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過去編 瑠璃ver

 これは、去年、中学三年の頃の話。

 わたしは、小さい頃から男子と遊ぶのが好きだった。そのせいか、男子と過ごすことが多くなり、女子と話すことはあまりなかった。

 小学校低学年の頃は、女子の友達がいたが、今ではその子とは疎遠になっている。なぜなら、女子のノリにあまりのれず、グループ内で少し浮いてしまっていたから。

 クラスで浮きたい人間などこの世にいるわけないのだから、男子と過ごす方が楽ならば、男子と過ごせば良いと、気が付いた。

 その時からわたしは、男子と過ごしていた。

 だが、中学三年のある日。わたしはいつも通り、いつもの男子グループに混ざって話をしていた。

 すると、ある女子生徒らが、わたし達の方を見て、何やらコソコソと話している。

 何を話しているのか、と思っていると、その中の一人の女子生徒が言った。


 ——女子のくせに、男子とつるむとかキモ〜い。媚び売ってんじゃないの?


 ……は? 言いがかりだ。冤罪だ。

 すると、彼女はさらに言った。


 ——ねぇねぇ如月さぁん。ちょぉっとこっち来てぇ?

 ——は、はあ……


 言われるがままその女子生徒の方へ行く。そこで言われたのは、衝撃的なことだった。

 自分勝手過ぎる、と、わたしは思った。でも、何も、言えなかった。


 ——ねぇ如月さん。カナね? 如月さんと一緒にいる男子の中の一人が好きなの

 ——そ、そうなんだ

 ——だからさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 何を言われているのか、最初わたしは理解できなかった。

 でも、理解した時には、もう、遅くて。

 何も言い返せないというのは、直感で分かってしまって。

 それはなぜかと言えば。


 彼女が——(はしばみ)佳奈(かな)が、クラスのマドンナ的存在であったため。


 気付けば他の女子も、男子も。


 ——女子のくせに

 ——女子のくせに


 吐き気がした。佳奈の一言で、クラスの雰囲気が変わったことに。それに逆らえない自分の弱さに。

 さらに、彼女は追い討ちをかけるように、わたしを、追い詰めるように、言った。


 ——私に逆らったら、どうなるかわかってるよね


 耐え切れず。まさに四面楚歌な状態に、耐え切れず。わたしはその場を逃げ出した。

 逃げ出したのちに気付く。

 ——どこへ?

 わたしは、どこへ、逃げ出せばいいのだろうか。

 頭はクラクラとしてきて、心はぐちゃぐちゃと波打って、気持ち悪い。

 もう嫌だ。どこかへ。どこかへ、逃げ出したい。逃げたい、けど——

 ——逃げ出す場所が、ない。

 そう分かってしまって、その場にうずくまる。

 吐き気のみがわたしを襲うだけで、涙が出てこないことが、悲しかった。

 泣ければ、少し楽になったかもしれないのに。


 ——あーあ……


 わたしは、一人だ——。

 これが、何か、恋愛小説か何かであれば、誰かが駆けつけてくれるだろうに。

 わたしには、そんな相手はいないから。

 どうして、あんなことになったんだろう。


 ——女子のくせに


 教室で聞いた声がリフレインした。

 ……あぁ、そういうことか。

 わたしが、女子だから、あんなことを言われたんだ。

 じゃあ、わたしは、男子になればいいのかな。ははっ……。



 その日、中三にして初めて、わたしはなんとなく図書室を訪れた。

 そこはとても静かで。居心地が良くて。わたしの居場所となった。

 もう、あんな場所に戻る勇気は出なくて。

 この日からわたしは大切な受験期を、図書室で過ごした。

 読書して、勉強して、たまにゲームをして。

 楽しい日々を、居心地の良い日々を過ごした。

 もっと、もっと、勉強しないと……。

 あの連中が、絶対、絶対に、行けない高校へ。

 そうだ、この地域の名門校である、『私立綾麗(りょうれい)学園』に行こう。

 今のわたしの成績では無理でも、今から、巻き返せる。

 家でも勉強をする日々が続いた。

 なぎさや両親に心配そうに見られていたけれど、今は気付かない振りをした。

 気付かれないようにした。

 なんとなく、当たってしまいそうだったから。

 傷つけてしまいそうだったから。

 避けないと、それだけは。

 絶対に。

 わたしは、あんな奴らと同じような人間にはならない。

 そう覚悟を固め、教科書とノートを開いた。



 受験が終わり、合否発表を待つ日々が続いた。

 滑り止めの高校には受かってたけど、どうだろう……。

 受かっていますように、受かっていますように……!

 合否発表の日。ウェブ上でも確認ができるということで、まずそこで合否を確認した。

 わたしの受験番号が……205、か……。

「205……205…………」

 あって……。あってくれ……。

 173、190、201……。そろそろだ。

「……っ」

 思わず息を呑む。


 “205”。


「あ、あった……っ! やったぁ……っ!」

 そうして無事合格できたのが、今通っている『私立綾麗学園』だ。

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