8 囚人クリス
サマリス・ロトリア、17歳。金髪青目のイケメンだ。スラっとした体格で女性人気は一番高い。ジョブは「魔法剣士」で高い攻撃力を持っている。ダグラスと比べて、魔法が使える分、どんな魔物にも対応できる。しかし、装備できる防具が少ないのと防御力が低いため、すぐに戦闘不能になってしまう。通称「ガラスの勇者」と呼ばれている。
そう言えば、幼馴染の恭子ちゃんは熱狂的なサマリス派だったな。ダグラス派の兄とよく口喧嘩をしていた。
「サマリス様の良さが分からないなんて、本当に男って馬鹿ね」
「なんだと!!あんなカッコつけのなよなよ勇者なんか、どこがいいんだ。ダグラスを見習えよ」
そんな二人だが、今では夫婦だ。人生何がどうなるか分からない。もし元の世界に戻れたらダグラスやサマリスと会えたことを教えてあげたい。信じてもらえるかは分からないけど。
サマリスは女性の扱いに慣れているようで、最初は紳士的だったのだが、会話も弾んだころで本性を表した。持参した鞭を私に持たせ、こう言った。
「クリス女王様!!この鞭で私を打ち据えてください」
ああ・・・恭子ちゃんが大好きだったサマリスはドMだった・・・・。このことは恭子ちゃんには伝えられない。
私は気持ちを落ち着かせて、サマリスの従者に言った。
「サマリス王子は少しお疲れのようですね。少しお休みになられてはどうでしょうか?私は何も聞かなかったことに致しますので・・・」
「そ、そうですね。最近殿下は公務が立て込んでいまして・・・。さあ殿下!!すぐに治療師の所に行きましょう。殿下の身に何かあれば一大事です」
すぐにサマリスは従者に連れられて部屋を出て行った。
やっぱり、3人目の主人公で第1王女のムリエル・ロトリアもやって来た。こちらは15歳の美少女で青い髪と青い目が特徴的だ。ムリエルもかなり人気があるキャラで、美少女好きには堪らない見た目をしている。性格も穏やかで優しく、普通の女の子であるムリエルが困難に立ち向かい、世界平和のため、努力して成長していく姿は、子供ながらに勇気づけられたのを覚えている。実を言うと私のイチオシキャラで、私に妹はいなかったが、ムリエルみたいな妹がいればよかったと当時は思っていた。
実際のムリエルはゲームのとおりの少女だった。私が単身ドーラ一家のアジトに殴り込んだことに感銘を受けたそうで、こんな私を姉のように慕ってくれた。
「クリスお姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?私のことは気軽にエルとお呼びください」
そりゃあ、もちろんいいに決まってるじゃないか!!
「も、もちろんですわ・・・エル・・。ちょっと恥ずかしいですね」
「クリスお姉様、私にできることがありましたら遠慮なく言ってください。できるだけのことは致します」
「そ、そうね・・・じゃあ・・・」
私がムリエルに頼んだのは、孤児院への慰問だった。特に寄付とかはしなくていいので、その辺の屋台で売っている甘いドーナツでも買っていってほしいと。
ムリエルはすぐに孤児院を訪問したようで、3日後にはライラと孤児院の子供達がムリエルとともに面会にやって来た。ムリエルは獣人の子供達と打ち解けたようで、今も獣人の子供にもみくちゃにされている。ムリエルも嬉しそうに尻尾や耳をモフモフしている。
ライラが言う。
「本当に心配したんだよ。まあ、クリスなら仕方ないかというのが皆の意見だけど・・・・」
★★★
本当に色々な人が面会に来た。拘留されて8日目にはルイーザさんとラクーンさんもやって来た。当然こっぴどくお説教されたのは言うまでもない。
「せっかく勇者パーティーに推薦してもらったのにこんなことをしてしまって・・・・残念ですが、勇者パーティーは辞退しようと思っています」
「本当に残念だけど・・・・仕方がないか・・・」
担当の弁護士に聞いたところ、私の知り合いだけでなく、一般市民からもクリスの減刑を求める嘆願書が多数届き、この分なら刑はかなり軽くなると言ってくれていた。
そんな拘留生活だが、10日目に意外な人物と面会することとなる。
私の父、ベンジャミン・ロレーヌ伯爵だ。私と同じ赤い髪で頬に十字傷がある壮年のいかにも武人といった感じの男だ。ロレーヌ伯爵はゲームではツンデレキャラだった。親子の仲直りイベントでしか登場しなかったが、素直になれなかったことを詫び、どれだけクリスを愛しているかを伝えるシーンは結構感動した。まあ、その1分後に母親の形見のネックレスを売り払われるのは非常に残念だったが。
クリスの日記からは、クリスも父親のことを心配している様子が分かり、こんなところは親子で良く似ていると思った。
「クリス、私に言うことはあるかね?」
「本当に申し訳ありません。お父様やロレーヌ伯爵家に迷惑を掛けたことを謝罪致します。廃嫡されても何も言えません」
私がそう言ったところ、ロレーヌ伯爵は私を抱きしめた。
「そんなことするはずがないだろ!!クリスは私の大切な娘だ」
なんとこんな牢獄で、親子の仲直りイベントが発生してしまった。ロレーヌ伯爵は私の首に母親の形見のネックレスを付けてくれた。
「本当はお前が結婚するときに渡そうと思っていたんだが・・・クリス綺麗だよ。母さんにそっくりだ・・・」
「お、お父様・・・」
私としてはロレーヌ伯爵と会うのはこれが初めてだが、なぜか涙が溢れてきた。クリスとしての私と山田琴音としての私、だんだんと境界がなくなっていくように感じる。
和解を果した私達は、昔の思い出話に花が咲く。これも意外なことに記憶があるのだ。
「そういえば、お前は鞭を使うらしいじゃないか。子供の頃は『お父様みたいに剣で滅多切りですわ』とか言ってたのにな。実は母さんも鞭使いだったんだよ。それでこれを持ってきた。釈放されたら渡してもらえるように手配しているから・・・」
私が見せられたのはズッシリと重量感のある金属製の鞭だった。なんとアダマンタイト合金らしい。試しに装備してみた。
武器名 女帝の鞭
攻撃力 105
攻撃力が105!!
破格の性能だ。ラスボス手前の勇者の最強装備が「勇者の剣」で攻撃力が120なのだ。鞭は全体攻撃なのでそれを加味するとラスボス手前までは無双できるかもしれない。因みに今使っている「トゲトゲの鞭」の攻撃力は35だ。それでもこの付近の魔物は瞬殺なので、どれほど凄い武器か分かるだろう。
しかし、この「女帝の鞭」はゲームには登場しなかった。私が転生したことで、シナリオと実際の世界の間に微妙なズレが生じているのかもしれない。
囚われの身である私だが、状態異常を無効にする「形見のネックレス」とぶっ壊れ武器の「女帝の鞭」を思いがけず手に入れてしまったのだ。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!