76 余計なことを・・・・
私は部下から報告を受ける。リンダがヤラかしたらしい。
バーバリアの南、通常の馬車で1日の距離に港と呼べるほどのものではないが、大型の船が接岸できる船着き場がある。実はこの船着き場の開発をヤマダ商会とシャーロック商会で進めているのだ。船着き場からバーバリア間は新型の竜車かホバークラフトを使えば、移動時間が半日以下に短縮できる。
シャーロック商会はとしては、この大陸の玄関口であるポートシティに何かあったときの保険としても使えるので、開発には積極的だ。
私はこのことも交渉材料の一つに加えていた。船をレンタルしてくれるなら、ヤマダ商会の利権を少し渡してもいいと思っていた。
そんな中、どこで聞き付けたのか分からないが、リンダが船着場を訪れて、直接シャーロック商会の船舶に乗り込み、「勇者パーティーに船を提供するように」と言ったらしい。流石にいきなり、どこの誰かも分からない、一見してビキニアーマーを着用した露出狂のような女の戯言に付き合うはずもなく、船乗り達に追い返されたらしい。
まあ、それだけなら笑い話で済んだのだが、あろうことかリンダは実家から私兵を動員して、「貴族令嬢の私をよくも辱めてくれたな!!」等と文句を付け、謝罪するなら「船を寄越せ」と要求したそうだ。
辱めたも何も、リンダが恥ずかしい恰好をしているのが悪いんだけど。
そして、運が悪いことに商会長のゲルダさんも同船していた。ゲルダ商会長は激怒して、「外交ルートを通じて、厳重に抗議する」と言い放ち、場合によっては、ロトリア王国に関係する商売を全面的に禁止するとまで言ったそうだ。
流石にそこまでのことはしないだろうが、ロトリア王国としてもそれなりの対応はしなければならないだろう。今頃、狸宰相が大慌てだと思うと少し「ざまあ見ろ」と思ってしまう。
個人的な感情はさておき、リンダは本当に余計なことをしてくれた。「無能な働き者は処刑しろ!!」を地で行くようなキャラになってしまった。ゲームでは、この手の役はクリスが担っていたのだが、ここのところ、トラブルメーカーポジションはリンダがやっているように思う。そう考えるとリンダに同情の余地がないわけではないのだが。
私が物思いにふけっているとアイリスが声を掛けてきた。
「本当に困ったことになりましたね」
「そうね。ゲルダさんとの交渉計画を変更しないといけなくなるかもね。ある程度プランはできてたんだけどな」
「どんな感じですか?」
「それはね、まず・・・・」
私はアイリスに交渉の段取りを説明する。
最初は相手と雑談から入り、相手の臨む条件を引き出す。そして、予め用意しておいた交渉材料を提示して、興味を示したものを中心に話を進めていく。
最後の手段として「私の愛する勇者ダグラス様をお救いください!!」と言って土下座することも考えていた。
「土下座って凄いですね・・・ちょっと引きます・・・」
「まあ、最終手段よ。でもそれぐらいの気合は大事ってことかな」
「でもリンダのお陰で、結構厳しいことになりましたよね?」
「そうね。謝罪から入らなければいけないからね。まず、ロトリア王国の使者が謝罪に出向いて、そこから相手の要求を聞き、それに合わせて対策を立てないとね・・・・」
★★★
「あの狸野郎!!またやりやがった!!」
謝罪の使者を私に丸投げして来た。ロトリア王の署名の入った親書を持ってきて、ぬけぬけとこう言ったのだ。
「クリス殿が水面下でゲルダ殿に接触しようとしていたのは存じておったのです。二度手間になってもいけませんから国王陛下も了承しておりますので、クリス殿を正式な使者に任命します」
謝りに行くのは、立場的に宰相か大臣あたりだろう。自分に行けと言われたら面倒だと思って、私に丸投げしてきたに違いない。それにもし交渉が上手くいけば、私に任せるという判断をしたことで評価されるだろうし、決裂しても、今度は自分が行ってなんとかすれば、それで評価も上がる。
上手く考えられた策略だ。いつかギャフンと言わせてやりたいのだが・・・・
私が最初に行ったことは、すぐに謝罪に出向くのではなく、勇者パーティーに集まってもらい、今後の方針を検討することにした。
すぐに集まると思った勇者パーティーだが、ダグラスとマッシュしか集まらなかった。まず、リンダだが、貴族用の収監施設である「嘆きの塔」に収監されている。最悪の場合、リンダを罪人として当初から扱っているというための措置だ。まあ、これについては仕方ない措置だが。
驚いたのはマリアだ。
聖女キャラとして人気のある彼女だが、今回の休暇を満喫して、旧転職神殿でギャンブル三昧だったようだ。更に「幸運の神殿」というギャンブラー向けの神殿を開設して、不労所得を得ようとしていた。
流石はデブラスの孫なだけある。ある程度「幸運の神殿」が軌道に乗れば、デブラスに運営を任せるみたいだ。
この「幸運の神殿」は意外にも人気を博していた。それはレースや優勝者を予想するお告げだ。なぜか高確率で的中するのだ。マリアにそんな能力あるのか?と思ったが何のことはない。
綿密なデータ分析で、固いレースや試合だけお告げすると言ったものだった。その分析力があれば、マリアもデブラスもどこに行ってもそれなりにやっていけるのだろう。
私が勇者パーティーに招集を掛けて3日後、勇者パーティーはバーバリアに勢ぞろいした。
全員レベルは18で、まだ転職すらできない。ここにいるアイリスを中心とするメンバーとかなり差が開いた感じがする。
とりあえず、全員から意見を聞くことにした。まずは、ダグラス王子だ。
「リンダの気持ちはよく分かる。努力していたことは認めよう。責任は俺にある」
こういうのは上司としてはいただけない。部下に「一生懸命やっていれば、たとえ結果が出なくても、間違ったことをやってもOK」という誤ったメッセージを送ってしまうのだ。今もリンダは満足気に微笑んでいる。
「まあ、気持ちは汲みましょう。しかし、事態が悪化しているのですよ。リンダさんも反省してください」
次はマッシュだ。
「俺は基本的に戦闘以外のことは口出ししないようにしているんだ。人脈も交渉力もないし、そこまで頭がキレるわけでもない。言われたことを確実にこなす。それだけだ」
リンダに比べれば、こちらの方がまだいい。自分の能力を把握している分使い勝手もいい。戦闘でも楯役に徹しているので、ダグラスとしては有難いだろう。
最後はマリアだが・・・・
「私はやっぱり資金力だと思いますね。船にしても別に自前の船を用意する必要はありません。シャーロック商会が協力してくれるなら一番嬉しいのですが、駄目なら別の方法を考えないといけませんね。とりあえず、謝罪は受け入れてくれるように努力しますが。
まあ、他をあたるにしてもある程度の資金は必要ですよね」
この中では、マリアが一番現実的だ。
よし決めた!!
マリアを勇者パーティーの代表としてゲルダさんの前に連れて行こう。
そんなとき、リンダが騒ぎ始めた。
「私の意見は聞かないのか?ここは私がもう一度、シャーロック商会に行って・・・」
「聞く理由もないし、聞く必要もありません。これ以上事態を悪化させないでください!!」
「私はダグラス殿下のことを思って・・・」
「その結果がこれでしょ?だったら「嘆きの塔」で大人しくしておいてください」
「なんだと!!」
売り言葉に買い言葉でリンダと喧嘩になってしまった。
後でアイリスと話したけど、リンダもシステムの修正力の被害者なのかもしれないとのことだった。ここまで、問題を起こすのもそう考えれば辻褄が合う。
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