83 勇者パーティーのマネジメント
対処療法かもしれないが、問題がある箇所は改善する。ビジネスの鉄則だ。
そのため、勇者パーティーの今後の活動を決める会議を開いている。メンバーは私、アイリス、マルチナ、マリア、ゲルダ商会長だ。
まず私がした勇者パーティーの改革はパーティーメンバーを増やすことだった。モンダリア騎馬王国の近衛騎士トール、ザーフトラ傭兵団のワグネル、レートランド王国のゴーダッグの三人とヤマダ商会からマルチナをメンバーにねじ込んだ。
狸宰相に話を通したところ、当初は難色を示したものの、各国から支援金を出してもらえるし、恩も売れると利益面を強調したらあっさりとOKした。
実際、モンダリア騎馬王国、ザーフトラ共和国、レートランド王国からは支援金がもらえ、更にかなり感謝されたそうだ。
これには訳がある。今のダグラス王子、リンダ、マッシュ、マリアの四人だけでは話し合いもままならない状態だからだ。ここで新メンバーを加えることで否応なしに話をしなければならない。そうすれば、パーティーでのコミュニケーションも上手くいくのではないかと考えている。特にマルチナと傭兵団をまとめているワグネルには期待している。
そしてもう一つは、マリアを安心させるためだ。
「マリア様、他国の者を入れることで、ロトリア王国の好きなようにはできなくなりました。ないと思いますが、暗殺の可能性も下がるでしょう」
「お気遣いありがとうございます。それに臨時で「占師」のクルエラさんを派遣してくれたことも感謝します」
続いては計画の変更だ。
アイリスが詳細を説明する。
「水のクリスタルが隠されている神殿は湖の中にあるのですが、前回までの計画では湖の水を魔法で抜くということになっていましたが、変更して別大陸にある「ドレインの壺」を使うことにしました。行程が長くなりますが、その分利益が・・・・」
「シャーロック商会とすれば、大歓迎です。勇者の旅が長くなればなるほど収益が見込めますからね。最初はこんなに収益が上がるとは思ってもみませんでしたよ。それに世界各地から「勇者の槍が見付かった」とか「勇者ゆかりの古文書が・・・」とかいう情報がどんどんと入ってきます。ほとんどが嘘か誇張して言っているだけなのですが、どうにかして勇者パーティーを誘致しようとしているのでしょう」
後はメンタルケアかな。
「マルチナは「占師」のクルエラさんとよくコミュニケーションを取ってね。定期的にパーティーメンバーには占いという名のカウンセリングを受けてもらうようにするからね。特にダグラス王子とリンダには」
「分かりました」
これくらいで勇者パーティーのケアはOKだろう。この後の会議はほとんどが販売戦略だった。目新しいことと言えば、「ドレインの壺」の入手エリア付近は、トールの地元のモンダリア騎馬王国が近いことから、トールモデルの騎乗用の槍を売り出すようだった。
今回もボスとの戦闘もないし、「ドレインの壺」を入手するには少し謎解きをしなければならないのだが、マリアがいれば余裕だろう。
そろそろダグラス王子達は、レベルも20を超えるので、転職のサポートをしなければならない。そちらの打ち合わせもしたい。
「ところで、マリア様はレベルが20になりましたら、転職の予定はありますか?クルエラが専門家ですから旅の合間にでも相談していただければと思うのですが」
「そうですね。希望としては、「商人」でしょうか。ダグラス王子や他のメンバーが許してくれないでしょうけど・・・・まあ、忘れてください」
流石にパーティー唯一の回復役が「商人」に転職だなんて、まずありえない。
しかもマルチナと併せて、パーティーに二人も「商人」がいることになる。マリアに商才があることは分かる。しかし、現実は厳しいだろう。勇者パーティーに入っていなければ、マリアもヤマダ商会に入ってほしい人材ではある。
私が言葉に窮しているとマリアが言う。
「その・・・これは、ここだけの秘密にしてほしいのですが・・・引退も少し考えています」
いきなりの爆弾発言に一同騒然となる。
マリアが続ける。
「この町には私よりも遥かに凄い治療術士が5人以上は居ますよね。アイリス王女の従者のクリストフさん、サマリス王子はもちろん、治療院を開いているマリシア神聖国の元騎士団員の方よりも実力は劣っています。もう自信を無くしてしまいました。私がお金に執着するのも、孤児達のためだけでなく、「自分は凄くお金が稼げて凄い」というちっぽけなプライドのためだったのかもしれませんね」
マルチナの話だと、勇者パーティーの交渉役はマリアで、かなり負担がかかっていたみたいだ。ストレスはあるとは思っていたが、ここまで重症とは思わなかった。
「とりあえず、4つのクリスタルを集めるまでは続けようと思います。そこからは・・・・」
「分かりました。こちらでも何とか対応策を考えます」
★★★
マリアがこんな状態なので、他のメンバーもこっそりと面接をすることにした。名目は転職のアドバイスということにしており、担当はクルエラだ。まずはリンダだが、コイツはブレないし、鋼のメンタルをしている。
「私程ダグラス殿下の側にいるのにふさわしい者はいないだろう。次のジョブ?それはダグラス殿下がお決めになることだ。それが「商人」でもな」
ちょっと「商人」を馬鹿にしすぎだと思うのだけど・・・。
続いてはマッシュだが、こちらは意外にしっかりしていた。それに転職も済ませている。
「俺は最終的には「守護者」になる予定だ。「重戦士」、「楯士」を経験すればなれるみたいだからな。今は「楯士」のレベルを上げることだけを考えている」
まあ、こちらは心配ないだろう。
後はダグラス王子だけど、こちらは私が話を聞くことにした。
「久しぶりだな、クリス」
「そうですね。ダグラス王子もお元気そうで、何よりです」
他愛のない会話から始まる。恋愛スキルはかなり低めの私でも、ダグラス王子が私に好意を抱いていることは十分に分かるし、そんな相手にいきなり用件だけを聞けないということも分かる。それに二人っきりだし、今いる場所もヤマダ商会が誇る高級レストランだ。
少し世間話をした後、本題に入る。
「最近の勇者としての活動はどうでしょうか?私はダグラス王子をしっかりと支えられているでしょうか?」
「クリスには感謝している。しかし、我儘かもしれんが、少し思い描いていた活動とは違うな。指定された場所に行って、勇者として望まれる振る舞いをする。王子として、王子の振る舞いをするのと何ら変わらん。それが務めだというのなら受け入れるしかないがな。それにムリエリアや旧転職神殿の発展をみると俺よりもムリエルやサマリスが王となったほうが国のためにはいいのかもしれんな」
「そんなことはないです!!ダグラス王子は勇者なのですから。転職神殿もありますし、ジョブも早く「勇者」にしましょう。最短でなれる方法も把握していますし」
「そ、そうか・・・それで頼む」
ダグラス王子は少しレベルを上げて、この3日後「重戦士」から「軽戦士」に転職した。主人公限定で、上級職をレベル20まで上げれば、勇者に転職できるのだが、私が選んだのは「重戦士」と「軽戦士」をレベル20まで上げたら転職できる「マスターソルジャー」だ。物理攻撃に特化したスキルを覚えられるし、成長も早いので最短で「勇者」になれるのだ。
パーティーとしては、「軽戦士」に転職したばかりのダグラス王子と「楯士」のマッシュがいるので、他の二人は転職することを見送った。マリアは複雑な心境だったようだが、リンダは「私が「軽戦士」の先輩としてダグラス殿下を指導するのだ!!」と息巻いていたそうだ。
話した感じ、ダグラス王子は元気がなさそうだった。
無事に水のクリスタルを手に入れて帰って来てくれればいいのだが・・・・
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