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7 正義の味方クリス 3

ロトリア王国の軍事顧問、ケルビン・ダンベル。白髪頭に立派な髭をたくわえたいかにも武人といった老紳士だ。ジョブは「剣聖」で剣を持たせたらこの国で右に出るものはいない。


まさかコイツがここで登場するとは・・・・。

ケルビンは最強のノンプレイヤーキャラクター(NPC)だ。勇者となる主人公たちの教育係で、ある一定の条件を満たせば一緒に旅をすることができる。加入当初からレベルが30もあり、クリス以上の無双状態だ。ただ、これはクリア後の特殊シナリオなので、実は普通にプレイするよりも難易度は高い。


私としては正義感の強い王子か、勇者パーティー候補の騎士団長辺りが来てくれればと思っていたが、これは計算外だ。多分、今戦えば確実に負けてしまう。

私の目的は大臣達の不正を明らかにすることなので、無理に戦わなくてもいい。少し交渉してみるか。


「これはこれは伝説のケルビン翁ではありませんか。いくら私でもご老体を相手にする気はありませんよ」


「フン、これでもまだまだ若い者には負けはせんわ!!事情は聞いたが、少々やり過ぎではないか?

ちょっとお灸をすえてやらねばならんな」


やっぱり戦闘になるか・・・。老紳士に見えてもケルビンは血の気が多い。とにかく、鞭と魔法とアイテムを駆使して、遠距離からの攻撃に徹しよう。「剣聖」のジョブを持つケルビンに近接戦を挑むなんて自殺行為だ。上手く逃走できればいいが、駄目なら頃合いをみて、投降しよう。


そんなことを思いながら、私は鞭を握りしめた。

すると、私とケルビンの間にルイーザさんが割って入ってきた。


「おい!!クリス!!一体何やってんだよ!!最近大人しくなったと思った途端にこれだ・・・。ケルビン先生もちょっと落ち着いてください。クリスには私からよく言って聞かせますから」


「まあいい、クリスもいい年齢なんだからちょっとは落ち着け!!とりあえず話を聞くから着いて来い」


ケルビンは信頼できる部隊を率いて来ていたため、拘束されている大臣やバッド、ドーラ一家のメンバーも連行していく。

私は拘束はされなかったが、それでもやったことがやったことだけにしばらくは牢屋で過ごすことになるだろう。


まあ、最高の出来とはいかなかったが、これはこれで作戦は成功だと思う。

作戦名は「牢屋に入って、勇者パーティー回避作戦」だ。孤児院の事件を解決することが第一の目標で、その後捕まるか、ほとぼりが冷めるまで逃亡する「お尋ね者で勇者パーティー回避作戦」を考えていたのだ。


私がやった罪は、一言で言えば町の犯罪者集団と大喧嘩をしたことと、鎮圧に来た警備隊を打ちのめしたくらいだ。普通なら3ヶ月程度の禁固刑か罰金刑だ。それに今回は孤児院の関係や大臣の汚職事件が背後にあるので、情状酌量が認められれば、もっと刑が軽くなるかもしれない。実際に警備隊は大臣に買収されていたしね。


刑が確定すれば私は晴れて前科者だ。

ということは、そんな前科者を王族が勇者のパーティーに加えることは無いだろう。


私は笑顔を浮かべて、ケルビンとその配下の警備隊の同行に応じた。




★★★


裁判までの間、私はアリレシア城の一角にある貴族専用の牢獄、通称「嘆きの塔」に収監されることになった。こんな私でも貴族扱いされたのは、武人として名高いロレーヌ伯爵の影響があったからだ。ロトリア王国は、私が勇者パーティーの候補になったときから調査をしていて、すぐに私がロレーヌ伯爵家から家出した娘だと掴んでいた。

協議したところ、まだ正式に私は廃嫡されておらず、伯爵家の娘という扱いだ。よって貴族用の収監施設に入ることになったのだ。ベッドもふかふかで、食事も美味しいので特に不満はない。


取調べ自体はすぐに終わった。動機もはっきりしており、私も特に申し開きもしなかったからだ。それにやったことも単純で、ドーラ一家のアジトに殴り込み、ついでに警備隊も打ち倒しただけだし・・・。

ただし、私への面会は絶えなかった。


最初に来たのはなんと主人公の第一王子で「重戦士」のジョブを持つダグラス・ロトリアだった。年齢は18歳で黒髪で短髪のイケメンだ。がっしりした体型で、とにかく力が強く、FFQシリーズでナンバーワンの脳筋勇者だ。好き嫌いが分かれるところではあるが、私の兄は大好きで、当時兄は「やっぱり男は、力こそパワーだぜ」と言っていた。


実際に話してみると爽やかな好青年なのだが、かなり脳筋だった。それに暑苦しい。


「俺は猛烈に感動しているんだ!!一人で友人や孤児のためにドーラ一家のアジトに乗り込み、そしてあのドーラをぶっ倒すなんて。今度、是非手合わせしてくれ。良ければその・・・いや・・・なんでもない」


「やったことはやったことですので、しっかりと反省して刑に服します」


「その潔さも気に入った。ドーラとの戦闘の話をもっと聞かせてくれ」



次に来たのは勇者パーティー候補の騎士団長マッシュ・バーンズだった。ダグラスの従弟という設定で、コイツもダグラスと同じようなタイプだった。ジョブは「重戦士」で楯の扱いが上手く、成長すれば、防御に特化したキャラになる。私の兄はマッシュをダグラスのパーティーに入れ「行け!!マッスルブラザーズ」と叫んでボス戦に挑んでいた。


「俺はドーラの棍棒を正面から受け止めようと思ってるんだけど、君はどう思う?やっぱり正面から攻撃を受けることが男の美学だと思うんだけど」


知らねえよ!!

叫びそうになったが、大人の対応で受け流す。


「力と力の対決ですか・・・私も見てみたいものです」


「君!!分かってるじゃないか!!刑期を終えたら是非騎士団に入ってくれ」


マッシュはダグラスをより残念にした感じだった。



そして、第2王子のサマリス・ロトリアもやって来た。この面会は私のサマリス像を完璧に打ち砕くものとなってしまった。こんな奴だったとは・・・・。


知らないほうが良かった。

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