第五話 魔王になりたい少年
第五話出しました。
俺は、魔王になりたい。
だがみんなが思う魔王とは違う。悪役、強敵というイメージとは違くて魔法の王様だ。
魔法の王様(略※魔王)とは、このキャスティロ全体の国々のトップであり、政治や軍事、経済、外交などを最終的に決定する権限を持つ他、魔法の実力は最強と言っても過言ではない存在だ。
悪を倒し光を与える、国民を第一に考え、国の危機は絶対に救う。まさに憧れだ。
だから俺は魔王になりたいんだ。
俺はオルカ城の王の席に合わせて手を重ねる。王の席は見えないが、多分あそこだろうと重ねた。
――セリス・グランド・オルカ――俺の名前だ。正式にはセリス・グランドだが後の名前は地域を意味している。
オルカ。
この世界から見たら田舎の中の都会という感じの王国だ。
不自由する者がいないように毎日努力する魔王がいる。今年50歳。魔王の中では最高齢だ。
この世界には国が六国ある。そのうちの1つがこの国、オルカだ。
中立と平和のオルカ国
氷結のグレイシア国
機械国のテラ=メカニカ国
軍勢力最強のヴァルザーク国
自然と精霊のセフィリア国
天空の世界アイオルス国
これで全部。
この6つの国々で世界が成り立っている。
「今日もよろしくな太陽!」
森の木のてっぺんから見たオルカ城は太陽により光っている。
「セリスー!木から降りてきなさーい、朝ごはんよ。」
「はーい、今いくよ。」
今日も良く見えたな、オルカ城は。
セリスは木から降りて朝ご飯を食べに木製の家へ向かう。
「ただいまー」
「お帰り、セリス。明日の誕生日プレゼント決めときなさいよ!」
「分かったって」
俺は明日で15歳となる。15歳になると旅に出る年ごろである。それと同時に学校に通う時期でもある。
「あなたは学校と旅どっちを選ぶの?」
「もちろん旅だよ。旅に出てお金を稼いで魔法を独学で学んで、魔王になるんだ!」
「それ、何回も聞いたよ……じゃあ気を付けて行くんだよ。」
「分かったよ。」
これが俺の姉、メリイ・グランド・オルカ。いつも俺の世話をしてくれるが厄介でうざい人だ。
父と母は不慮の事故で亡くなってしまった。理由は姉も知らないと言う。
「セリス~!今日は旅立つ記念として夕飯は好きなの食べさせてあげるけど何がいい?」
「え!?マジ?!じゃあ……黒影茸のクリームリゾットがいい!」
「分かった!お姉ちゃん今回気合い入れちゃうよ?」
「おっ流石姉ちゃん!頼んだよ?」
「まかせなさい!」
俺が一番大好きな料理それは……『黒影茸のクリームリゾット』だ!
この料理は闇の森にしか生えてない真っ黒なキノコを使ったリゾットである。闇の森は家の近くにあり姉ちゃんが祝い事の時には必ず前日に取ってくるのだ。
なぜかというと、俺は小さい頃から祝い事には黒影茸のクリームリゾットを頼んでいたから今回も頼んでくると予想していたのだろう。
この料理は時間がかかるので街へ遊びに行ってくることにする。
「姉ちゃん!夕飯までには帰ってくるから街に出かけてもいい?」
姉はちょっと待ってと言わんばかりにフードとマントがある土色の服を着せてきた。
「毎回これ着て行きなさいって言ってるでしょ?」
「だって暑いんだもん……なんで毎回これを着るの?」
「なんでも!」
「分かったよ。」
「じゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい!」
俺はリゾットができるまで街に行く。
俺らが住む家からオルカ城が見えるがその距離は結構遠い。
オルカ国の周りではモンスターなどの怪物がうじゃうじゃいる。だが国の周辺には弱いモンスターや温暖なモンスターがいる。逆に人々は温暖なモンスターをペットとして飼っている人も少なくはない。
城へ行く途中、数々のモンスターに出会った。
スライム、ピグリンはもちろんスドラといったドラゴンの種族に入っている小さいモンスターなどと闘った。
俺は姉から貰ったお下がりの剣や姉から教えてもらった魔法を使って余裕で倒したが2人は例外だった。
「ちょっとスライムがこっちに来てるのよ!早く倒しなさいよ!」
「ちょっと待ってくれ、この前授業で教えてもらった魔法あんまり覚えてないんだ!こんな強いやつ勝てるわけないだろ?!」
偶然、城に向かっているときに会ってしまった二人の存在。年齢的には14歳そこらだろうか。同い年の可能性もあり得る。
しかも彼らの戦いぶりは幼稚で可愛らしい戦闘だ。
前で戦っているのは男の子で背中に隠れながらあたふたしている女の子は魔法書をひろげながらどうしよかと悩んでいる。
「あ、思い出した!詠唱するから俺を守りながらスライムに攻撃してくれ。」
「えぇ?!私、そんなことできないわよ?!……まぁいいわ。私に勝てるモンスターなんかいるはずないもの!」
彼女は彼を守りながら攻撃をしている。
「行くぞ!」
「我が意、熱を灯せ――《フレイム・スパーク》?」
彼は魔法を止めた。
「ごめん……このスライム……弱いモンスターだったからそんな短い詠唱でも私だけで倒しちゃった。」テヘペロ
ドスンッ
「はあーよかった。初めての戦闘だから力入れすぎちゃったよ。」
彼は安心したという気持ちでその場で腰を下ろした。
すると彼はチラッとこちらの存在に気付いたかのように立って向かってくる。
「こんにちは!旅人さん。そして長旅お疲れ様です。」
俺は旅人ではないし旅もまだしていないのでここを通った理由を詳しく話した。すると彼は申し訳なさそうに謝り、オルカ国を案内してくれると言ってくれたが丁寧にお断りした。
別に案内してくれてもいいのだが、めんどくさいので断った。
ガガガガガガッ
ゆっくりと城門の扉が地面とこすれながら開いていく。
整備された地面、賑やかな街、そして圧倒的な存在感をだしているオルカ城。
扉が開いた瞬間の空気感、まるで朝日が窓から差し込んだように。清々しい。
花火や音楽が街に鳴り響いている。「今日はお祭りでもあるのか?」と思うほどだ。
とりあえず俺は商店街に走った。
「すげぇ!これが商店街!肉、旨辛スープ!どれもうまそうだな!」
思わず口から出してしまった。
「そうだろう?オルカ国限定スープだぞ。旅人さん!いっぱいどうだ?」
店主のはげおじ、そしてちょび髭が話しかけてきた。
旅人ではないんだけどな……。まあ今気づいたけどこの土色の服は旅人に見えてしまうかもな……。
「いや、違うけど……ま、いっか」
「なあ、店主。今日は何でこんな街が盛り上がっているんだ?」
このオルカ国に住み着いているなら分かるはずだと思った。
「ああ?そんなのも知らないのか?今日は『十四最後の夜祭』だぞ?」
「十四最後の夜祭?」
「この国の王子と王女が15歳になる前夜祭みたいなものだ。そして朝になったとき王子と王女の旅が始まるってわけだ。」
「なるほどな」
俺はその話がもっと気になったので店に住み着いていたが『そこにずっといるなら店を手伝ってくれ……暇じゃねえんだ。』と言われたから手伝いながら話を続けて聞く。
「なぁおっさん、その王子と王女が旅を終えたらどうなるんだ?」
「おっさんって言うなよ……」コツンッ
おっさんはセリスの頭をこぶしで優しく叩いた。
「俺の名前はダゴン・ミルジョージ・オルカだ。」
「ダゴさんとか呼ばれてるからそう呼んでくれ」
「そんなことよりなんだ?王子と王女が旅を終えたらだっけ?」
俺は軽く頷き話を聞いていた。
「この王子と王女は旅を終え立派な実力者になったら魔王になるんだ!!」
「すごくかっこいいだろ?」
俺はこの瞬間、人生の目標を失ってしまった。『王子と王女が旅を終えたら魔王?』この言葉が無限に繰り返される……。
多分、死んだ魚の目をしていただろう。
「…………い、おーい!大丈夫か!?」
ハッ――俺はダゴさんの呼び声で意識を取り戻した。
「お前?魔王になりたいのか?」
唇を嚙みしめながら俺はダゴさんに言った。
「ああ!そうだよ!俺は魔王になりたかったんだよ!……なのにダゴさんが……」
俺は悔しかった、まさか魔王は王子と王女しかなれないなんて。
するとダゴさんは焦って俺の肩に両手をおいた。
「すまねえ……簡潔に言い過ぎた。お前にもまだ魔王になるチャンスはある!」
どういうことだ、俺は詳しく聞くことにした。
「ダゴさん、まだチャンスはあるって……どういうことだ?」
「まずな、王子と王女は旅が終わったら、ものすごい魔法の実力者になってるんだ。この国民全員が戦いにかかったとしても、あっさりパチーンだ……」
「だがな、帰って来た王子と王女はまず、『魔王戦』というものをやる。そこで王子と王女に勝てば魔王になる権利が与えられるんだ……」
「まさか、そういうことか。」
俺はまた目標を取り戻した。
「そうだ!お前が魔王戦で勝てば魔王になれる!」
店の中で大ジャンプをかました。
「ありがとう!ダゴさん!」
「おうよ!」
時が過ぎた。
話をしたり店の手伝いをしていると花火の音が聞こえた。もう外は真っ暗だ。
だが街は明るくワイワイしている。
「お?そろそろか……。」
俺は気になったので聞いてみることにした。
「そろそろってなんだ?」
「あ?『十四最後の夜祭』が始まるんだ。」
「オルカ音楽団の演奏はすごくいいんだぞ?見に行くか?」
すごく行きたいが姉のクリームリゾットが完成していると思う。
「すまん、ダゴさん!俺、明日から旅人になるんだ。」
言った瞬間、おめでとうと言わんばかりにお金を渡してきた。
「今日、働いた分だ!もってってくれ。」
「いや、こんな大金受け取れねえよ。」
今日働いた分じゃない。そこには三年間生活出来る量のお金が入っていた。
「もってけ泥棒!」
ダゴさんに背中を押されお店から出された。
「魔王戦までにまた来いよ!次期魔王!それと名前を教えてくれ!」
俺は後ろ歩きをしながら手を振り名前を言った。
「セリス・グランド・オルカ!また帰ってくるよ、ダゴさん!」
「セリス・グランドか……次期魔王にピッタリの名前だ。」
「応援してるぞ……セリス」
家に着くといい匂いと同時に鬼の怒りが感じた。姉だ……。
「セリス?もうちょっと早く帰って来られたんじゃない?」
「い、いや?ちょうどいいぐらいだと思うけど?」
「うっさい!あんたの為にどれだけ心配したか……」
いつも怒ると一日中激おこだが何だか今日はやさしかった。
「じゃあ早く食べて早く寝て、行ってきなさい。」
「おう!」
これが14歳、姉との最後の会話だった。そして『黒影茸のクリームリゾット』は格別に美味しかった。
――15歳――早朝――
「全部荷物はもった?お金は?魔導書は?お姉ちゃんがあげた短剣は?」
俺の姉はまたまた心配性だ。
「全部持ったよ。じゃ、行ってきます。」
「いってらっしゃい!セリス!」
家の玄関ドアを開け、そっと閉じた。
15歳少年少女たちは旅に出る。
王子も王女も……それとセリス・グランドも。
新たな物語が再誕によって始まります。