82 これって勇者パーティー?
勇者パーティーの活動内容を話したマルチナに質問する。
「「空間収納」のスキルをマスターしたいというのは分かったわ。でもなんで「占師」になりたいの?」
「それはですね。マリア様と相談したのですが、購入を迷っているお客様に私が占いでアドバイスすればいいと言われたからです。ちょっと背中を押すくらいで・・・・」
マルチに続いて、今度は霊感商法か・・・。流石にこれは日本では違法だ。
「とりあえず、「空間収納」をマスターしましょうか?「占師」の転職の件は少し保留ね。次はそのまま行ってもらうからね。それにかなり収益を上げてくれたから、そこまで無理はしなくていいわよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「レベル上げは、レナードに頼むからね。多分、トール達も一緒になるでしょうけど」
私はマルチナを下がらせた。
マルチナが下がった後、アイリスが言った。
「これって勇者パーティーの活動なのでしょうか?戦闘は全くしてないし、ダンジョンの探索もしてません。目的の火のクリスタルを入手しましたが、本当にいいんでしょうか?」
「そうね・・・火のクリスタルを取りに行っただけの運送業者と変わりないわね。それに戦闘をしてないからレベルも上がってないしね。次の水のクリスタルの入手計画もヤバいわね」
「はい、計画書にはこう書かれています」
水のクリスタルが隠されている神殿の情報を入手した。その神殿は湖の下に沈んでいるとの付近の村の言い伝えがあり、リザードマンとマーマンに依頼して水中を探索した結果、神殿らしきものを発見、現在はサンクランド魔法国から派遣された魔導士とドワーフの技術者で湖の水を抜いている。
どんだけ力技なんだよ!!
って言っても、力技で大陸横断した私が言うのもおかしな話か・・・・
「そんな力技でいいんですか?ゲームではどんな形で神殿に入るんですか?」
「ゲームでは別の大陸にある「ドレインの壺」というアイテムを手に入れて、それで湖の水を吸い取るのよ。多分サンクランド魔法国の魔導士とドワーフの技術者がいれば、水のクリスタルも勇者パーティーが行ったときにはすでに回収されてるかもね」
「うーん・・・本当にいいんですか?こんなの勇者パーティーの活動じゃないような気がしますけど」
「そうね。レベルや戦闘力の問題なら最悪、短期間で地獄のレベル上げをすれば何とかなるし・・・」
「情報も集めない、戦闘もしないだなんて、これじゃあゲームにもなりませんよ。それなら私達のほうが勇者パーティーかもしれませんよね?」
確かにそうだ。
アイリスと合流してからを考えても、刑務所の暴動の鎮圧、竜車の製造、転職神殿での悪魔召喚事件、温泉地の解放、船の手配と私達のほうが功績は多い。
ということは、私はバッドエンドとなるのか?なるとしたらどんな未来が待っているのか・・・・
「注意してこれからの状況を見極めていくことは必要だけど、現時点ではダグラス王子達がクリスタルを集めるサポートをしないといけないわね。とりあえずマリアを呼んで変な商売はしないように釘を刺さないとね」
★★★
マリアを呼び、話を聞く。
「そのことですか・・・冗談のつもりだったのですがね。ただ、「占師」が欲しいというのは本音です。どうも、腑に落ちないことが多くて・・・・私達がやっている勇者パーティーの活動は意味があるのかなって思っているんですよ。私達はダミーで、実は別の組織が世界平和の為に動いてるんじゃないかってね。
ダグラス王子もそう思っているみたいで、最近は全くやる気がありません。リンダはダグラス王子しか見えてないので論外ですが、マッシュは『例えそうでも与えられた任務をこなすだけだ。軍隊なら陽動部隊だからって適当に戦っていいわけはない!!』と言ってました。ある意味、最も適任かもしれません。
なので、占いにでも頼ろうかと思ったんです。ちょっとお酒が入って、変なことを言ったかもしれませんね」
勇者パーティーはかなり深刻な状態のようだ。私が逆の立場でもやる気をなくしてしまうだろう。そして、水のクリスタルの捜索も同じようにただ、受け取りに行くだけになってしまう。
「マリア様、「占師」の占いは役に立たないものが多くて・・・」
「それは知っています。気休めですよ。曖昧な占いを私がいいように捉えて、ダグラス王子にやる気を出してもらおうと思っただけですから。最近こうも思うんです。もしかしたらロトリア王はダグラス王子を始末しようとしたんじゃないかって。クリス様が勇者パーティーのメンバーから外れたのだって、ダグラス王子に100ゴールドと訓練用の剣しか渡さなかったのだってそう考えれば辻褄が合うんです。ロトリア王が裏で何かやってるんじゃないかって・・・・すいません。私達も一緒に消されるんじゃないかって不安になってしまって・・・占いにでもすがりたくなったんです」
マリアは頭がいいだけに何か裏があるのではと勘繰っているようだ。それに精神的に不安定になっている。今の話からすると、お金に執着したり、ギャンブルに狂っているのはストレスのようだ。
ロトリア王ではないが、私が裏でコソコソとやっているのは事実だけど。
「クリス様、お願いがあります。もし私が消されてしまったら、貯めたお金を孤児達の為に使ってください。マルチナに言ってヤマダ商会にプールしてもらっていますので」
マリアがお金が必要な理由は祖父のデブラスと同じだ。故郷の孤児院や恵まれない人を保護するためだ。こんなに真面目でいい子を何とかしてあげたいと思う。
「分かりましたマリア様。占いを悪用しないという条件であれば、「占師」を派遣しましょう」
「ありがとうございます」
結局、転職神殿に依頼したところ、旧転職神殿で受付をしていたクルエラが選ばれた。クルエラは主に転職相談の業務をしており、相談者に少しでもアドバイスをしたいと思って、「占師」に転職していたのだ。
★★★
マリアが帰った後、アイリスに質問された。
「ところで「占師」ってどんなジョブなんですか?」
「占師」は「商人」と同じく不遇職の一つだ。特にステータスは伸びないし、スキルの「占い」も戦闘中の効果は低く、ネタスキルとなっている。例を挙げれば、四天王最弱の「鬼棍棒」のギーガと戦ったとき、「占い」のスキルを使ったのだが、「見えます!!私にはあの恐ろしい魔族が棍棒で殴ってくる未来が!!」という占い結果に失望したのを今でも覚えている。
そりゃ誰が見てもそうでしょうよ!!
町中で使っても曖昧な内容が多く、クリア後にそう言う意味だったのかと気付くことも多かった。
「ほとんど意味がないってことなんですね?」
「そうね。でも派遣予定のクルエラは、普段から相談業務をしているからカウンセラーとして考えたら優秀だと思うわ。少しでも勇者パーティーのケアができたらいいわね」
「そうですね・・・・」
勇者パーティーに失敗を経験させなかったことが、失敗なのかもしれない。普通なら失敗を繰り返しながら前に進むのに・・・・・もう今更、どうしようもないんだけど。
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