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取引実績3000超えてるベテランなのに対応がお粗末すぎるレアキャラに遭遇した件

作者: あおべり

「いつになったら届くんだ?!」



俺はひとり部屋で叫んだ。



「パーフェクトヴァリアン・ライジングコード」というオンラインゲーム。存在はなんとなく知っていた程度だったが学生時代からのゲーム友達・相澤からアツく布教され急速にハマった。俺と相澤は学生時代よく一緒につるんでいたけど、お互い社会人になってからはSNSでの交流がメインになりリアルで会うのは年に数回くらいだ。その日も半年ぶりの再会だった。SNSでは頻繁に交流してるから久しぶり感ぜんぜん無い。相澤の勧誘は上手すぎてスーパー営業マンになれるんじゃね?レベルだった。

インストール後最初何していいか分からない俺を手とり足とりフォローしてくれて俺が楽しくなって課金しだすまで面倒みてくれた。本当に持つべきものは面倒見のいいオタ友だ。感謝しかない。


「お前、絶対好きそう」


相澤の携帯画面で見た「シノちゃん」のキャラデザはお前何で俺の性癖知ってんの??と驚くほどオレ好みの美人だった。

スラッとしたスリム体型、色白、波打つ銀色の長髪、少しタレ目の切れ長の目元。いわゆるクールビューティ系。俺は姉妹に囲まれてるせいかゲームキャラにありがちな妄想過多な巨乳より程よいサイズがいい。まさに手のひらお椀サイズ!最高!

初期からじゃなく途中から加入したキャラ「シノちゃん」はまさに俺のツボだった。


ゲームでシノちゃんが登場するのは3章から。まだゲーム内ではシノちゃんに出会えない。俺は黙々とゲームを進めながら少しづつシノちゃんグッズを買い集め始めた。


そんなシノちゃんの5周年限定アクスタ。いまはもう8周年だから店頭で買うことができない。どうして俺は早くインストールしていなかったのかと後悔しつつ。ビジュが美しく俺好みだからどうしても手に入れたい。部屋に飾って拝みたい。

過去グッズを得るためにオタクの友、フリマサイトを検索した。ちょうどフリマサイトでのトラブルが話題になった時だったのでヤバい人は避けようといくつかヒットした中で、取引実績がある程度ある、評価の良い人を選んだ。少し高かったけど(新品・未開封)が魅力的だったので取引実績3000超えの出品者の商品購入ボタンを押した。


「4~7日以内に出荷」


うん。この位なら待てる。

ちょうど仕事も少し忙しい時期だからあっという間だ。


俺はスマホの商品画像の「シノちゃん」を眺め充実感たっぷりに寝た。


1月下旬の夜だった。







2月に入った。

ポチってから7日以上過ぎてるのにまだ発送メールが来ない。同じ日に他の出品者から購入したシノちゃんグッズは届いているのに、アクスタ出品者から何のアクションも無い。


なぜだ??発送期限過ぎるなんて事を実践3000超えてるヤツがするのか?

催促メールってどんな文章にしたらいいんだ?

俺はひよって相澤に相談した。


「は?もう発送期限過ぎてんだろ?キャンセルすればいいじゃん」


いやいやいや!あれから他の出品者も探したが(新品・未使用)はコイツだけだったんだよ。3年前に発売したグッズだ。いつ出品されるか分からない。

そんな潔癖症って訳じゃないけど、知らない誰かに使われたモノより新品があるなら新品がいいんだ。


「なら発送されるの待てばいーじゃん」


よく考えたら相談したってどうしようもない内容だったなと思い直して相澤にお礼を言った後、出品者に連絡する文章を考えた。


【発送期限が過ぎていますが、商品はいつ発送される予定でしょうか?早い到着を希望します】


ドキドキしながら送信した。

メッセージアプリみたいに既読か未読かわからないまま毎日チェックしてたのになかなか返信が来ず、結局2日経って返信が来た。


【お待たせしてしまい大変申し訳ございません。

こちらの事情で申し訳ないのですが、ただいま引越しの関係で出品しているグッズ等全てを自宅に置いていないためすぐの発送ができない状況となっております。おそらく2月末〜3月頃の発送となります。

おまけ(類似のキャラクターのグッズ)をお付けするなどの対応をさせていただいておりますが、お日にちかかってしまうのでキャンセルもお受けいたします。

ご迷惑をおかけしますがご検討のほどよろしくお願いいたします。】


すぐに思ったのが

そんなに遅れるの?1ヶ月後??まじで??

この文章、俺宛てじゃねえ!

コピペだ!!誠意ゼロ!

え?手元にない商品を出品していいんか?規約違反?

取引実績3000超え&高評価のひとがこんなお粗末な対応でいいのか?

キャンセルした人は「取引不成立」だから評価やコメントできないからこの出品者の悪い評価が無かったのか。盲点すぎて気づかなかった。


しばらく呆然としながら出品者からの返信内容を脳内でアレコレ考えてるうちに、ふと気づいた。


もしかして「おまけ」がすごいのか…??


こんなお粗末な対応も許して高評価付けちゃう「おまけ」見てみたい…

キャンセルならいつでも俺から出来る。まだ決めなくていい…よな?


【了解しました。「おまけ」はシノちゃんグッズ希望します。発送待ちます】


俺は200%な過剰な「おまけ」を期待して発送を待つ選択をした。2月上旬の夜だった。






3月になった。

2月下旬じゃなくて3月だ。

俺はやっと3章までたどり着いた。会いたくて会いたくてたまらなかったシノちゃんと出会った。装備も衣装も彼女のために貯めておいた資金で今レベで最高のものをプレゼントして充実したゲームライフを送っていた。


「パーフェクトヴァリアン・ライジングコード」(略してパーライ)は神様とか鬼とか烏天狗とか月と太陽の化身とか出てくる世界で仲間を集めて旅するゲームだ。鬼や天狗が出てくるけど日本の有名な鬼のアニメみたいな和風な感じじゃなくてハリーポッターみたいな洋風な世界観。色んなミッションをクリアしてコードを集めるとストーリーが進む仕組み。スチルもゲットできる。

俺は後発組だから攻略サイトを見たり相澤に聞いたりしながら最短ルートで進んでる。最新章まで進んでる相澤にクリアが難しい場面は助っ人頼むから今のレベルはサクサク進む。頼りになるフレンド様だ。


パーライのグッズは今発売されてるシノちゃんはあらかた手に入れた。暇な社会人はやる時はやるんだ!

推し始めの少しづつグッズが増えてくシアワセ知ってるか?楽しくてしょうがない。

俺が始めたタイミングが悪くてまだリアルイベントは経験していないけど相澤からリアイベの話は聞いた。イベントタイアップ企画や来場特典も豪華らしい。キャラのコスプレイヤーもたくさん来るらしい。シノちゃんのレイヤーさんの写真撮りたい!次回開催した時には有給取って現地行くと決めてる。


なんとなく察してるだろうがシノちゃんは俺の中ではダントツ1位、不動の1位だが、パーライのキャラクター人気ランキングでは中堅くらいの位置だ。スレンダー美人系は名脇役な位置取りになるもんな。

やはり上位は陽キャの目と胸がデカい可愛い系が強い。アンちゃんやユウちゃん、夏ちゃんあたり。

俺にはまったく刺さらないから世間一般と俺は少しズレてる自覚はある。

リアルでかしましい姉妹と母親がいるからよく喋る陽キャ女は苦手なんだ。妹属性とかも面倒くさいだけだ。俺と親父は家の中でひと言も話さなくても賑やかな家庭だと思われてる環境で察してくれ。

ちなみに相澤の推しは2番人気のユウちゃんだ。パステルカラー衣装が似合う水色髪の可愛い系。なのに戦闘時は攻撃力が高くて見た目とのギャップが人気。

同じゲームしても一度も推し被りしてないのも友情が長く続く秘訣かもと勝手に思ってる。


3月上旬が終わろうとしている。

まだ発送メールは届かない。

また催促メールした方がいいのか悩みはじめた。

取引実績3000超えの出品者の評価欄はまだ【悪い】が1件も付いてない。フリマアプリ運営大丈夫か?

俺もまだ評価できないからアレだけど謎すぎる。


【お約束の3月になりましたが、商品の発送はいつになりますでしょうか?】


催促メールした。返信来なかったらどうしよう。ドキドキする。

今度の返信は早かった。


【お待たせしてしまい大変申し訳ございません。

こちらの事情で申し訳ないのですが、まだ引越しが完了していません。グッズの整理がまだ出来ておらずすぐの発送ができない状況となっております。

おそらく3月~4月頃の発送となります。

おまけ(類似のキャラクターのグッズ)をお付けするなどの対応をさせていただいておりますが、お日にちかかってしまうのでキャンセルもお受けいたします。

ご迷惑をおかけしますがご検討のほどよろしくお願いいたします。】


少し内容違うが、またコピペ文章だった。

こいつキャンセルして欲しいのか?欲しいんだな!

グッズ探して発送するのが面倒になってキャンセル待ち??それかグッズ自体行方不明??

だんだんと腹が立ってきた。

こんだけ待って、この仕打ち!許すまじ!!

運営に言ったところで、相澤と同じ回答になるのは火を見るより明らかだ。


「キャンセル対応」


こんな簡単な事であっさり片付けられる時は過ぎたのだ。どうしたらヤツを返り討ちにしてやれるか。俺は必死になって3000君(勝手に名付けた)を懲らしめる作戦を考えた。


【引越し大変そうですね。お手伝いに行かせてください。どちらにお住まいですか?】


返信くるかな??

俺は少し意地悪なメール送ってやったとほくそ笑んだ。


【ありがとうございます。3月15日に大物の搬入手伝って貰えると助かります。10時ごろ来れますか?場所は○○県▷▷市□□町です】


は?

え??

3000君(仮名)マ???

俺はカウンター直撃したボクサーの気分になった。

これ何て返信したらいい??







3月15日

俺は3000君(仮名)に会うことになった。怖いもの見たさの欲求に負けた。

ヤバい奴かもしれないので相澤と一緒だ。週末はゲームするくらいしか予定ない友達がいてよかった。巻き込んですまん。ランダムグッズでユウちゃん出たら即献上するからな。


3000君(仮名)の住所は隣県の大きなショッピングモールの近くだった。何度か母姉妹のドライバーに指名され行った事がある場所だから地理感はある。

今日は助手席に相澤を乗せてドライブだ。BGMはパーライの音楽が流れるオタク仕様車。ゲームや推しキャラの話をしているとあっという間に到着した。


待ち合わせの10時の10分前に指定された住所に着いた。てっきりアパートかマンションだと思ってたらなんと閑静な住宅街の一軒家。レンガ造りの金持ちっぽい家だ。

あらかじめ指定されてた駐車場に停め呼び鈴を押す。


なんだか緊張する。

3000君がヤクザだったらどうしよう。

俺と相澤じゃ腕力足りねえな。

いい人ならいいな。

いい人なら平気で発送期限破らないよな。

俺ノコノコこんな場所まで来てよかったのか?

色んな思いがグルグル回りはじめた頃玄関ドアが開いた。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」


「…………おはようございます」


3000君(仮名)、勝手に男だと決めつけてた。俺はなぜこの可能性を考えて無かったのか?

3000君(仮名)は女だった。

たぶん俺達と同じくらいの年…かな?いや女の年ってよく分からんよな。ここはスルーしよ。

動きやすそうなスエットにジーパン、茶色の髪を後ろで一纏めに括って、丸メガネ。身長160はないくらい。少し小柄なキツネっぽいつり目。


「どうかしました?」

「あ、いえ、てっきり男性だと思ってたのでビックリして」


「あ〜…パーライのプレイヤー男性が多いですもんね。勘違いさせてすいません」


「いや!こっちが勝手に思い込んでただけで!」

「お友達もわざわざ手伝いに来てくれてありがとうございます」

「あ、自分、相澤と申します。今日はよろしくお願いします」

「佐原です。早速ですがよろしくお願いします」


3000君もとい佐原さんの案内で室内に入った。



佐原さんは東京でひとり暮らしをしていたけど、両親が本格的に海外移住する事が決まり、空き家になってしまう実家に戻るための引越しだった。

今はほとんど在宅勤務らしく、月に数回東京に通うのも新幹線で1時間くらいだから問題ないらしい。

ショッピングモールも近く公共交通機関も徒歩圏内。ずっとペーパードライバーだったから自家用車はまだ考えてないそうだ。

そんな他愛もないお喋りをしながら引越し便で届いた家具を運び入れ定位置決めをする。

あ、お喋りの主導は相澤な。できる営業マンはそつなく会話リードするのスゴいぞ。連れてきてマジ助かった。神様相澤様ありがとう。


「実は土屋さんの住所、事前に知ってたのでメール頂いた時に飛びついちゃいました」


俺はフリマアプリでグッズ購入しかした事が無かったから知らなかったよ。え?個人情報どこ?みないな気分になったが確かに住所氏名知らなきゃ商品発送できないか。

どうやら匿名取引もできるらしいが、途中で発送方法を変更する場合、宛先をまた教えてもらう手間がかかるらしく、取引実績3000越えのベテランはリスク低減のためその手法は取らないんだとか。ふむふむ。

勉強になるけどたぶん俺は出品者にはならないだろうな。梱包とか面倒なタイプだからな。


「佐原さんパーライどこまで進んでます?」

「あ、最新章まで行ってます」

「俺もです」

「私、ゲーム事前登録勢なんで」

「え?すごいですね!!」

相澤と佐原さんが和気あいあいと会話するのを静かに聞きながら黙々と作業する俺。

「土屋さんも最新章ですか?」

「あ〜、俺まだ始めて半年も経ってなくて…」

「え?!ご新規さん?」

俺はバカにされるのかと思ったら佐原さんの反応は逆だった。ニコニコの笑顔だ。

「ようこそパーライへ!新規さん大歓迎ですよ〜嬉しいです」

「俺が勧誘しました」

相澤はドヤ顔になった。ムカつくな。お前は部下の手柄を取り上げて出世するタイプだと確信した。


「ぜひフレンドになりませんか?蜂谷さんが困った事ありましたら手助けできます」

「私事前登録勢ですし」

先輩風を吹かせた佐原さんは携帯を取り出してアプリを開いた。今どき珍しい赤色の皮の手帳型カバーだった。なんか意外。

俺が誘われたのに俺よりも早く携帯を出した相澤が早速フレ交換しはじめた。相澤ムカつく。


「え?!」

急に大声で叫んだ相澤に俺は作業の手を止めた。


「佐原さん、このプレイヤーネーム?!」

「あ、はい。私事前登録勢なので」


俺はまだランキングとか詳しくなくて知らなかったけど、佐原さんは毎回ランキングに載るような上位ランカーだった。相澤がいなかったら知らないままだったぜ。やっぱり連れてきてよかった。


「ゲーム内も男だと思ってました!」

「あ、初期設定そのままスタートしたからゲーム内は男性なんですよ。わざわざ変えるまでもないし」

「初期は特に女性少なかったので嫌だったんです」

「あ〜…ね」

確かにナンパ目的の男とかにしつこくフレンド申請されたりしたら嫌だよな。なんかわかるわ。

ゲーム楽しみたいのにナンパ男に足引っ張られたくないもんな。そういう輩はネカマの餌食になってしまえ!


「土屋さんシノちゃん推しでしたよね?初期イベのスチル見ます?」

「見ます!見ます!!ぜひお願いします!」

佐原さんの赤い携帯の画面には、当時のイベントでしか手に入らない貴重なシノちゃんスチルが輝いてた。

「あ〜俺もコレ持ってないわ」

覗き込んだ相澤が呟いた後、急に真顔になった

「……」

「あの!佐原さんもしや俺の推しの初期スチルも持ってらっしゃいます??」

「ユウちゃんでしたっけ?実装分ぜんぶありますよ」

「佐原さん神!!仏!!天才!!あざっす!!」

「スクショいいですか?」

「どうぞどうぞ」

パーライについてああでもないこうでもないと談笑しながら俺と相澤は至福の時を過ごした。

それにしても佐原さんすごいな。事前登録勢ってことはパーライの歴史ぜんぶリアタイしてきた人って事じゃん。羨ましい。俺も8年前に戻って事前登録したい。


佐原さんはやり込むととことん突き詰めるタイプらしくパーライにかなりの時間と金を注ぎ込んでた。上位勢の入れ込み具合ちょっと尋常じゃねえな。「普通より少し頑張ってる」と言ってるが上位ランカーの普通は俺からしたらぜんぜん普通じゃない。異常だ。みんな廃人だから同じゲームしてるのに間違いなく世界が違う。相澤が上手に聞き出してくれるランカーの日常は話してるレベルがもう別世界すぎて、おとぎ話のようだった。どのくらいレベチかと言うと、新規の俺が今まで(といっても半年間)費やした時間と課金額くらいは佐原さんにとっては1週間でこなすくらいの違い。

俺だって毎日ログインしてるけどな。なんかゲームに対する姿勢が違う。すげえな。


なんか佐原さんがフリマアプリで取引実績3000以上あるのも納得した。何でも入れ込むタイプだしキッチリ結果残すまで試行錯誤しそう。たぶん仕事もできる人なんだろうな。

俺が聞きたかった謎も相澤が何気なく聞き出してくれた。なんで新品・未使用品が多いのかと思ったら、グッズ購入特典をフルコンプするためらしい。ランダムで入る購入特典をフルコンプっていくら使うとできるのか想像もつかない。世界が違いすぎる。この人を敵に回したらアリンコ(アリ以下かも)レベルの俺なんかプチって踏み潰される。仲良くさせてください。


「リアルでランカーさんに会うの初めてだよ」

「俺も」

「ランカーさんって実在してたんだな」

「めっちゃテンション上がるな」

「うぉ!俺達ランカーとフレンドだぞ!すげえな」

佐原さんが別部屋で作業があるからと消えると、相澤と俺はパーライのランキングイベント上位者の話題で盛り上がった。


佐原さんは宅配で昼食もオヤツも用意してくれ休憩を挟みつつ引越し作業は順調に進んだ。


4時過ぎたころになると

「今日はありがとうございました。本当に助かりました!」

今日は土曜日だからまだ手伝えると伝えても、佐原さんは重たいモノは終わったので、後はひとりで大丈夫だと終了となった。


「土屋さんはシノちゃん、相澤さんはユウちゃんでしたよね?まだグッズの片付け1割程度しかできてなくて、さっき開けたダンボールから出てきたモノなんですがもし良かったらどうぞ。」


佐原さんはシノちゃんとユウちゃんの絵柄のコースターを差し出した。

シノちゃんとユウちゃんのコースター!

それも周年衣装着てるミニキャラ絵柄!

パーライやってない人間には単なる厚紙にしか見えないかもしれないが、俺達にはものすごいお宝だ。

「こ、こんな貴重なモノいいんですか?」

「これシノちゃんコラボカフェコラボ初登場した時のコースターだ」

「もちろん大丈夫です。1日お手伝いして頂けたお礼なので」「今日はダンボール少ししか開けられなかったので少なくてすいません」

「また落ち着いたら他のグッズも探しておきますね」


「それで、あの…」

佐原さんは歯切れ悪く言い淀んだ

「あの…土屋さん、本当に申し訳ありません」

「土屋さんの購入予定のグッズ、まだ見つかりませんでした。ごめんなさい。」


シノちゃん周年アクスタか!!

忘れてなかったけど忘れてた!朝から驚くことが盛りだくさんすぎてここに来た目的忘れてた。


「あ〜…わかりました。グッズは間違いなくあるんですよね?」

「あります!あります!!あの時の周年アクスタは2個づつフルコンプで購入したので間違いなくあります」

…佐原さん周年グッズにいくら使ったんだ??


「すいません、至急的速やかに片付けしますのでもう少々お待ちいただけますか?」

【至急的速やかに】というセリフはパーライのプレイヤーにはお馴染みのセリフだったから思わず笑顔になる?


俺と相澤は佐原さんに挨拶をして帰路に着いた。


結局周年アクスタは「未発送」のままだけど、実際にリアル3000君に会えて理由を知ることができて満足だった。シノちゃんコースターも貰えたしな。



そして3月が終わった。

4月に入ったが相変わらずフリマアプリは沈黙したまま何の変化もない。

佐原さん?なんで??佐原さんの【至急的速やかに】って俺の考えてる「速やか」と意味違うのか??


リアルで知ってる人、それも女性に何て言って督促メールを送ればいいのか悩むな。


フレンドなんだからゲーム内チャットすればいいじゃないかだって?俺のレベルじゃ恐れ多くてあれから1度もチャットしてないんだ。初めてのチャットが督促なのはちょっと気が引ける。相澤に相談してみるかー。

なんてウダウダしているうちに4月の人事異動の慌ただしさにまみれているうちにゴールデンウィークも近づいてきた。


あの時俺だけじゃなく相澤も佐原さんとフレンドになってたのを忘れてた。



4月のゴールデンウィークの始まり、久しぶりに会った相澤の隣には笑顔の佐原さんがいた。嘘だろ??


「土屋久しぶり!」

「相澤??なんで佐原さん?」

「お前を驚かせようとサプライズゲストで呼んだんだよ!!席当選したな俺だしな!!今日パーライのコラボカフェだろ?」

「競争率高い3~4人席当てたんだぜ!」

「私も応募してたんですが全落ちしちゃいまして、お邪魔かと思ったんですがどうしても行きたくて…2人の邪魔にならないよう静かにしてますのでよろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げる佐原さん。今日は髪を下ろしてふんわりとした花柄のワンピースで初対面のときと印象が違う。同じなのは丸メガネくらいだろうか。大人なんだけど可愛い系だ。背負ってるリュックも春色のパステルカラーで合ってる。

俺は相澤におんぶに抱っこで自分で抽選予約していない身の上だ。文句なんて言えるはずもない。というか相澤…お前2人席当たったら俺に黙って佐原さんと行ってそうだと邪推する。だって相澤だからな。

「いえ、ぜんぜん大丈夫です!というかご一緒できて嬉しいです。俺パーライのコラボカフェ初めてなんです。こちらこそよろしくお願いします。」


俺達はコラボカフェだけのために新幹線に乗った。オタクすごいだろ。交通費含んだらとんでもない高級カフェだぞ。なのに味はイマイチなんだからオタクって一途で悲しい生き物だよな。知ってる。


予約時間前に予約者の行列に並ぶ。

ここに並んでる奴らみんなパーライやってんだな、なんかすごいな。

相澤の話だと3章のシノちゃん達新キャラ加入した時に大幅なバージョンアップがあり、フレンド通話機能や共闘システムや様々なユーザー要望が叶えられたことにより爆発的にダウンロード数が増えたらしい。

この時大量の新規ユーザーが増えて相澤もSNSのトレンドで見つけてダウンロードしたらしい。ゲーム内でいわゆる団塊世代って呼ばれる勢だ。

その後はイベントや周年や友達紹介キャンペーンとかで露出するたびに続々とユーザーを増やしている。


「パーライ人気だな。カフェの倍率もヤバいみたい。」

「そうですね。私も全落ちしたのは初めてです」

今回グッズスチルが大人気イラストレーターさんが担当してるらしくカフェの抽選倍率が段違いに跳ね上がった。俺もシノちゃんグッズ全制覇する意気込みで鼻息荒い。相澤も同じだろう。ランダムグッズでは協力体制もバッチリだ。

俺は初めてのパーライコラボカフェ、限定スチルグッズを手に入れる期待に浮かれていた。


[グッズおひとり様10個まで]

まさかの購入制限に俺はシノちゃんコンプできるか不安になった。その上購入チャンスは1回限りという鬼畜仕様。ランダムグッズを開封してから買い足す事ができない。なんてこった!!


カフェに入店しやっと俺たちのテーブルがグッズ購入できる順番が回ってきた。まずはランダムじゃないグッズ。しっかりとシノちゃんをカゴに入れた。よし!次はランダムグッズだ。ステッカー、缶バッジ、アクスタ、キーホルダー。俺はどうしても欲しいアクスタは思い切って10個、他のグッズは祈るように5個づつ選んだ。グッズだけで2万近い出費だが後悔はない。

相澤も似たようなカゴの中身だった。お互い早くランダムを解放して推しを自分の手でお迎えしたい気マンマンになってる。席に戻ったら開封タイムだ。

ランダムは良くも悪くもこの開封のドキドキ感はたまらない。ドキドキと推しとの出会うために1000円近いグッズを何個も買うのを繰り返して俺たちは経済を回してるんだ。冷静になったら負けだ。

俺と相澤はテーブルに戻った。もう佐原さんは席に戻っていた。早いな。

「佐原さん早かったんですね」

「はい。買うもの決まってましたから」

「ちなみに何買いました?」

「あ、全部です」

「「は??」」

「選べるグッズは2個づつ、ランダムは上限までです」

「お2人のご迷惑になるような[枠よこせ]とか言いませんから安心して下さい」

ちなみに[枠よこせ]とは購入制限があるグッズを制限枠以上に買いたい人が同席者に代理購入を依頼する行為の事だ。ルール違反にはギリギラないけど褒められた行為ではない。


佐原さんはコラボカフェグッズ購入の場面でも俺たち一般プレイヤーとはレベチだった。


カフェでの食事は想像通りの味で期待しない分それを下振れなくてよかった。鳥のエサかと思うほどのちんまりした量だった。前菜ですか?

それでもキャラをイメージした(らしい)フードメニューやドリンクを楽しめた。注文ごとに1枚付いてくるコースター狙いで佐原さんがドリンクファイトを始めて俺たちも巻き込まれて高いドリンクをおかわりして楽しんだ。

牛丼チェーン店で8杯食べられる金を払って、まだ牛丼を食べられるくらいの満腹感を得た。推しコースターの為だから悔いはない。うん。


ドリンクファイトをギリギリまでしていたので佐原さんの提案でランダムグッズ開封の儀は別の場所に行く事になった。カフェから徒歩5分くらいのカラオケ店。ここなら騒いでも大丈夫だ。


「嫌なら断ってくれてぜんぜん構わないんだけど、グッズ開封してるとこ動画撮影していいですか?」

「絶対に顔とか個人情報に繋がるモノは出さないように気をつけるからSNSにあげてもいいですか?」

俺と相澤は顔を見て見合わせた。


佐原さんの言ってるSNSってアレか?アレだよな??


パーライユーザーコミニティー[コードネーム]

当然ながら俺は完全に見る専だ。

ここでパーティメンバーを集めたり、オフ会の開催告知をしたり、自分の掃除自慢をしたり、ストの解釈披露や穴場スポット情報とか、ユーザー同時のコミニケーションチャットルーム。もちろんグッズ開封動画もいくつかアップされている。

相澤はたまにメンバー探しに利用しているみたいだ。

佐原さんは、どんな風にここで過ごしてるんだろう?


「私も楽しく開封動画を出したいといつも思ってたんですけど、パーライ内で私は「男」設定なので動画や声や性別分かりそうなモノは極力避けてまして…蜂谷さんと相澤さんなら私の正体バレてますし憧れの開封動画にご協力頂けたらめちゃくちゃ嬉しいんです」


あ、そうか。佐原さん男キャラだったわ。3000君(仮名)も男だと思ってたくらいだし。まさか有名上位ランカーが女だって知れたら騒がれてしまうよな。それはリスキーだというのは容易に想像がつく。


「個人が特定されないのであれば大丈夫ですよ」

「俺もぜんぜん構いません、やましい動画じゃないし」


佐原さんが携帯カメラ構えているので最初は少し緊張したが、いざ開封の儀がはじまると目の前の推しキャラに夢中になって撮影されてることなんて忘れた。だってシノちゃんを自引きできたんだぜ。全てがハッピーオーラに包まれるぜ。

逆に相澤は自引きできず、なぜか俺が相澤の推しユウちゃんを立て続けに2つ引いた。相澤の阿鼻叫喚がカラオケボックスに響いてみんなで大盛り上がりだった。あ、もちろんユウちゃんは相澤に渡したよ。いつも世話になってるからな。相澤に拝まれていい気分になったし。ちなみに相澤はユウちゃんだけじゃなくシノちゃんも引けてない。ダメダメだ。


数日後、パーライユーザーコミニティー[コードネーム]で俺と相澤がわちゃわちゃしながら開封してる動画が流れた。投稿者が有名ランカーだからか?バカ話をしながら絶叫する男ふたりになぜか共感してくれる人が多くコミニティー内で話題になった。


俺は動画を見終わってから、佐原さんに周年アクスタの督促するのを忘れていた事を思い出した。



5月になってしまった。

不思議なことにフリマアプリでの佐原さんの評価は曇なき【良い出品者】のままだ。次に会ったら高評価の秘訣でも聞きたいなと思った。

…会うのか?会う機会があるのか??


俺の仕事は繁忙期に入り珍しく残業してる。パーライログイン時間も減ってしまった。仕事が忙しくてメンタル落ちてる時こそ推しの摂取が必要だというのに!!佐原さんからまだ商品発送のお知らせこない。

気持ちに余裕がないせいか腹が立ってきた。


よし、請求メールしよう。早くシノちゃんをお迎えして繁忙期をシノちゃんパワーで乗り切るんだ!


俺のゲームのフレンド欄はスカスカだ。1桁しかいない。スクロールや検索しなくてもすぐに佐原さんへチャットできる。便利だ。

【お久しぶりです。土屋です。シノちゃんの周年アクスタは見つかりましたか?いつ発送になりそうですか】

とりま送信して返事を待つ。

深夜になる頃返信が来た。俺フレンド少ないからチャット着信ランプが光ってるのが地味に嬉しい。あ、相澤とは普通にメッセージアプリでやり取りしてるからゲーム内チャットはらあんま使わない。


【土屋さんお久しぶりです。チャットありがとうございます!ごめんなさい今仕事が立て込んでしまい暫く帰宅していません。】

【本当申し訳ないのですが、暫くお待ちください】


…佐原さんって何の仕事してるんだろ?ゲームの話しばかりであんま立ち入った話してなかったな。

まあでもこの繁忙期にシノちゃんに会えない事が決定した瞬間だった。頑張れ俺。



6月があっという間に過ぎた。

気温もぐんぐん上がってきた7月。

相澤からはパーライの夏休みイベントのお誘いが来た。丁度いいタイミングだったから相澤にまだ佐原さんからアクスタが届かないことを相談をしてみた。


「もう諦めたら?キャンセルして別の探そうぜ」

「佐原さんさ、最近あんまパーライもログインしてないじゃん。先月のゲームイベントも参加してなかったし。忙しそうだよ」

「ちょうど夏休みイベあるじゃん。それ口実に連絡取ってみたら?」

「断られたり、まだ先延ばしにされるようならスッパリ諦めろよ!そしたら俺とイベントで東京行く時に中古グッズ屋巡りしようぜ!!」

「佐原さんすげえ尊敬する上位ランカーだけど、フリマアプリのお粗末対応とかでお前振りまわすのはぜんぜん尊敬できないからな」


相澤いいヤツだな。さすがズッ友。

俺はシノちゃんの新品•未使用アクスタは半分くらい諦める気分になれた。


【佐原さんお仕事お疲れ様です。夏休みのリアルイベント参加されますか?俺は相澤と行きます。もし現地で会えれば挨拶したいです】


佐原さんかや返信来ても来なくてもいいや。くらい吹っ切れた気持ちになっていた。


【土屋さんチャットありがとうございます。夏のリアルイベント私も行きます!ぜひお二人に会いたいので時間あわせましょう。アクスタもお待たせしていて申し訳ありません。当日お渡しできるよう準備します】


俺は深夜に来たピカピカ光るチャット欄を何度も何度も眺めた。



8月のイベント開催日、どうせなら一緒に行こうという相澤の提案でまた駅近くで待ち合わせした。

佐原さんは夏らしい透ける素材の白いカーディガンに紺色のハイビスカス柄のタンクトップにハーフパンツ。この前と同じリュック背負って来た。


待ち合わせて予約済みの新幹線に乗り込む。


パーライのイベントは大盛況で、最寄駅に着いたらパーライグッズを身につけた人がたくさんいた。楽しげな空気にテンションが上がる。

SNSにアップする用のキャラクターパネルやモニュメントもある。グッズコーナーはすでに長蛇の列ができてる。コスプレイヤーさんも普通に歩いてる。

メインステージではパーライのゲームオープニング画像が流れパーライの音楽が流れている。お祭りだ。

俺は楽しくなっていろんなブースを回りたくなったがどこも混雑していて、これは効率よく回らないとマズイと気づいた。


「土屋さん、相澤さんコッチです!すいませんちょっと急いでください!」

スタスタと先頭を歩く佐原さん。なんか慣れてるな。佐原さんに着いていくとメインステージだった。

舞台はモニターからオープニング画像が流れているだけで閑散としている。佐原さんは俺と相澤をいちばん前の席に座らせると小さな声で


「実はあと30分でシノちゃんとユウちゃんの声優さんがサプライズゲストで来るんです」

「午前中のこのステージ1回だけなんで間に合ってよかったです」


「!!」

「!!」


「人が殺到するので告知は15分前にステージ周辺のみです。まだ大声で話さないでくださいね」

俺と相澤は首がもげるんじゃないかと思うくらい頷いた。目は飛び出そうになってる。マジか??

だってシノちゃんユウちゃんの声優さんってあんま声優詳しくない俺でも知ってる大人気声優だ。

今回のイベントに来るって事前に告知あった声優はいま絶賛売出し中の別の方だし、午後からの予定のはず。それだってステージ席は事前抽選あったぞ。


「何か飲み物買ってきます。ここの場所から動かないでください」

佐原さんは俺達を置いて近くの飲食ブースに姿を消した。俺と相澤はお互いの顔を見て少し冷静になって長いような短いような待ち時間を過ごした。

佐原さんが両手にドリンク抱えて戻ってすぐに会場アナウンスが流れてメインステージに大勢のひとが溢れた。佐原さんの言葉は本当だった。

シークレットイベントが始まった。


俺は生まれて初めてこんな近くでシノちゃんの声優さんをこの目に焼き付ける事ができた。なんで声の仕事なのにアイドルみたいに可愛いんだろ?声はシノちゃんなのに可愛い系の声優さんに釘付けだった。ネットや配信で見た事あったけどリアルはぜんぜん違う。(そこにいる)感が半端ない。目の前にいるんだから当たり前なんだがいまだに夢みてるかと錯覚するくらい夢中だ。シノちゃんも大好きだけど中の人も推せる!もっと推そうと決意した。

シークレットイベントは体感で秒だった。本当は30分くらいだけどあっという間すぎて記憶が飛んでる。


イベントが終わり閑散としはじめた会場で俺と相澤は魂が抜かれたように呆然としてた。まだ余韻を噛み締めていたい。夢のような時間だった。

「俺まだ夢みてる気分だ」

「俺も…」

少し席を外すと言ってた佐原さんが戻ってきた。


「土屋さん相澤さん大丈夫ですか?次はあっちのブースの撮影スポット行きましょう」

「あ…はい、行きます」

カルガモの親子みたいに佐原さんを先頭に俺達は移動をはじめた。



佐原さんって何者なんだ???


相澤よ、上手く聞きだしてくれ。俺は友に真相究明を託した。俺のゴミのようなコミュ力じゃ太刀打ちできねえ。


衝撃的な1日を過ごして自宅に戻り、俺は佐原さんからアクスタを受取り忘れた事に気がついた。

こんな素晴らしい1日を過ごさせてくれた佐原さんになんだか請求メールを送るのも悪いような気持ちになった。周年アクスタは中古ショップ探せば見つかるけど今日みたいな凄い1日は比べ物にならないプライスレスだ。もう請求するのはやめよう。オマケどころじゃないスゴい経験させてもらえた事に感謝しかない。

付きものが落ちたような清々しい気分になり、俺は久しぶりにフリマアプリを開いた。


【取引キャンセル】


ありがとうの気持ちを込めてボタンを押した。



9月に入り

10月になり

いつの間にか肌寒くなって11月になり

慌ただしいうちに12月に突入した。


俺はやっとパーライを最新章まで進めた。相澤と攻略サイトにおんぶに抱っこでも恥じることはない。死に物狂いでレベル上げ頑張った。


俺はあれから佐原さんに会ってない。チャットもしてない。フリマアプリもキャンセルした相手とはメッセージ機能は使えなくなる仕様になってる。

イベントの日は気が動転しすぎて佐原さんが何者なのかなんて話題どころじゃなかったし相澤が聞き出してくれるだろうからいいやと後回しにした。

でも流石の相澤もチャットの短いやりとりで個人情報を根掘り葉掘り聞き出すのはマナー違反だと感じたらしくゲームの話題しかしてないそうだ。

俺もやっと最新章に辿り着いて、ランキングの会話についていけるようになった。

(頑張ってレベル上げてる新規)って事でベテラン勢からの印象も良かったみたいでフレンドも増えた。

佐原さんとのこと、夏のイベントのことは夢だったんじゃないかと思う気持ちになっていた。


クリスマスもリアルで何の予定もなくパーライを楽しんでた。シノちゃんがサンタコスしてるスチルを入手する為にクリスマス限定イベをクリアするのだ。

年末進行で忙しくてクリスマスイベント最終日の25日までにクリアできるかギリギリのスケジュールだ。もう必死。昼休みも返上する勢いでイベント進めたよ。

イベント最終日になんとかシノちゃんスチルを入手してスクショ祭りを開催してた時にチャットのボタンが光った。


【イベントお疲れ様です。年末休みになったら会いませんか?】


佐原さんからだった。よく考えたら今までずっと俺や相澤から誘ってばかりだったから佐原さんから誘われるのは初めてだ。

クリスマスも過ぎた12月の仕事納めの翌日、数カ月ぶりに佐原さんに会う事になった。



「土屋さん、相澤さんお久しぶりです。どうぞ!」

「「お邪魔します」」

佐原さんの自宅に招かれた。なんだか緊張する。

テーブルにはたぶんショッピングモールで買ってきた惣菜屋のオードブルやサラダが並んでいた。

「少し遅いクリスマス会と忘年会と少し早い新年会しましょう」

欲張り設定に苦笑しながらなんだか一気に詰め込むのが佐原さんらしいなと思った。

パーライのクリスマスイベントの話や俺が最新章まで進んだ事を手放しで褒めてくれたり、相澤がいまやってるパーティ編成のことや新しい装備の話で盛り上がった。

「お2人にプレゼントです」

佐原さんは俺と相澤にひとつづつ紙袋を差し出した。

推しカラーのリボンに包まれてる。

「あと夏のイベントのステージ、非公開なんですがあの時の映像ありますよ。編集してないので定点ですが見ます?私たちの後頭部バッチリ写ってますよ」

「さすがに自宅以外にデータ持ち出せなくてお2人にはここまで来てもらう事になっちゃいましたが」

そんな事あるの?

トークイベントとか動画撮影やスクショ禁止だからあの夏の思い出は脳内でしか再生できなくて夢かと錯覚しそうで怖かったのに、映像また見せて貰えるの?佐原さん神ですか??

俺はすがるような目で佐原さんを見つめた。相澤も口をパクパクさせて動揺してる。そうだよな。

「「是非見せてください!!!」」

上映会が始まった。何度もリピートさせてもらった。

あまりの嬉しさと当時を思い出してちょっと涙でるくらい感動した。

その後も他愛のない話しをしてクリスマス忘年会新年会はお開きとなった。


たぶん佐原さんはパーライ運営かイベントの関係者なんだろう。聞かなくても俺だってそれくらいわかる。

いただいた紙袋のプレゼントは「後から開けてください」と言われてそのまま持ち帰った。


自宅に戻りすぐに自室に引きこもり、俺は佐原さんにいただいた紙袋の推しカラーのリボンを解いた。


シノちゃんの周年アクスタがいた。

俺が欲しくて欲しくて待ち続けた5周年アクスタ。

やっと会えた。


他にも5周年関連のシノちゃんグッズがたくさん入ってた。こんなに?それも全部(新品•未開封)だ。

佐原さん業者かよ?いやいや関係者かと思い直す。

でもグッズもゲームも自力で遊んで集めるオタク仲間なのは間違いない。


推しカラーの小さなメッセージカードには


「遅くなってごめんなさい

またよろしくお願いします」


今年の1月にフリマアプリで取引実績3000超えてる

ベテランなのに対応がお粗末すぎるレアキャラに遭遇してよかった。


俺は佐原さんに振り回されて楽しかった1年を振り返って笑顔になった。


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