84 魔王って?
勇者パーティーを送り出して、2週間が経った。無事、「ドレインの壺」を入手できたようだ。次は水のクリスタルを入手するために別の大陸に移動中とのことだった。報告書を確認し、事務処理をしていいたところ、慌てた様子でリルとリラが会長室に駆け込んできた。
「た、大変です!!魔王です。魔王様が視察に来られます!!」
「や、ヤバいですよ。どうしたら・・・・」
「ちょっと、落ち着きなさい!!それでいつ来るのよ?」
「「今日です!!」」
「はあ!?」
何でこうなるのだろうか?
リルとリラに事情を聞く。呆れて物も言えない。
魔王からの度々の出頭要請や面会希望などをことごとく無視してしまっていたらしい。魔王軍の関係はセバスに任せていたので、チェックすることを怠っていた私にも責任はあるのだが。
「セバスさんは何も言わなかったの?」
「魔王様の親書がどうのこうの言ってました。でも仕事をさせられるのが嫌で逃げてました」
「セバスに任せたんだから、セバスの責任です」
自分達が無責任なことをしておいて、責任を擦り付けるなんて、コイツらは何を考えているんだ!!
「分かったわ。言いたいことは山ほどあるけど、それは後にして、魔王はいつ、誰と、どうやって、ここに来るの?それに魔王ってどんな人なのかしら?それに目的は?」
「うーん、会ったことがないんで分からないです。多分怖い人だと思います」
「目的は・・・・世界征服ですね。多分・・・」
リルとリラに聞いた私が馬鹿だった。
ゲームだと、魔王はピエール・ド・ミーラ。
良識ある魔族だったのだが、人間に異母妹が住む故郷の村を襲撃され、妹は呪いに掛けられる。妹以外の村人は皆殺しにされるのだ。この事件がきっかけで、魔王ピエールは人族の抹殺を決意し、侵攻を開始するのであった。
しかし、実はこの襲撃事件には裏があり、良識的な魔王ピエールに人族の世界への侵攻を決意させるために側近の一人が画策したもので、人間は関与していなかったのだ。
ある意味悲しい物語だったが、リメイク版ではこの側近の一人が裏ボスになる。
ゲームだと、側近に騙されたピエールは禁術や薬物で無理やり強さを手に入れたため、理性を失っていたんだけど・・・・。
それに襲撃された故郷の村ってどこなのだろうか?もう襲撃事件は終わっているのか?
記憶では、勇者パーティーが出発して船を手に入れ、クリスタルが4つ揃う頃にそういったイベントがあったはずだ。この世界はゲームの世界とはストーリーが変わってきているので、何とも言えないが・・・
魔王が単身乗り込んできただけなら、今のメンバーがいれば討伐は可能だろう。後は一般市民の被害をどう抑えるかだ。人質を取られても面倒だし。
そんなことを思いながら対策を練っているとスタッフが会長室にやって来た。
「リル様とリラ様の執事と名乗るセバスさんという方が来られていますが、お通ししてよろしいでしょうか?」
魔王が来る前の先触れでセバスが来てくれたのは不幸中の幸いだろうか。
「すぐにお通しして。お茶を出したらすぐに下がってもらっていいわ」
★★★
会長室に入って来たのは、セバスだけではなかった。四天王最弱のギーガ、リルリラ祭で私が指導したミザリーも一緒に来ていた。
スタッフを下がらせた後、私はセバス達に挨拶をする。
「セバスさんもギーガさんもミザリーさんもリルリラ祭以来ですね。人間社会では私がリル様とリラ様の上司ということになっております。なので、私がリル様とリラ様に命令するようなことをしても、ご容赦ください。工作活動にはこれ位が丁度いいんですよ。
今は人払いしましたので、リル様とリラ様、いつも通りにしていただいても構いませんよ」
セバスが言う。
「分かっておりますよ。工作活動で大事なのは相手に気付かれないことですからな」
一方、リルとリラは何を勘違いしたのか、偉そうなことを言い出した。リルとリラの中では、偉そうに上から目線で話すことが威厳を示すことだと思っている節がある。今も、何かにつけてマウントを取ろうと必死だ。今後のことを考えると少し指導をしたほうがいいかもしれない。
「おい!!セバス!!魔王様がいきなり来るってどういうことだ?」
「そうだ、何も聞いてないぞ!!」
「それは、前から魔王様の出頭要請がありまして、忙しいようなら現地で面会するとも仰られていたのですが、それも無視されたので・・・」
「うるさい!!口答えするな!!それになんだ、変な奴らを連れてきやがって」
「弱っちい自称四天王と領主見習いのダークエルフじゃないか」
「リル様、リラ様、それは少し失礼では・・・」
「何が失礼だ。いいことを思い付いた。自称四天王と領主見習いで魔王様をもてなせ」
「いい考えだ。特にそこの領主見習い、これくらいの問題に対処できないようでは、領主としてやってきいけないぞ!!」
「そうだな、少し勉強でやってみろ。私達はチャンスを与える寛大な領主だ。それに「忍者」だしな」
「うんうん、それに自称四天王も手伝ってやれ」
「忍者」は関係ないだろうし、流石にギーガとミザリーに命令する権限もない。それに勉強が必要なのは貴方達でしょ!!
二人の発言でなぜか、セバスが震えていた。何か、ヤバいことでも言ったのだろうか?
すると突然ミザリーさんが話始めた。なぜか凄く怒っている。
「もういいです!!仕える主君の顔も分からず、臣下に対する傍若無人な振る舞いは許せません。それに度重なる命令の無視を含めると四天王への昇格は見送ります。そして「魔将」の地位も剥奪し、幹部工作員から下級工作員に降格します!!」
「何を言っているんだ領主見習いごときが!!」
「そうだ!ダークエルフが偉そうに!!」
ここでセバスが呆れた表情で言う。
「まだ分からないのですか?この方こそがミザリー・ド・ミーラ様、第34代魔王様です!!」
「「「「え、えええーーー!!!」」」
三人とも呆気に取られてしまった。
一端落ち着こう。
ミザリー?・・・あっ!!もしかしたら魔王ピエールの異母妹じゃないのか?ゲームには出てこなかったがミザリーという名前だったと思う。そうだ、思い出した。魔王ピエールが「よくもミザリーを!!許さんぞ!!」という台詞を言う。
それにしてもなぜ、ミザリーが魔王に?
この際それは後回しだ。ギーガは怒りで体が倍近く大きくなっており、セバスも怒りで変身している。
あれ?
セバスがヘルバトラーだったのか・・・四天王一の忠臣でオールラウンダーのキャラだ。魔法も物理攻撃もブレス攻撃も何でもやってくる。同じ四天王でもギーガとは大違いだ。そうか、それでジョブが「執事」だったのか。地獄の執事ってことなんだね。
って、そんなことより、この状況をどうにかしないといけない。私達三人だけで、魔王と四天王二人を相手にするのはかなり厳しい。戦うにしろ、他のメンバーを集めたい。ミザリーもいきなり攻撃的なことをするのではなく、まずは話合いに来たことだし、交渉の余地はあるかもしれない。
私は落ち着きを取り戻し、頭を下げててこう言った。
「知らなかったとはいえ、大変なご無礼を働きまして、心よりお詫び申し上げます。どうか、ご容赦を」
これにいち早くリルとリラが反応する。土下座までしている。
「魔王様どうかお許しを!!このクリスに脅されてやったことです」
「そうです。仕方なく嫌々・・・」
ミザリーは更に表情を険しくする。
これは最悪の謝罪パターンだ。私達は悪くないと暗に言っているようなもんだ。それにここまで大切に育てたのに裏切るのか?とんだクズ野郎だ!!
「恥を知りなさい!!貴方達は本当に魔王軍の幹部なのですか!!
今ので確信が持てました。すべてクリスさんが裏で絵を描いていたのですね。この状況でも冷静に分析し、戦力的に分が悪いと思って、まずは交渉しようとする頭のキレ、魔王軍にほしいくらいです。
おかしいと思ったんですよ。この二人の言動から、ここまでのことができる者達だとは思えませんでしたから・・・」
ミザリーは一端言葉を切る。そして私を睨みつけて言った。
「クリスさん、一体貴方は何者なんでしょうか?返答によれば命はありませんよ」
少し考えて私は答えた。
「一介の商人でございます。仕事内容によりますが、ある程度のことは対応できると思います。料金は応相談ですが」
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