75 やっぱり船か・・・
旧転職神殿の説明会も無事に終わった。
バーバリアとムリエリアの観光も説明会の日程に入れていたので、3日の日程だったのだが、もう少し遊んで帰るという代表者が続出した。
お付きの人が悲鳴を上げていたのは見なかったことにしよう。
そんなとき、勇者パーティーが一時帰還していた。表向きは旧転職神殿の視察ということだったが、本当の目的はそうではなかった。馬車のときと同じく、ロトリア国王に呼び出され、ダグラスから相談を受ける。
「実は別の大陸に行くためには船が必要なんだ。なんとか調達できないだろうか?」
やっぱりこうなるよね。
「分かりました。少し時間をください。ダグラス様はせっかくなので、旧転職神殿や温泉地でのんびりしていてください。調達に必要な予算は宰相閣下と相談させていただきます」
★★★
私はヤマダ商会に戻り、例のごとく、アイリスと打ち合わせを始める。
まず、アイリスに船の入手イベントについて説明をする。
ゲームでは、アントニオさんとポーシャさんのお孫さんで、現シャーロック商会の会長のゲルダという女性が、リルとリラと行動を供にしているドーラ一家に攫われてしまうことからスタートする。勇者達は偶々知り合ったアントニオさんから孫の救出依頼を受け、捜索していたところ、同じくシャーロック商会から依頼を受けたザーフトラ傭兵団のワグネルと出会い、一時的に共闘することになる。
ワグネルとともにドーラ一家を打ち倒し、ゲルダさんを救出したところ、お礼にということで船がもらえるという感じだった。
「リルとリラ、ドーラもアントニオさんもここに居るし、おまけにワグネルまでこの町にいるのよ」
「ワグネル・・・ああ、あの武術大会に出てた人ですね。なかなかの腕前ですがレナードさんには及びませんでしたね」
「これじゃあ、イベントが起こりようがないわね・・・・」
「そうですね。少し話は変わるのですが、ゲルダさんはお若いんですか?それにゲルダさんのご両親は?」
「設定ではゲルダさんは多分、私達と年齢は変わらなかったと思うわ。ご両親は元々商人志望というよりは職人気質で、建築家としてやっていきたかったみたいで、早々に引退して、会長の座をゲルダさんに譲ったみたいよ」
「なるほど・・・今回も馬車のときと同じ感じでやるんですか?」
「そうね。とりあえずアントニオさん経由で話を通してもらって、船を1隻レンタルでもできればいいんだけどね」
「えっ!!レンタルでいいんですか?」
「そうね。レンタルでいいんじゃない?というのもFFQ4に限って言えば、他のシリーズに比べて、船の使用頻度が少ないのよね。本当にただの移動手段なのよ。他のシリーズだと、船に乗ってダンジョン探索をしたりするんだけどね・・・・」
そう言えば、兄や恭子ちゃんとそんな話をした気がする。割と最近の話だ。兄と恭子ちゃんが結婚し、新居を訪れたとき、昔話に花が咲いた。当然FFQシリーズの話になる。
兄は実家を継いで経営者の道を歩み始めていたのだが、飲んだ勢いでこんなことを言っていた。
「経営者目線で言うと、FFQ4の船の運用はいただけないな。無駄が多いし、コストがかかり過ぎる。俺なら使ってない期間に船をレンタルしたり、物資の輸送を請け負ったりして資金を貯めるんだけどな。
それに船の航行に計画性が無さすぎる。行き当たりばったりでは駄目だと思うんだ。事前に計画を立ててだな・・・」
恭子ちゃんは呆れて言う。
「またこの人がしょうもない話を・・・行き当たりばったりを楽しむから冒険は楽しいのにね。そんな計画的でコストカットもできる貴方なら、少しくらいお小遣いを減らしても大丈夫よね」
「おい!!それはちょっと・・・・」
兄は恭子ちゃんの尻に敷かれているようだった。
そんな思い出話は置いておいて、兄貴の言うことは一理ある。
「とりあえず、アントニオさんに船が調達できるかお願いしてみようかな」
「そうですね。まずはそこからですね」
★★★
アイリスともにアントニオさんの元を訪ね、事情を説明した。
「なるほど、勇者パーティーの船をお探しということですね。今の商会長はゲルダですから、最終的な判断はゲルダになります。もちろんクリスさんをゲルダに紹介することはできますが、勇者パーティーに船を差し出すように命令はできません。
まあ、ゲルダが勇者に船を差し出したほうが得だと判断すれば可能でしょうけど」
「つまり、商談ということですね」
「はい。久しぶりに真剣勝負の商談が見たいと思いましてね。まあ、試験の一環だと思ってください」
「分かりました。それで大丈夫です。よろしくお願いします」
「日付が決まりましたらお伝えします。旧転職神殿の復興が始まってから、こちらにもちょくちょく来きてますので、1週間以内には会えると思いますよ」
★★★
まずは、ゲルダさんの情報収集だ。
聞くのはポーシャさんだ。ゲームではドーラ達から助けられたことに感謝して、無償で船を譲ってくれたけど、実際どんな人物かは分からない。助けられた恩義を感じて、船を渡すくらいだから義理堅い人だとは思うのだけど。
ポーシャさんに話を聞く。
「アントニオもクリスさんの試験だと言いながら、実はゲルダに対しても試験をしているんじゃないかなって思ってね。それに若い商人がバチバチやり合うのを見るのは好きだからね。
あっ、話が逸れたわね。ゲルダはね。なんというか意地っ張りというか・・・何としても相手をやり込めようというタイプかしらね。環境がそうしたと思うのよね。
若くしてシャーロック商会の会長になったし、それに女でしょ。「絶対に舐められたくない。実力でなったことを証明してやる」って思っている感じかな・・・。
そうだから、敵も多いし、アントニオも心配していたわね」
ゲームと全然違っていた。
情報収集をしてよかったと思う。
頭ごなしに「世界平和のためだから、絶対に船を提供すべきだ」とか上から目線で言えば、多分意地になって首を縦に振らないだろう。
負けず嫌いだから、利を示せば話は聞いてくれるだろうけど・・・・
「クリスさん、どうします?」
「そうね。いきなり勇者パーティーに会わせるのは避けたいわね。リンダとかが上から目線で「船を寄越せ!!」とか言ったら、話自体が立ち消えるかもしれないしね」
「そうですね。ロトリア王国からレンタル料を払うとか、税金の優遇措置なんかを提案するのはどうでしょうか?」
「いきなりそれを交渉材料にするのは得策ではないけど、ロトリア王国にレンタル料を払う意思があるか、税金の優遇措置を取る意思はあるかを確認することは大事だと思うわ」
相手と交渉する前にこちらのプランを確認しておくことは重要だ。どこまで譲歩していいか、最初はどのような条件を提示するか。
これを先に決めていないと、交渉が成立した後で「そんな話は聞いていない」と言われるのは、よくあることだ。商社時代にも経験がある。
「とりあえず、ゲルダさんと交渉する前にロトリア王国として方針を決めてもらいましょうか」
「分かりました。ムリエル王女とも相談して対策を練りましょう。何かこう・・・頑張って仕事を取るっていうの、初めてかもしれません。緊張してきた・・・・」
「そうっだったわね。私も経験があるわ。前日はドキドキして眠れなかったわ。まあ、でも今回は最終的にはアントニオさんもいるし、ある程度の好条件を提示すれば、それなりに上手くいくんじゃないかしら・・・」
数日後、私のこの考えは脆くも崩れ去ることになった。
クソ!!余計なことをしやがって。
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