オーバーサイズTシャツ一枚ってありですか?
「あのさあ。瑠璃、ちゃんと服着なよ」
「えー? 着てるじゃん」
「どこがだよ!」
「ズボン履いてないだけじゃん?」
「それを世間では服着てないって言うの!」
そう。
今瑠璃は、オーバーサイズのTシャツ(下着は着用。当たり前だけど……一応、ね?)のみの格好だったのだ。
まあ家族同然で過ごしてきたので、気が抜けているようではあるが。というか気にしていない。
「だってさー暑いじゃん?」
「エアコン効いてるだろうがぁ!」
「さっきからそんな叫んで暑くないの?」
「暑いわ!」
「え、じゃあ逆に聞くけどさ。わたしがどんな格好をしたら満足なの?」
「せめて、ズボンを履いて……?」
「おけ」
「できれば胸元開いてないやつがいいし。今のは開き過ぎ」
「…………おけ」
そこで瑠璃は思い付く。
今、煽れるチャンスなのでは? と。……何言っちゃってんのか分かんねーけど。
「ええ~っと……な、ななっ、なんでそぉんなにぇ……わたすぃっ、の露出度下げたいにょ……かなぁ…………っ?」
だが瑠璃は煽り能力がゴミだった!
「……っ、と、そ、れは……目の? やり場……に? 困る……というか、その。なんと、いうか……」
加えて、なぎさは煽り耐性(煽られていると感じ取る能力) がゼロであった!
瑠璃のそれを煽りと取って良いかはとりあえず置いておく!
会話の流れが読めない! これからどうなるのか!
「うぇひっ、ふ、ふーん? そ、そうなんだ〜……? そ、そんなに……? 言うな、ら……? 着てきても? いい、けど?」
「っ、いや、別に? そ、そこ、まで? 着てきたいなら? 着てくれば? いい、んじゃない……?」
どこかのツンデレカップルのような会話をする二人。
「いや別にあんたに言われなくても服くらい着るし!」
「——そうだよ。昼間からお盛んなこってねぇ——お二人さん?」
「「——っ、ぎあああぁあ!?」」
突然聞こえてきた声に二人同時に叫び声を上げる。そして二人同時に声のした方向を振り向く。
そこにいたのは——瑠璃の弟、如月流華であった。
「うるさ……え、なんでそんなに驚いてるの?」
「え、え? わたし達がおかしいの?」
おかしなことはおそらく何一つない。一つ言うならは、オーバーサイズのシャツ一枚で過ごしているという点くらいだ。
「え、いつからいた?」
そう、まずそこからだ。
「なぎ兄が『ちゃんと服着なよ』みたいなこと言ってたとこから」
「「最っ初! めっちゃ最っ初!!」」
「……ハモリすぎじゃね?」
「うっそ、えまじで? てか何しに来たの? 受験生だろ勉強しろよ」
「夏休みくらい遊んでもいいじゃん?」
受験生の学年で苦い思い出のある二人は同時に叫ぶ。
「「遊んどいた方がいいよ!!」」
「だからハモんなて!」
「はぁ……。とりあえずじゃあズボン履いてくる」
「いってらー」
「……いってらっしゃい……」
少し気まずい時が流れる。
「…………」
「…………」
沈黙が長いのでここで瑠璃の弟、流華について紹介しておこう。
流華は瑠璃の歳の一つ下で中学三年生。灰色髪に垂れ目寄りの吊り目。基本毒舌である。瑠璃のことを『瑠璃姉』と呼び、小さな時から共に過ごしているなぎさのことを『なぎ兄』と呼んでいる。
…………そろそろ瑠璃が帰ってくるかな?
「…………これで、満足?」
「「っ!」」
この人たちは人を驚かせることしか出来ないのだろうか。急に話しかけるなっつーの。
なぎさと流華は瑠璃の格好を確認する。
まずトップス。変わってない。
ボトムス。変わってない。ように見える……が、ちゃんと履いては、いた。…………みっじかい短パンを。
「……瑠璃姉、学んでよ」
「はあ…………」
「は、はあぁっ!? いいでしょ、これでさ!」
「ルックスがなんも変わってないじゃん。谷間丸見えだし、ズボンなんて履いてるように見えないんだから履いてないのと一緒だし」
「谷間丸見えなのは、うぅんまあそう、だけどっ、後者は流石に違うでしょーが!」
「……まあ、履いてないよりは、マシかな?」
確かにそうではあるが。履いていないよりはマシだが。最低限の羞恥心というものを持ってほしいものだ。
「うぅ……。もういいよぉ……。わたしが、部屋にこもればいいのぉ……?」
「「…………そうかも」」
「嫌なとこでハモんなぁ! 沈黙までハモりやがってよぉ!」
この日、瑠璃は部屋にこもり続け、なぎさと流華はリビングで至福の時を過ごしたとさ。
ファンタジーなので、瑠璃と流華の髪色が違うことは気にしないでください。ちなみにここで明言しておきますが、瑠璃は茶髪、なぎさは黒髪、隆二は橙髪、里津は緑髪です。後々出てくるなぎさの友人、暁月紗倉は桃髪です。そして私は、この物語のナレーション役になろうと思います。