9 裁判の行方
拘留されて30日が経過した。今日はいよいよ裁判のときだ。私の事件は注目の事件で、大法廷で一般の傍聴人も入れて行われるらしい。それに国王をはじめとした王族も出席する。なので、当日に判決を言い渡されるようだ。
思えば、拘留生活は意外に楽しかった。ご飯は美味しいし、色んな人が面会に来るし、ロレーヌ伯爵と和解してぶっ壊れ装備も手に入ったし・・・。
それにムリエル王女とは本当に仲良くなった。毎日のように面会に来てくれる。ダグラス王子も頻繁にやって来て、最後のほうは騎士団の訓練にも参加させられた。「女帝の鞭」を試しに使ったが、本当に無双状態だった。訓練では鞭は使わず、主に木剣を使っていた。
サマリス王子は従者に止められていたようで、最初の面会以外会ってはいない。
裁判はというと予定通り進行した。
私の罪状が読み上げられ、弁解を求められた。
「何も言うことはありません。言い渡された刑に潔く服します」
傍聴席から称賛の声が上がる。裁判長が「静粛に!!」と注意するほどだった。
そこからは少し普通の裁判と違っていた。私を弁護する証人ばかりが証言するのだ。孤児院の子供達やライラ、それにルイーザさんやラクーンさん、冒険者仲間が次々と私を擁護する証言をする。
ルイーザさんなんかは、興奮して
「そもそもアンタら役人がしっかり仕事をしてないからこんなことになったんだろうが!!警備隊も本当に情けない。若い女に殴り倒されたので処罰してくださいだあ?ふざけんな!!玉は付いてんのか?もしクリスに重い処分を下すようなら私が全員ぶっ殺すからな!!」
と怒鳴ったので退廷させられてしまった。
そして父であるロレーヌ伯爵も証言台に立つ。
「クリスは私の大切な娘です。法律に違反した行為ですが、親としてクリスの取った行動は誇りに思っております。被害に遭われた警備隊の皆さんの治療費は、当家が全額負担いたします。何卒寛大な処分をお願い致します」
大物貴族にここまで言われたら、重い処分は出せないだろう。
私を起訴した検事でさえ、「本当に仕方なく自己防衛のために実力行使に出たということでいいですね?」「警備隊に暴力を振るったのも、大臣に買収されている可能性があり、本当に仕方がなかったということですよね?」とか私に有利な質問ばかりをしてくる始末だ。
そして最後に騎士団長のマッシュ・バーンズが証言する。
「今回の事件は騎士団に属する警備隊の不祥事が一つの原因と言えます。怪我をした隊員の治療費も全額ロレーヌ伯爵家が支払ってくれるとのことですので、被害の訴えは取り下げさせていただきます」
後日聞いた話だが、警備隊の被害申告は裁判前に取り下げる予定だったそうだ。しかし、警備隊の隊員の中にはそれなりの貴族の子弟も在籍しており、取り下げることができなかった。なので、今回の裁判で私を擁護する空気になったところで取り下げることにしたようだ。
流石にこの空気では、被害申告を取り下げないなんてできないだろう。
傍聴席から拍手が起こる。
裁判長が再度「静粛に!!」と注意し、場が静まったところで裁判長が判決文を読み上げた。
「被告人クリスティーナ・ロレーヌを禁固30日及び罰金3万ゴールドの刑に処する。なお、未決拘留されていた期間30日を禁固刑扱いとする。罰金についてはドーラ一家の拘束に協力した報奨金をこれに当てるものとする。
社会的制裁として勇者パーティ―への参加資格を剥奪するものとする」
やった!!やったぞー!!!!
裁判までの拘留期間が禁固刑扱いだし、罰金も形だけのもので、これは実質無罪のようなものではないか!!
それに念願だった。勇者パーティー不参加が決まった瞬間だ。
私は叫び出したい気持ちを抑え込み平静を装い礼を述べた。
「多大なるご配慮感謝いたします。ご迷惑をお掛けした警備隊の皆様には深く謝罪いたします」
これでクリスのバッドエンドは回避した。これからはゲームのタイトル風に言うと「クリスの異世界のんびりスローライフ」が始まるのだ。週に2~3回冒険に出て鞭を振り回し、稼いだお金でのんびり過ごすのだ。誰が勇者になるかは分からないけど、勇者が魔王を打ち倒して平和な世界を取り戻してくれたら、世界各地を巡る旅に出てもいいかもしれない。
待てよ、ここはゲームの王道である農場経営もいいかもしれない。孤児院の子供達を雇用して、モフモフに囲まれて余生を過ごすとかいいな。農場の名前は何にしようか?
「クリスファーム」?「山田農場」?
モフモフした魔物や動物を集めて「モフモフ天国」とかどうだろうか?
私が妄想に浸っていたら突然、ダグラス王子が声を上げた。コイツのせいで私の希望は打ち砕かれることになった。
「裁判長!!ちょっと待ってくれ。勇者パーティーの参加資格剥奪は取り消してほしい。もし俺が勇者に選ばれたら間違いなくクリスは冒険に連れて行く。もし不都合があるならクリスを妃として娶ってもいい」
これにサマリス王子とムリエル王女が続く。
「そうです。私が勇者に選ばれてもパーティーに加わってもらいます。そして私を厳しく仕付けて、導いてほしい」
「私もです。クリスお姉様のように強くて、心優しい女性はいません。ダグラス兄様かサマリス兄様と結婚してくれれば、私達は姉妹になれますし・・・・」
これはヤバい・・・・。バッドエンド回避の流れから一転し、勇者パーティーの最有力候補となってしまったし、それに王子の妃候補にもなってしまった。ロレーヌ家は伯爵家なので家格としても十分だろう。
脳筋か?ドMか?究極の選択だ。
王子達の発言を受けて、裁判長は席を立って国王や宰相と協議を始めた。しばらくして裁判長が席に戻り、発言する。
「勇者パーティの参加資格剥奪は撤回する」
傍聴席からは割れんばかりの拍手が起こった。
ど、どうしてこうなった?
裁判後、私の気持ちも知らず、空気の読めない主人公3人が近付いてきて次々に声を掛けてきた。
「別に礼なんていらないからな。この借りは勇者パーティ―の活躍で返してくれ」
「どうしてもお礼をしたいというのならこの鞭で私を・・・・」
「お姉様、今度はお茶会を開きませんか?社交界に復帰してみては?」
こいつら好き勝手言いやがって!!
本当なら三人とも鞭でシバき回してやりたいところだが、なんとか心を落ち着かせた。
私は引き攣った表情で言う。
「本当にありがとうございました。この御恩は必ずお返しします」
勇者発表セレモニーまで後5ヶ月弱、残された時間は少ない。
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