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協力


数日後、ルーナはアルバートと共に、調査結果がまとめられた書状をぺらぺらと捲っていた。コーディが花街の裏にある違法な賭場へ出入りしているらしいとの情報は、どうやら真実であったらしい。


「一番街の裏通りにあるお店ですわね。本当によく見つけたこと」


ルーナはそう言って息をついた。そういえば、店に入るのを見ていた、と言っていたが、ラファエル王子も花街に来ていたのだろうか。


「……あー、彼の名誉のために言っておくが、多分花街に行っていたわけではなく、コーディを監視していた間者が見ていたんだと思うぞ」

「あら、私口に出てました?」

「顔に書いてあった。ルーナ嬢は案外わかりやすいな」


あら、とルーナは頬に手を当てた。顔に出ていたとは恥ずかしい。社交界ではあまり内心を読まれすぎてはやっていけないのだが、大分気を許しすぎているのかもしれない。


(……もっとしっかりしなくては)


ルーナはさて、と気合を入れなおす。違法賭場は国民を守るため、そして花街で正規に商売をしている同業者のためにも潰すに限る。


「賭場は潰して、その際に顧客名簿を奪取することが必要ですわね」

「まずは組合連の奴等に話をつけないとな」


この国には賭場と娼館を取りまとめる組合連と呼ばれる団体がある。国から特別に運営を任された彼等は、厳しい取り決めの下、賭場や娼館の運営を行っている。


王都の一角、賭場や娼館の集まる所謂花街にあるとある屋敷。その屋敷には、月に一度、各店の長や役人が集い、花街の治安を守る会合が開かれている。


「次の会合は確か明後日か」

「えぇ。とびきり気合を入れていきませんと、雰囲気に飲まれてしまいますわよ」






月が煌々と輝く夜更け。花街が一番輝くその時間、花街の一番奥に聳えるその屋敷にルーナとアルバートは訪れていた。


「失礼いたしますわ」


ルーナは流れる様にカーテシーをした。集まっていた組合連の人々は、孫のように可愛がっていたルーナの姿に相好を崩す。


「これはこれは御姫様おひいさま

「御姫様じゃないかい。元気にしてたかい?」

「えぇ。あなた方もお変わりなさそうで安心しましたわ」


アルバートはその姿に片眉を上げた。ここは花街を取り仕切る組合連の本部だ。公爵令嬢にはあまり馴染みがない場所のように思えるのだが。


「ルーナ嬢は以前もここに来たことがあるのか?」

「来たも何も、この組合連を作って賭場と娼館をまとめて管理するという案は、幼かった御姫様の案だからね」

「は……!?」


アルバートが信じられないものを見る目でルーナを見た。そう、十数年前、組合連を作ったのは表向きにはグラシエス公爵なのだが、その案を立ち上げたのはまだ幼かったルーナなのである。


「あの頃は賭場で身を崩して娼館へ娘を売る、なんてことも珍しくなくて、どうにかしてそういった人々を守りたかったんです」

「御姫様の発案のおかげで、こうして花街の治安も大分良くなったからねぇ」

「でも私は発案しただけで、それを使えるようにしたのはお父様ですから。そんなことより、今日はお話があって参りましたの」


ルーナは穏やかに微笑むと、ぱちんと扇子を鳴らした。傍に控えていたステラが、組合連の人々にさっと書簡を手渡していく。


「一番街の裏通りに、違法賭博場が出来ているようですわ。──しかも、お客様の中には高位貴族の方もいらっしゃるご様子」

「なんだって? それは確かなのですか」

「えぇ。そこでご相談なのですが」

「……聞くだけ聞きましょう。此度はどのようなご相談で?」


ルーナはにっこりと微笑んだ。歌うように、なんてことないように軽く、可憐な唇からは重い言葉が飛び出す。


「例の違法店を潰した暁には、顧客名簿を渡していただきたいのですわ。勿論、揉み消すつもりは毛頭無くてよ。ただ、公表するタイミングは此方に任せて頂きたいの」

「……成る程、そういうことかい」


組合連の長を務める老紳士──ジオンは、ルーナの言葉に髭を撫でた。ついとルーナの後ろに控えるアルバートに目をやる。お忍びのつもりか、控えめな服装をしているが、その人相は確かに見覚えがある。


「そちらさんは巷で噂の第二王子様だろう。まさか、賭場に入り浸る上位貴族っていうのは」

「おっと、詮索はそこまでだ。想像は勝手だが、そこから先は口にしないでくれよ」


アルバートはひらひらと手を振った。軽く語っているが、内容は国の恥だ。安易に広まっては困るのである。


アルバートは、そういうわけでと笑うと、スッと前に進み出る。


「俺たちが欲しいのは、あくまで店の顧客名簿だ。それ以外は好きにしてくれ。公表は此方のタイミングで行うだけで、外部に流出させるつもりはない。信用がないなら血判でも何でもしよう」

「……ま、王子様だけならともかく、御姫様が噛んでるなら間違いはないわな」


ジオンは値踏みするようにアルバートを見つめた。ついでルーナへと視線を移し、漸う口を開く。


「第二王子様と一緒に来た、ということは、そういうことかい?」

「お父様もご存知ですわ。我々も覚悟を決めるいい機会だと思いまして」

「……そうかいそうかい。それなら、儂らも腹を決めようじゃないか」


但し、とジオンはアルバートを睨めつけた。


「儂らはな、膝を折るべき人間にしか仕える気はない。それは王子だろうが国王だろうが同じことだ。御姫様達があんたにつくと言うから、今回だけは協力してやるが、それを忘れるな」

「上等だ。むしろそれでいい。その方が俺も張り合いがある」


アルバートはそう言って笑った。下手に誰にでもいい顔をする奴よりは、数段信用がおけるというもの。


「交渉成立ですわね」

「あぁ。御姫様と公爵様の手前、誠実な仕事をさせてもらうさ」

「ふっ、頼りにしている」


アルバートとジオンはしっかと握手を交わす。ルーナはその光景をにこにこと嬉しそうに見つめていた。



後日、違法賭博場検挙の報告とともに、顧客名簿がひっそりと公爵家に届けられることになる。フロンスとアルバートと共に中身を確認したルーナは、当該人物の名前を見つけてそっとほくそ笑んだ。


「これで叩く材料は揃ったわね」


あの王位簒奪への誘いから早数カ月。卒業パーティまではもう数週間に迫っている。


──さぁ、戦場に向かう準備を整えなくては。






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