80 リルリラ祭 2
最初に見て回ったのは、食べ物が多く売っている屋台だ。私とミザリーも色々と食べ物を買って、楽しむ。
「こんな美味しい物を食べたことがありません。それにほとんどがここの名産品なんですよね。サトウダイコンがこんなになるなんて・・・・」
「雲のかけらですね。ちょっとした工夫で大きく変わるものなんですよ。だから、ミザリーさんの領地も工夫すれば、大きく発展するかもしれませんね」
他の客の反応も上々だ。
続いて訪れたのは、騎竜とホバークラフトの試乗スポットだ。子供向けのアトラクションとして用意したのだが、大人にも大人気だ。
魔力が強いムリエル王女とステージを終えたバーバラが担当している。魔族には魔力が強い者も多いのでホバークラフトも人気だった。
「試しに乗ってみませんか?」
「はい、是非」
ミザリーも魔力が強いようで、すぐに上手く乗りこなしていた。これなら、旧転職神殿の小型ホバークラフトレースに出場しても上位に食い込めるかもしれない。
「ホバークラフトはいいですね。インプ族などの小型種の移動には最適です。こちらには魔石も大量にあるので、製造や販売をさせてもらいたいですね」
「そうですか・・・いい話だと思うのですが、大きな案件ですので、私の一存では決められません。リル様とリラ様、それに商会の幹部を集めて検討しなければなりませんね」
そんな話を続けながら祭りを見回っていると、大きな怒鳴り声が聞こえて来た。
サマリス王子とドーラが運営している相撲大会のエリアだ。参加料を支払い、トーナメント戦に勝ち抜けばドーラと対戦でき、ドーラに勝てば高価な商品が当たるというものだ。
怒鳴っていたのは、体の大きなオーガ族の男で、ドーラよりも大きかった。
「これは八百長だ。何か不正を働いている!!そうでなければこの魔王軍四天王の一人「鬼棍棒」のギーガ様がハーフオーガの女に負けるはずがない!!」
あれ?魔王軍の四天王って?
どうしてここに・・・・
「だったらサービスで、もう一回やってやるからかかってきな!!」
ドーラも引かない。
結局もう一度勝負することになった。しかし、結果はドーラがギーガを投げ飛ばして勝ってしまった。
観客は盛り上がっている。
「やっぱり変な魔法を使っているに違いない!!ここまで辱めを受けたのは初めてだ!!
この落とし前をつけてやる。そこの女、武器を取れ!!ギーガ様はこの「鬼棍棒」を使ってこそ最強になるのだ!!」
普通に相撲で勝てないから武器を持ち出すなんて恥ずかしすぎる。流石は四天王最弱のギーガだ。ギーガは棍棒による攻撃だけで、他の攻撃はしてこない。なので、対処法はいくらでもあるのだ。
でもこの状況でどうするのが得策だろうか?
せっかくの祭りの盛り上がりに水を差したくないし、魔王軍の幹部ともめごとを起こすのも今後のことを考えると避けたい。
そんな中、サマリス王子がギーガに歩み寄る。
「今はリル様とリラ様を称える大切な祭りの最中だ。貴殿をここで血祭りにあげてもいいが、リル様とリラ様もそれは望まないだろう。だから私と勝負をしよう。その棍棒で私を好きなだけ殴ればいい。それで、私が膝をつけば貴殿の勝ちだ。それで収めてはくれないだろうか?」
「その言葉に二言はないな。本当にどうなっても知らないからな!!」
ギーガは棍棒でサマリス王子を殴りつける。しかしサマリス王子は平然としている。サマリス王子の固有スキル、防御魔法「プロテスト」を発動しているからだ。ゲームでもギーガの攻略法はこの「プロテスト」が一番簡単だ。補助魔法を解除する「マジックキャンセル」をギーガは使えないので、これさえ掛けていれば負けることはないのだ。
実際に見れて、FFQシリーズのファンとしては嬉しい限りだ。
「ほう・・・少しは、やるようだな。ここからは本気でいかせてもらう!!」
ギーガは激しく殴りつけるが、全くサマリス王子には効かなかった。とうとう自慢の棍棒が折れてしまった。周囲が微妙な雰囲気になってしまう。
「ほう、スペアの棍棒を持ってきたが折れてしまったか・・・・家宝の伝説の棍棒を持っていれば、貴殿の命はなかったであろう。命拾いしたな。今日はこの辺で勘弁してやろう」
そういうとギーガは逃げるように去って行った。
流石は四天王最弱なだけあって、カッコつけているわりには、去り際はカッコ悪かった。
ふと、ミザリーを見ると人混みに紛れて隠れていた。それに震えている。多分、荒事にはなれていないのだろう。
「ミザリーさん、心配しないでください。サマリス王子もドーラも強いですからね。怖かったでしょう?」
「あ、ありがとうございます。私は魔王軍の四天王ともあろう者が情けないと思いました。勝ち負けは別にして、正々堂々戦うべきなのに・・・」
意外に武人気質だなあ・・・
会場は、ギーガを追い返したことで大盛り上がりだった。そこに更に盛り上がることが起こる。
「皆さん!!アースドラゴンのステーキですよ。リル様とリラ様のご厚意で無料で食べられますよ!!一人一皿でお願いしますね!!」
アイリスが声を張る。
「ミザリーさん、私達も食べましょう。嫌な思いは美味しい物でも食べて、忘れましょうね」
「はい」
宴は夜遅くまで続いた。
楽しかった。リルとリラも幸せそうだ。他のメンバーもリルリランドの住民と馴染んでいるようだった。かなり遅くなったので、一泊してから帰ることになったのだが、リルとリラはなぜかすぐに帰ろうと言って聞かなかった。
理由を聞くと納得した。
「ドーラとサマリスが四天王のギーガを追い返したので、正式に大魔将候補になっちゃいました」
「大魔将になると、面倒くさい仕事が増えるんですけど・・・・」
なるほど、セバスがリルとリラを大魔将に推薦するため、大幅に仕事を増やそうとしているらしい。それを聞きつけたリルとリラは一刻も早く逃げようとしていたのだ。セバスにはなぜか親近感が湧くので、少しくらい話を聞いてあげてもいいような気もする。
次の日、他のメンバーはのんびりと片付けをしたり、町の人と楽しそうにお喋りをしたりしていたのだが、リルとリラは仕事をさせられていた。
「リル様、リラ様、そんなことでは大魔将は務まりませんぞ!!もっと気合を入れてやっていただかなければ・・・・」
その様子をじっとミザリーは見つめていた。私は気を利かせて、ミザリーに言った。
「せっかくなので、ちょっとリル様とリラ様に質問をしてみたらどうでしょうか?」
「い、いえ・・・忙しそうで悪いですし・・・」
「気にしなくてもいいですよ。弱い種族やハーフの魔族ために頑張っていく仲間ですからね」
私の言葉でミザリーは笑顔になった。
ミザリーはセバスに頼み、リルとリラに質問を始めた。
「リル様、リラ様、領地経営で一番大切なことはなんですか?そして、今後どのように領地を発展させていくつもりですか?」
「それは仲間だ。いい仲間がいれば何とかなるのだ」
「そうだ。今後のことは、優秀な仲間が考えてくれるから、私達が考えることではないのだ」
リルとリラらしい答えだった。これでミザリーは納得するのだろうか?
しかし、ミザリーは霧が晴れたような表情をしていた。
「そうですね。ありがとうございます。私は一人ですべて抱え込もうとしていました。私の考えに協力してくれる人を集めることにします」
何はともあれ、未来の名領主になるであろうミザリーの参考になったことは良かったと思う。
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