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第9話 姉妹共同戦線

「姉ちゃんは空中にいる異形の始末に回ってくれ。アタシは地上の奴らを一気に片付ける」

「ええ。援護射撃は任せて」


 時は少し遡り、柳義と槐斗が央殿を去って間もない頃。

 要梅と桐玻は央殿に溢れかえった魑魅魍魎(ちみもうりょう)と対峙し、体勢を整えていた。


「絶対にアタシより前に出ないでくれよ、姉ちゃん。姉ちゃんに何かあったらアタシは発狂してどうなるか分かったもんじゃねえから」

「はいはい」


 苦笑する桐玻に要梅は口の端を吊り上げ、頭頂部のサングラスをかける。

 戦闘時はお気に入りのサングラスをかけて気合を入れるのが、彼女のこだわりだった。


「そんじゃま、大鬼門に行く前の準備運動も兼ねていっちょ暴れるか!」


 要梅が駆けだしたと同時に、傍にいた白虎も動き出す。

 白亜の猛虎は次々に異形を噛み千切り、灰燼にしていく。


「一匹一匹斬ってくのは面倒だな」


 餓鬼を斬り伏せた後、要梅は霊術を行使した。


白鑞金はくろうきんむち〉」


 すると、要梅が持っていた打刀が白鞭へと変換した。

 白光する霊力を帯びた鞭を大きく振り回し、周囲にいた異形を纏めて囲う。


晩秋鞭ばんしゅうべん


 そのまま鞭で異形を締め殺した。

 一方、桐玻は飛行型異形を次々に射撃していく。


極暑炎弾ごくしょえんだん


 鵺や雷獣、姑獲鳥うぶめ等の飛行型異形が紅炎に包まれ、苦悶の鳴声を発しながら燃え朽ちていく。

 朱雀も熱風を吹かせて、異形の数を着実に減らしていた。


「ふう……。思ってたより時間がかかりそうですね」


 桐玻が一息ついたところで、大立ち回りをしている妹に視線を向ける。

 すると、鞭で一纏めにしている要梅の背後に巨大な猫又が襲いかかろうとしていた。

 桐玻はすぐさま狙いを定めて炎弾を撃つ。

 胴部を撃たれた猫又は奇声をあげて火達磨になり、あっけなく灰燼と化した。


「悪い姉ちゃん、助かった!」

「これくらいお安い御用です」


 ――はあああああッ! 可愛い&カッコよすぎだろおおおお‼


 的確な援護射撃と可憐な微笑に、要梅は悶絶する。

 そこで、凄まじい咆哮が耳朶じだを打った。

 姉妹が声がした上空を見上げると、そこには犬型異形の姿があった。橙色の巨躯に黒の縞模様と、その体躯は虎にも似ている。


天津狗あまついぬか。ちょっとは骨がありそうな異形だな。釼鋒金じんぼうきん〈刀〉」


 要梅は鞭を刀に戻して構え直す。


「要梅ちゃん」

「ああ。まだ雑魚が残ってるから、姉ちゃんはそいつらを。アタシは天津狗を始末するから、雑魚をこっちに近づけないようにしてくれ」

「分かりました」


 頷き合って、要梅は思い切り地を蹴り天津狗に近づいていく。

 天津狗も要梅を認識して空中から地面へと降り立った。そして、再び威嚇の咆哮を天に向けて放った。


 要梅が突っ込んでいく中、桐玻は瞬時に照準を定めて速射していく。

 白虎や朱雀も要梅に立ちはだかる異形を狩り、道を切り開く。

 要梅と天津狗の距離が数メートルになったところで、天津狗が炎を帯びた牙を剥いて猛突進する。


飛刃白秋ひじんはくしゅう!」


 要梅は縦横無尽に刀を振り捌く。

 数個の三日月形の刃が襲い来るが、天津狗は全ての飛刃を牙で焼き砕いた。


「チッ」


 すると、後方から鈍い発砲音が響いた。

 要梅の両端を通り過ぎて、二羽の朱雀を模した幻弾が天津狗を襲う。

 しかし天津狗はこれを回避し、また空中へと昇る。今度は桐玻のいる方向へ駆けていく。


「おい待てゴラァ‼」


 要梅はすぐさま刀を鞭に変換させて、天津狗に差し向ける。


「テメエの相手はこっちだっつうの!」


 天津狗を捕縛した瞬間、先ほどまで戦っていた場所へと放り投げた。

 後方に飛ばされて、天津狗は唸り声をあげる。


「ハッ、何だよ。アタシが相手じゃそんなに不満か?」


 再度鞭を刀に戻して、要梅は天津狗を挑発する。


「どうしても我が愛しの桐玻様にお近づきになりたいってんなら、アタシを殺してから行きな。……来いよ」


 挑発に乗り、天津狗は凄まじい怒号をあげながら凄まじいスピードで迫りくる。


「要梅ちゃん!」

「大丈夫」


 右手を翳すと鞘が出現し、要梅は納刀する。

 そのまま片膝を立て、少し腰を浮かせて居合の構えをとる。

 そして、炎牙えんがが肉薄しようとしたその時――


居合金秋いあいきんしゅう


 目にも止まらぬ速さで抜刀し、天津狗を迎撃する。

 黄金に光る刃が横一閃すると共に、数多の黄金の紅葉が弾けた。

 橙の巨躯が真っ二つに分断されると、天津狗は灰燼と成り果てて無残に地に落ちる。


 要梅は刀を納め、サングラスを頭部に戻すや否や桐玻の方を振り返った。


「やったぜ姉ちゃん」


 右手の親指を立て、ウインクして皓歯を覗かせる妹に、姉も清麗な微笑みを湛えて同じくグッドポーズを返す。

 あまりの破壊力に、要梅は思わず仰向けになって倒れてしまいそうになった。


 ――マジ天使ッ‼ 尊死……。

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