72 キアラの訓練日誌 3
訓練は過酷だった。しかし、同時に充実していた。最初は苦労したものの、レナ―ド先輩の助けを借り、何とかグレートボアを討伐できるようになった。レナード先輩が言う。
「初参加で3匹もグレートボアを討伐できるなんて凄いですよ。じゃあ、最後は一人でグレートボアを討伐してみましょうか。キアラさんなら、きっとできますよ」
「はい、頑張ります」
レナード先輩に教えてもらったとおりの戦い方をする。グレートボアのメインの攻撃は突進だ。スピードも速く、威力も高い。それに固い毛で覆われていて、防御力も高い。しかし、グレートボアの突進は急な方向変換ができないのだ。だから、怖がらずに突進をギリギリまで引き付けて躱す。そして無防備になったところで、防御力の弱い腹の部分を攻撃するのが必勝法だ。
口で言うのは簡単だが、これがなかなか難しい。何度も突進を喰らってしまった。何度目だろうか、突進攻撃に無意識に体が反応した。私は突進を躱すと地面をスライディングして、潜り込み、双剣で腹をめった刺しにした。
しばらくしてグレートボアは絶命した。
「お疲れ様でした。これでノルマ達成ですね。解体スタッフを呼びますのでそれまで、回復薬を飲んで休んでいてください」
しばらくして、解体スタッフがやって来た。スタッフが来るまでの間、レナード先輩はグレートベアとグレートコングを2匹ずつ討伐していた。まだまだ、私は先輩に及ばないと実感した。
討伐した魔物を引き継いだ後、レナード先輩は言う。
「ノルマを達成しましたので、他の人の訓練を見に行きましょうか。多分、魔物を相手にするよりも、衝撃を受けると思いますけど・・・」
★★★
まず最初に見学したところは、団長が監督をしていた。現在、トールとワグネルと他2名がグレートベアと対峙していた。
「彼らはいずれ母国に戻り騎士になったり、傭兵団を指揮したりすることになります。なので、団長から集団戦の指導を受けているんですよ」
トールが正面で囮になり、他の3人が仕留める作戦のようだった。団長の指導が入る。
「トール!!怖がらずにしっかりと受け止めろ!!ワグネル!!躊躇せずに一撃で倒すつもりでいけ!!」
しばらくして、グレートベアが討伐された。
「トールとワグネルに比べて、他の二人は少し実力が劣ります。それでもこういった戦い方をすれば、結構活躍できるんですよ。キアラさんも将来、上に立つ方ですから、ゆくゆくはこういった訓練もしたほうがいいかもしれませんね」
「そうですね。でもしばらくはレナード先輩にしっかりと教えてもらいますよ」
「それでは、次に行きましょう。ここからはかなり驚くことになるかもしれません」
次に行った場所はライアット皇子、バーバラ、バーバラの弟子のミレーユ、ムリエル王女がいた。
魔法で魔物達を殲滅している。
あんなに苦労したグレートボアが一撃で・・・・
更に驚くことに討伐がメインではなさそうだった。バーバラを中心に魔法の研究発表会をしているようだった。
「まず妾からじゃな。この魔法のカラクリが分かる者は言ってみよ」
バーバラが魔法を放つと一瞬でグレートボアの首が刎ね飛んだ。
何だ今の魔法は!!何も見えなかった。あんなことをされたら私なんて、気付く間もなく、やられてしまう。
するとライアット皇子が発言する。
「バーバラ先生が使ったのは、普通のアイスカッターですね。ただし、氷の透明度を極限まで高めている。ここまでの透明度を維持できるのは流石としか言えませんね。ここまでの透明度は再現できませんが、同じようなことはできると思います」
そう言うとライアット皇子は魔法を放った。かすかに氷の刃が見えた。その刃はグレートコングの首を無残にも刈り取った。
それを見ていたムリエル王女が言う。
「凄い発想ですね。ちょっと今、新しいアイデアを思い付きました。私の得意な追尾弾を応用してと・・・」
ムリエル王女も魔法を放つ。グレートベアに透明の刃が無数に飛んでいき、嫌らしくグレートベアを追い回す。グレートベアは切り刻まれて絶命した。
レナード先輩が言った。
「彼らにとってはグレートボアなんて、魔法の的でしかありません。それに彼ら以上に驚く光景が見られますよ」
★★★
次に向かった場所にはドーラがいた。訓練所で使っていた鉄球を振り回している。ドーラは魔物の群れと対峙していて、魔物の群れの中には一人の男性がいた。サマリス王子だ。
「ドーラいいよ!!思いっきりやってくれ」
そう言うとドーラは群れに向かって鉄球を飛ばした。魔物達は潰れ、なんとサマリス王子にも鉄球はヒットした。私はあまりに衝撃的な光景に目を覆ってしまった。目を開けてみると無残につぶれた魔物の死骸と無傷のサマリス王子だった。
「まだコントロールが定まんないね。サマリスに当てないように頑張ってるんだけどね。それに魔物がぐちゃぐちゃになって素材が取れないから、使いどころが難しい武器だな」
「ドーラ、練習あるのみだよ」
レナード先輩が言う。
「サマリス王子は防御魔法が得意ですからね」
得意とかいうレベルではない気がするのだが・・・・
更に見学は続く。
当然、アイリス王女もヤバかった。
ライラさんが爆弾のようなものを茂みに投げると、轟音が響き渡り、閃光が迸った。それで驚いて出て来たグレートボアにアイリス王女が斬り掛かる。
「高速解体!!」
一瞬でグレートボアがバラバラになった。
「ライラさんどうですか?討伐と解体をセットにすれば、効率化が図れますよね。今度の会議で提案してみようと思うんですよ。みんなが身に付けたらもっと楽になると思いますよ」
「多分アイリスしかできないでしょうね」
「そうですかね。意外に簡単なんですけど・・・」
「まあいいわ。素材が集まったから料理の仕込みに入りましょう。BBQに加えてボア鍋もするんでしょ?」
「はい!!」
アイリス王女が討伐したのは、食事会のための食材だったようだ。って、そんなことより何なのあれは?
「アイリス王女にとってみれば、キノコでも狩る感覚なんでしょうね」
改めて思うが、私は本当に凄いところに来てしまったんだと思う。
★★★
「キアラさん、見学はこれが最後です。ここで私と約束してください。これから見る光景は絶対に他言しないと」
レナード先輩は今までの雰囲気とまるで違っていた。何かに怯えているような感じだ。
「も、もちろんです」
レナード先輩に案内された場所にはクリス会長がいた。30匹前後の魔物の群れと対峙している。クリス会長は両手に鞭を持ちゆっくりと群れに近付く。すると踊るような華麗な動きで魔物の群れを通り過ぎた。後に残ったのは無残な魔物の死骸の山だ。
更に驚くことに魔物の死骸は一瞬で消えてしまった。
あれは・・・・
「空間収の・・・」
声が出そうになったところでレナード先輩に口を塞がれてしまった。
クリス会長から離れて、レナード先輩から事情を聞く。
「あれって、「商人」のマスタースキルの「空間収納」ですよね。それに何なんですか、あの強さは?魔族に力を削がれて戦えないはずじゃあ・・・」
「詳しいことは私にも分かりません。ただ、クリスさんからは『絶対に私が戦えることを口外するな』と厳しく言われております。クリスさんが戦えて、物凄く強いという噂が広まってないことを考えると、誰も口外しなかった、又は、口外しようとした人間が密かに消されている、ということだと思います。
私が何が言いたいかというと、私達は本当に危険な場所にいるということです。キアラさんも十分気を付けてください」
私は恐怖で震えが止まらなかった。
しばらくして訓練が終わり、食事会が始まった。
アイリス王女やライラさんが中心となって、手の込んだ料理を作ってくれていたのだが、私は恐怖で全く味を感じることができなかった。
もしかして、私は人質としてここに連れて来られたのだろうか?
生き延びるためには、何としても強くなるしかない。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




