98 リルリランドの危機 3
鳥人族を制圧し、しばらくしてギガンテス族とトロル族の集団がやって来た。城壁に登り、ギーガが止まるように勧告する。
しかし、これは聞き入れられなかった。
「俺達の大切な棍棒を返せ!!」
「お前達が犯人だという証拠もあるんだ!!」
大切な棍棒?
言っていいる意味が全く分からない。とりあえず、ギーガに聞いてみる。
「ギーガ、彼らは何を言っているの?」
「俺達オーガ族とギガンテス族、トロル族は棍棒という武器を神聖視しています。それぞれの部族には特別な棍棒が宝物庫に納められているのですが、多分それが盗まれたと言っているのだと思います。因みにオーガ族の特製の棍棒はアイリス王女に無残に切り刻まれましたけど・・・」
棍棒を宝物庫に納める神経は分からないが、大切な棍棒が盗まれたということは分かった。
「ここは俺が行って話をつけてきます!!」
ギーガは颯爽と巨人部隊の前に姿を現した。
「何を馬鹿なことを言っているのだ!!お前達は騙されているんだ!!」
「そうか!!分かったぞ。お前が裏で糸を引いていたんだな。俺達を恐れて卑怯なことをしやがって!!」
「四天王の座を争った俺達二人が実力をつけたのが不安でこんなことをしたんだろうが!!」
「俺達がやったという証拠をまず見せろ!!」
「聞いて驚くな!!」
ギガンテス族とトロル族の代表が言うには、宝物庫の棍棒が盗まれ、鳥人族と同じように「棍棒を返して欲しくば、1000万ゴールドを用意してリルリランドに来い」という犯行声明文が残されていたそうだ。そして、その後の展開も同じで捜索中にゲマルと遭遇し、ゲマルが犯人グループのメンバーを討伐したという展開だった。
どう考えても怪しすぎる。
ギーガは必死に説得しているようだが、上手くいってなさそうだ。
「だからそんな訳ないだろう!!それにお前達ごとき、今の俺なら棍棒がなくても素手で十分だ!!」
「ギーガ!!このガンテス様を馬鹿にしているのか?四天王の座を掛けた戦いでは敗れたが、それでもほとんど差が無かったと思うがな!!」
「そうだ!!このロルゾーとガンテスが戦いで弱ったところを姑息に勝ちを拾っただけだろうに!!」
「だったら二人まとめて掛かって来いよ!!そんな大きいだけの不細工な棍棒を持っている奴とトゲトゲの変な棍棒を持っている奴に負けるはずはない!!」
「なんだと!!オーガ族の棍棒だって俺達のデザインのパクリじゃないか!!」
「そうだ!!棍棒の先にはこのトゲトゲの鉄球を付けることが基本だろうが!!」
「これを見てもそれが言えるか?この棍棒は俺が今いるムリエリアで特別に作らせたものだ。斬新なデザインで威力も・・・・」
一体彼らは何の話をしているのだろうか?
棍棒の話で盛り上がっている。セバスが近付いてきて言う。
「これは話し合いで終わらないかもしれませんね。棍棒のこととなるとあの三種族はこだわりが強すぎるので。それにあの三人は四天王を決める選考会で戦ってます。僅差でギーガが勝利したのですが、史上稀に見る大接戦で、あの二人は未だに負けを認めてませんからね。
因みに三代目の魔王様が四天王に棍棒枠を設けたのが三種族が争うようになった原因と言われてますね」
三代目魔王よ、何をやっているんだ!!
まあ、それで四天王最弱のギーガが誕生したのも頷ける。ゲームではギーガより強い魔物が結構出て来たんだけどね。
そんなことよりも、戦いが始まるようだ。
「2対1で負けたからって後で卑怯とかいうなよ!!」
「そうだぞ、お前が掛かってこいって言ったんだからな!!」
「早く来いよ!!もし負けたら四天王は譲ってやるよ」
その言葉を合図に戦いは始まった。ガンテスとロルゾーは棍棒を振り上げ、一気にギーガに振り下ろす。ギーガはそれを余裕の笑みを浮かべ、ギリギリまで引き付けた。そして、棍棒で一気に下から上にガンテスとロルゾーの棍棒を薙ぎ払った。
すると二人の棍棒は粉々に砕け散った。二人は呆然としている。ギーガはというと、自分の棍棒を地面に置き、二人に言い放った。
「お前達に棍棒を使うまでもない。素手で十分だ!!」
これにキレた二人はギーガに向かって行く。しかし、「パワーファイター」で「拳闘士」もマスターしているギーガに敵うはずもなく、すぐに地面に転がっていた。
「こうなったら巨人化してやってやる」
「巨人化してからが真の戦いだ」
「巨人化するまでもない」
体の大きさが3倍に膨れ上がった二人に対してギーガは落ち着いている。向かってきたガンテスの腹に正拳突きを見舞い、ロルゾーを投げ飛ばした。
「なぜ、ここまで差が出るのだ・・・・」
「あのときは互角だったはずだが・・・」
「それは、訓練だ。弛まぬ努力は裏切らん!!」
「今のお前には我らの棍棒なんて必要ないだろうな。お前は犯人ではないと断言する」
「そうだな。2対1で負けたのだから何も言うことはない」
よく分からないが、族長の二人は納得したようで、これ以上の戦闘は回避できそうだった。
そんなとき、ギーガはいきなり、町に向かって走り出した。
「ちょっと待ってろ!!お前達二人に渡すものがあるんだ!!」
しばらくして戻って来たギーガの手には大きな棍棒と先っぽにトゲトゲの鉄球がついた棍棒があった。
「これをお前達にやるよ。結婚祝いだと思って受け取ってくれ」
ガンテスとロルゾーはそれぞれギーガから手渡された棍棒を手に持ち、うっとりとしている。
「これは凄い!!宝物庫で盗まれた棍棒の比じゃないくらい素晴らしい」
「ギーガ、本当に貰っていいのか?勝負に負けたのに?」
「お前達が怒っていたのも結婚式で使う予定だったんだろ?これなら結婚式で使えるし、性能もバッチりだぜ。それに奥さん用の棍棒も用意してるんだ。これは好みが分からないからリルリランドの店で買ってくれたらと思うよ。他にも色々種類を用意しているからよかったら連れて来たみんなも店を見ていってくれ」
「よし、お前達!!いい棍棒の店があるからついて来い!!」
「ギーガ、トゲトゲの鉄球の大きさはオーダーメイドできるんだろうな?」
そんな感じで当初の目的を忘れてしまった巨人部隊はぞろぞろとリルリランドに進んでいく。するとギーガが私に近付いてきて言った。
「これで棍棒の売り上げが伸びますね。これでも俺は勉強したんですよ。その人の必要としている物を見繕って買ってもらう。それに知名度の高い奴の口コミも大事ってことも分かりました」
私は感動した。ギーガは密かに勉強して、リルリランドに棍棒専門店をオープンしていたのだ。ギーガによると職人自体が他の武器の片手間で作っていて、質が悪かったそうだ。それならと思い、ちゃんとした職人がそれなりの素材で作れば絶対に売れると確信したそうだ。
リルとリラには散々教えたのに全く理解してくれなかったが、ギーガは持ち前の真面目さで、私のビジネスモデルの一つを理解し、実践していた。
「凄いわ!!私としては研修を終了して、正式に四天王業務に復帰してもいいと思っているわ」
「あ、ありがとうございます。でも、もっと勉強したり、訓練したりしたいんで、もう少し居させてください」
「じゃあ、今回の件を含めてだけど、給料をアップさせるわ」
「本当ですか!!これからも頑張ります」
そんなほのぼのとした雰囲気に水を差す奴が現れた。
神官服を着て、目つきの悪い小柄な魔族、そうエジルの懐刀のゲマルだ!!
「皆様!!騙されてはなりませんぞ!!すべては魔王ミザリーの策略なのです!!」
リルリランドに入ろうとしていた巨人部隊の面々が足を止める。
問答無用でこの馬鹿を討ち取ってもいいだけど、少し話を聞いてやるか。
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