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暗躍


星の輝く月夜。夜の帳が下り、本来ならばしんと静まり返るはずの王城には、ばたばたと大勢の慌ただしい足音が響いていた。


「コーディ殿下の様子はどうだ?」

「今はお休みになっておられる。毒物は幸い致死量に至るほどではなかったらしい」

「まさかアルバート殿下を推す派閥の奴等が」

「……滅多なことを言うな。誰かに聞かれたらどうする」


そそくさと何処かへ消えていく使用人たちを横目に、一人の少年が廊下を堂々と歩いていた。ストロベリーブロンドの髪に青い瞳の少年は、にこにこと楽しそうに笑いながら、王城の一角にあるとある部屋へと入っていく。


「なーんか好き勝手言われてますよ。殿下」

「言わせておけ。今は何を言ったところで、誰も聞く耳なんか持たん」

「そういうもんですかねぇ」


アルバートは紅茶のカップをそっと見つめた。少年──レイはそんな主に笑みを深めると、その反対側のソファに腰掛ける。


「直接俺が手を下したと言われないだけマシかもな」

「それは無いですよ。今殿下の評判はうなぎ上りですよ。治水工事に始まり、孤児院の建て替えや就職支援、貧困支援や学習支援などなど、今まで手が届かなかった部分へ積極的に手を差し伸べてくださるって」

「……まぁ、ルーナ嬢の受け売りだがな」

「ご謙遜を」


レイは"年下の"王子の言葉に目を細める。発案がグラシエス公爵令嬢のものだったとしても、それを肉付けして実行できるまでにしているのはアルバートだ。決して彼は無能ではない。


「レイ。そんなことより今は毒の出どころでしょう」


部屋の奥から出てきたメイドが、レイの前に茶器を置く。アルバート専用の御側付きである彼等の顔を見て、アルバートは漸う口を開いた。


「今回は、コーディ兄上が自室で飲んだ水差しの水に毒が入っていた。……伏されているが、問題はその時密会していた相手がいたらしくてな……」

「密会でございますか。婚約者であるグラシエス公爵令嬢なら秘密裏にお会いする必要もありませんし……新興貴族派のお客様ですか?」

「ガルシア男爵令嬢だ。最近噂のな」


あら、とメイド──カルナは口元に手を当てた。婚約者がいる男性の部屋に上がり込んで、一体何をしていたのやら。


「ベッドサイドに置かれていた水差しの水を飲んで、暫くして体調を崩したらしい。幸い毒の程度は軽く、嘔吐と軽い手足の痺れだけで済んだようだが……」

「密会中に応接間ではなく、ベッドサイドの水差しのお水をお飲みになるなんて、本当に何をしていたのやら」

「ほーんと、悪いことは出来ないよねぇ」


レイとカルナは顔を見合わせてうんうんと頷いた。アルバートも困ったように笑ってひらひらと手を振る。表向きは客人などいないということになっているが、人の口に戸は立てられない。


「今この国は平和ボケしている。……いや、平和ボケしているのは王家だけかもしれんが。これで国王陛下たちも少しは危機感を覚えただろう」


王城の中に、毒を仕込める犯人がいる。その上隣国は王位争いで国内が荒れているし、いつ国境を越えて侵攻してくるかわからない。


表面上この国は平和が続いているが、それはグラシエス公爵家をはじめとした貴族たちの努力の賜物だ。そろそろ、国王たちが生ぬるい夢ばかりを追いかけたつけが回ってこようとしているのかもしれない。


「レイ。隣国の第三王子について調べろ。動向についても逐一知らせてくれ」

「はいはーい。承知しましたよっと」

「カルナはコーディ兄上の動きについて調べてくれ」

「コーディ殿下ですか?かしこまりました」


アルバートは紅茶のカップをそっと置くと、ゆっくりと立ち上がる。上衣を手に取るのを横目に見て、レイはついと年若い主を見上げた。


「まーた公爵家のお嬢さんのところにいくんです?」

「ガルシア男爵令嬢については、ルーナ嬢に聞くのが一番だろう。公爵家の影に探らせているらしいしな」

「ふぅん?……ま、いいですけどね。殿下が楽しそうなら」


レイはそう言うと、窓からひらりと飛び降りる。カルナも笑顔で頭を下げると、しずしずと部屋から退出する。


(楽しそう、か……)


無自覚に上がっていた口角に気づき、思わず口元に手を当てる。あくまでも自分達は共犯者だ。それも王位簒奪という大それた目的の。だが、彼女と話す時間がまた楽しみになっているのもまた事実で。


『あら、また来られましたの?仕方のない人ですね』


呆れたように、しかしまた楽しそうに笑うその顔を思いながら、アルバートはふっと姿を消した。





夜のグラシエス公爵邸では、ルーナが夜更けまで仕事に精を出していた。開いた窓から吹き込む夜風に、ぺらぺらと書類が捲れる。


その手元にあるのは、不貞の証拠となりうる影からの報告書の束で。料紙を繰りながら、ルーナはふむ、と独り言ちた。


(ドレスを揃えたブティックは割れたわね。後は証言をさせるだけだけど、高級店は守秘義務があるってなかなか口を割らないでしょうね)


さて、どうやって口を割らせようか。やりようはいくらでもある。それとマリーナ嬢につけていた影から、二人が王城で密会しているとの報告も受けている。


(デートだけでは飽き足らず王城で密会とは……いい度胸だこと)


ギッと窓枠が軋む音がした。ぴたりと動きを止めたルーナは、視線を向けることなくふっと口角を上げた。


「あら、いらっしゃると思っていましたのよ」


ルーナは月明かりの中、この上なく楽しそうに微笑んだ。


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