたが……それなら、硬い雑草を抜いて、泥だらけになっていた私って一体。
相変わらずうつ伏せで倒れている私をよそに、燈夜が呟いた。
「……これ以上の雑用が勘弁なのは同意だが、この依頼たちのおかげでなんとなくこの世界での仕事の流れが分かったな」
「あ、確かにそうかも。私たちっていきなり討伐とかダンジョン探索やっちゃって、こういう依頼はあんまり受けてこなかったもんね」
「自分で出来ないこと、助けてもらいたいことを依頼する。金額はまちまちですけど、基本は助け合いで成り立っているようですね」
「アイテム屋とか、店を開いているのが正社員雇用で、冒険者がなんでも屋のフリーターって感じなのかな。仕事がこれだけあるのはいいことな気もするけど」
元の世界でもこうだったら、結構冒険者を選ぶ人が多そうだよね。
ミズキが言うと、朝陽は腕を組んで首を捻った。
「いやぁ、どうだろうな。屋根修理や、猫探し、それからこの畑づくりだって一度やってしまえば暫くは出てこないだろうし、案外収入は不安定なのかもしれないぜ」
「ああ、だから冒険者は外に出て危険を犯して戦うのか」
村での報酬は、一カ月間生活するには心もとない金額であった。であれば、外へ出稼ぎに出たり、割の良いモンスター討伐に手を出す冒険者が多い事も頷ける。
「それでこういった小さい村では少額で助けてくれる人がおらずに衰退していく、と……」
「まさに一長一短ですね……この村は子供の数も少ないように見えましたから」
元の世界にも通ずる高齢者過疎地域問題。教科書でその文字を見たことはあったし、テレビでそういったノンフィクションの特集も見たことがある。
でも実際に目をすると、改めてなにか衰退の色を肌で感じて、何とも言えない侘しい気持ちになってしまう。
自分たちに何か出来る事はないだろうか。一度は考えてみたが、教科書で見ただけの彼らに救うだけの知識はなかった。
「でもさぁ……危険がないのなら、こういうところでのんびりスローライフっていうのも有りだと思うけどなぁ」
遅れて身を起こしながら言ってみる。
雑用ばかりなのは嫌だけど、私たちには戦う術も生活する術もる。そりゃあ痛い事だっていやだけど、マトチャがいれば回復も出来るし、何よりみんなが居る。そう思っての意見だったのだけれど、誰よりも冒険者で居る事を楽しんでいた私の言葉にしては意外性のあるものだったのかもしれない。
幼馴染である朝陽と燈夜が、なにか違和感を覚えたように視線を向けるものの……私はそれを遮るように「待って」と手を向けた。
地面についた足と手に、何かを感じる。いつもなら「何かがいる」と言って、その後すぐに気配の位置を報告するはずが、今回は言葉を続けなかった。まるで、そこに"何か"がいると分かっていても、それが何なのか すぐには判断できないかのように。
「…………」
静かに息を飲む。
目線は地面へと向けられて、地面に宛てたままだった指先が微かに震えている。
まるで、見えないはずの "何か" に、気圧されている――?
「……なに、これ……?」
震える声が漏れた瞬間だった。
突然、足元が沈むような錯覚を覚えるほどの縦揺れが起こり、ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!と大地が震え始めた。それも、ただの小さな揺れじゃない。まるで 地面そのものが生き物のように蠢く感覚。
地中深くから何かが、 うねっている――!




