69 カミングアウト
訓練所に着くとレナードが迎えてくれた。
「お疲れ様です。訓練ですか?あれ?キアラさんはクリスさんやアイリス王女とお知り合いだったんですか?」
キアラ王女はバツが悪そうに言う。
「レナード先輩、すいません。実は私はビースタリアの第一王女で、身分を隠してここで働かせてもらっていたんです。騙すつもりはなかったんですけど・・・」
「やっぱりそうだったんですね。キアラさんの言動から高位の貴族令嬢くらいには思っていたんですよ。流石に王女様とは思いませんでしたけど」
「本当にごめんなさい」
「いえいえ。でも私が言った意味が分かったでしょ。「この町はヤバい人がゴロゴロいるので、調子に乗って上から目線で接していたら命がいくつあっても足りない」と。あっ!!でも知らないうちにキアラさんに失礼なことをしてませんでしたか?」
「そんなヤバい人って!!それに感謝こそすれ、レナード先輩に失礼なことをされたと思ったことは一度もありませんから」
二人は仲が良さそうだった。
雰囲気もよく、仕事も上手くいっているのだろう。
「クリス様、アイリス王女、こちらのレナード先輩が、先程お話した達人です」
レナードが達人?それはないだろう・・・まあ、そこそこの腕はあるんだけどね。
私はレナードを鑑定してみた。
えっ!!嘘!!
本当に驚いた。
名前 レナード
レベル 23
ジョブ ウエポンマスター(上級職)
スキル ********
「ウエポンマスター」だって!!
「ウエポンマスター」は、かなり習得が難しい上級職のジョブだ。「重戦士」「軽戦士」「剣士」「槍士」「弓使い」のジョブをレベル20まで上げないと習得できないのだ。ただ、「ウエポンマスター」に転職したからといって、特別強いスキルが身に付くわけではない。プレイヤーの自己満足のために用意されたジョブというのが定説だ。マスタースキルも「完全装備」という、どの武器でも装備できるスキルだ。
ゲームなので、すべての武器を装備できたところで、「それが何か?」と言った感じになってしまう。だって、そのキャラクターに合った武器を一つか二つ持っていれば事足りるからだ。まあ、「ウエポンマスター」になるまでに5個もジョブをレベル20まで上げているのでスキルも身に付き、弱くはないのだが。
そういえばゲームでも、レナードはこのジョブにされることが多かったと思う。他のメンバーに比べて役に立たないが故に、このジョブを目指すのには最適なキャラだった。
転職の度にレベルが1に戻り、ステータスも下がる。メインで活躍するキャラにそんなに何度も転職させることなんてできないからだ。
私はそれとなく、レナードになぜ「ウエポンマスター」になったのかを尋ねた。
「ケルビン先生の指示です。『訓練所には多くの武器が扱える指導者が必要だ。儂は剣しか扱えんから、お前が何とかしろ』と言われまして、逆らうこともできず、こうなってしまいました。私なんて、武器を多く扱えるだけで、特に強くありませんからね」
「そんなことないです。レナード先輩は色々な武器が扱えてカッコいいと思います。私が主に使っている双剣も指導してくれますし・・・」
なんか、キアラ王女はレナードを凄く慕っている。
そう言えばゲームでも、キアラ王女はクリスが仲間にいるとき以外は勇者パーティーに加入することはなかったのだが、ネットの噂で、レナードがパーティーに居れば、クリスがいなくてもキアラ王女が加入することがあるというのがあった。
特にイベントが起こるわけではなかったので、都市伝説みたいになっていたのだが、もしかしたら、レナードとキアラ王女は相性がいいのかもしれない。
そんなとき、レナードが私に言ってきた。
「そうだ、クリスさんに相談しようと思っていたことがあったんです。魔物討伐訓練のことなんですが・・・」
★★★
レナードの相談というのは、「恐怖の2マス」でグレートボアなどの魔物を狩りまくる魔物討伐訓練のことだった。
ヤマダ商会が提供しているメニューの多くは、トンカツ、豚骨ラーメン、生姜焼きに代表されるようにグレートボアをメインの食材として使っている。元々この地域でグレートボアを狩れるのは私ぐらいしかいなかったことから独占販売できるグレートボアを食材として使い始めたのだが、メニューも増え、販路が拡大した今、私一人では必要量を供給することができない。
そこで考えついたのが魔物討伐訓練だ。訓練と称して、警備隊や訓練所に定期的に通っている冒険者達を中心に「恐怖の2マス」でグレートボアをメインで狩ってもらうことにした。討伐した魔物の素材も色を付けてヤマダ商会が買い取っているし、最近では魔物解体専門のスタッフも帯同しているので、それなりに人気の訓練と思っていたのだが。
「グレートボアの必要量が増大したのに旧転職神殿の警備やなんかで、訓練の参加者が減っているんです。ケルビン先生はノルマを達成しなければ訓練を終了させてくれません。なので、訓練参加者が減る。そして参加者が減ったので、必然的に一人一人のノルマが増えて訓練が厳しくなる。そして更に参加者が減るという負のスパイラルに陥っているんです。
毎回参加する私の身にもなってください。この前なんか、一昼夜ひたすらグレートボアを狩り続けましたよ」
そうか・・・レナードも運命に翻弄されて辛い人生を送っているようだ。何とかしてあげたい。
キアラ王女が言う。
「今回は私も参加します!!そしていっぱいグレートボアを狩ります」
「気持ちは有難いのですが、初めての方は・・・生き延びることだけ考えていたほうが・・・・」
うーん・・・何とかならないだろうか?
そうだ!!
「私に考えがあります。キアラ王女がこっちに来られたので、ちょっと趣向を変えた歓迎会をしようと思っています。女子会と旧転職神殿復興プロジェクトのメンバーと合同でキャンプをしましょう。アイリス、細かいことは貴方が企画してくれる?」
「分かりました。前から女子キャンしようと言っていたので、渡りに船です。凄く思い出に残るキャンプにしてみせますよ」
ということで、「恐怖の2マス」でキャンプが行われることになった。
まあ、今のメンバーならレベル30が推奨のグレートボアぐらいなら、本当にレジャー感覚で狩れるのだけど。
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