96 リルリランドの危機 1
「た、大変です!!ついに来ました」
「や、ヤバイ・・・リルリランドが・・・」
会長室に飛び込んできたのはリルとリラだ。かなり前から対策をしていたのだけど、よりによってこんなときに・・・・。
話はかなり前に遡る。
ミザリーがヤマダ商会に魔王軍の立て直しを依頼してきた頃だ。そのとき、何の気なしにミザリーに質問をした。
「ところで、ミザリーさんの故郷ってどんなところでしょうか?」
ゲームではミザリーの故郷の村が人間に偽装したエジルの手の者に襲撃され、更にミザリーに呪いが掛けられる。偽装と気付かずに人間に激怒したピエールが人間世界に本格的な侵攻を開始するからだ。
「実はですね。最近全員リルリランドに移住したんですよ。故郷の村はダークエルフだけじゃなく、魔族とドワーフのハーフのダークドワーフも多く住んでいたんですが、リルリランドで鍛冶仕事が多くあるというので、ダークドワーフ達が中心となって移住を決めたんですよ。
故郷の村は特に資源もないところでしたし、元々の成り立ちも差別や迫害を恐れてハーフや弱小種族が隠れ住んでいただけですからね」
それって、これまでの流れから考えて、システムの修正力からすると襲撃されるのはリルリランドになる可能性が高いんじゃないの?
考えすぎか?
でも一応の備えはしておくべきだろう。
ということで、私はミザリーに可能性の一つとして伝えることにした。
「策謀を巡らすエジルとしたら、魔王としてのミザリーさんの怒りを人間に押し付けるため、リルリランドを襲撃して、人間の仕業に見せかけるようなことをやってくるかもしれません。あくまで可能性の一つですが・・・・」
「それはそうですね。エジルは『ピエール様がこうなったのも人間の仕業に違いない』と常々言っていたそうです。自分でやっておきながら、どの口が言うんだと思うんですが・・・」
「杞憂に終わるかもしれませんが、一応備えだけはしておいた方がいいかもしれませんね」
「もちろんです」
それからは町に防壁を建設したり、関所を設置して町に入る者のチェックを強化したりしてインフラを整え、住民を訓練して、ある程度自分達で対処できるようにしていた。
防衛を私達便りにするのはリスクが大きいすぎるし、基本的に自衛が基本だからね。
★★★
ミザリーの魔王権限でリルリランドとヤマダ商会の秘密の部屋に転移スポットを設置しているし、セバスの部下を毎日1回は定期報告に来させるようにしているので、襲撃の予兆も迅速に把握することができたのだが・・・・
時期が悪すぎる。
というのも旧転職神殿復興プロジェクトが思いのほか上手くいったことで、主要なメンバーが出資してくれた各国へ挨拶回りに行ってしまっているのだ。そして、挨拶回りの最後にはダグラス達が開拓している通称「勇者の町」の視察に行く予定だ。
共同代表のアイリス、ムリエル王女、サマリス王子、ライアット皇子、キアラ王女はもちろんだが、アイリスのお供ということでバーバラとクリストフが同行する。クリストフなんて、止めても行くだろうし。
そして、バーバラの秘書としてベビタンも同行している。これには賛否があったが、まあ何とかなるだろうということで、同行が認められた。
更にケルビンはムリエル王女とサマリス王子の護衛、ミレーユもライアットの付き添いと言い張って同行した。因みにミレーユは転職して「治療術士」となり、「謎の盗賊団」を退団し、正式に転職神殿に就職してしまった。そして、レナードもキアラ王女に誘われて同行することになっているのだ。
それにハイエルフのディートリンテも同行している。苦労して開拓した結果、風のクリスタルがもらえず、もうすでに私が持っているということになったら、ダグラス達はショックだろうと思い、上手く町が発展していたらご褒美で風のクリスタルを渡してほしいと私がお願いしたからだ。
「いいよ。みんなでワイワイしながら世界を巡るのも初めての経験だから、逆に感謝しているよ」
これで、風のクリスタルがダグラスに渡る可能性は高くなったのだが、ムリエリアに主要なメンバーが今はいないのだ。
つまり、ここにいるメンバーだけで対処しなければならないのだ。
すぐに先代魔王ピエールの病室に集合した。集まったのは、魔王のミザリー、四天王のセバスとギーガ、四天王候補のリルとリラ、旧転職神殿復興プロジェクトの視察旅行を辞退したドーラだ。
「くそ!!体が元通りなら、我が真っ先に向かうのだが・・・・」
「ピエール様、落ち着いてください。ここで無理をしたらすべてが無駄になります。もうすぐレベル5になりますから、そうすれば・・・・」
付きっ切りで介護しているライラが窘める。
まずは、状況を把握しなければならないので、詳細をセバスが説明する。
「リルリランドに魔王軍の何かしらの部隊員のような者が50名程いきなり襲撃して来たそうです。これは自警団が総出で反撃し、何とか追い返したそうです。すぐにこちらの隠密部隊が後を付けたところ、リルリランドから徒歩で2日程の平原に軍勢を終結させているとの報告がありました。
それと、もう一つ気になることが・・・・大変言いにくいのですが、鹵獲した馬車の中に大量の人族の死体があり、ほとんどの死体に矢が刺さっていたようです。死体をお見せすることはできませんが、刺さっていた矢はお持ちしました」
セバスが矢を私達の前に示した。
ミザリーが言う。
「これは私達ダークエルフが良く使っている矢です。それから考えて、リルリランドの住民を皆殺しにした後にこの人間達の死体を町に散りばめて、人間達の襲撃に見せかける予定だったのでしょうね」
「なんだと!!それが誇り高い魔王軍のすることか!!この棍棒で全員ぶっ潰してやる!!」
ギーガが怒るのも無理はない。私だって、許せない。どこで人間達を手に入れて来たか分からないが、こんなことのために使われるなんて絶対許せない。
気が付いたら、私が会議を仕切ってしまっていた。
「絶対に許さないわ!!すぐに現地に向かいましょう。ピエール様とライラは引き続きピエール様のレベルアップをお願いします。転職神殿の手配はこちらでしておくから、戦えるようになったら合流してください」
「分かった。ライラ殿、悪いがこれからレベルアップに向かおう。町の存続が掛かっているから少々の無理は許してもらうぞ」
「分かりました。でも本当に無理なら止めますからね」
ピエールとライラは部屋を出て行った。
残った私達は会議を続けた。
「籠城戦をするとして、どれくらい食料はもつ?足りなければこちらから転移スポットで補給はできるけど・・・」
「半年くらいなら余裕ですね。それくらいの備蓄はしています。それに武器類も多くありますので問題はありません。強いて言うなら指揮官クラスの人材が不足していることでしょうか。それもギーガとドーラさんがいれば問題はないと思います」
「分かったわ。皆さんはすぐにリルリランドに向かってください。私は少し、仕事の引継ぎをして向かいます。それにライラが開発中の新兵器も持って行きますからね。
それとリル、リラ!!貴方達は領主なんだから、絶対に住民の前で不安そうな態度はしないでよね。堂々としてなさい」
「「はい!!」」
私は皆を送り出した後、会長室に戻り、各種調整を手早く済ませた。
そしてふと思った。
これから一緒に戦うメンバーは、魔王ミザリー、四天王のセバスとギーガ、ゲームでは、散々工作活動をしていたドーラとリルとリラ・・・
あれ?なんか私って密かに闇落ちしてないか?
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