68 接待と研修
キアラ・ビースタリア。
やっぱり、コイツが来たか・・・。
獣人国ビースタリアの第一王女で、武闘派で人間嫌いだ。常に、人間に対して敵意を剥き出しにしている。NPCで条件が合えば、ビースタリアで起こる討伐イベントで、勇者パーティーに一時加入してくれる。
意外なことに、このイベントは数少ないゲームのクリスが仲間にいてよかったパターンになる。
ビーズタリアに着くとクリスは例のごとく、獣人に差別発言を繰り返す。元々のクリスも、獣人のことは大好きなのだが、好きなものを好きと素直に言えない性格をしているので、激しくディスる。獣人のライラやルイーザさん、ラクーンさんとパーティーを組んでいたこともあり、種族別の煽り方も心得ていた。
獅子族のキアラに対して、最も嫌がる煽り方をしていた。
「可愛い子猫ちゃんですわね。よしよししてあげますから、こちらにいらっしゃい」
獅子族はプライドが高く、猫と言われるのを嫌う。当然大喧嘩になる。
これを勇者達が収め、クリスのことを謝罪し、更にビースタリアの法律に従ってクリスを牢屋にぶち込む。この公平な対応に心を許したキアラは、一緒に魔物を討伐するために勇者達と共闘するというわけだ。因みにクリスは、イベント終了まで牢屋で監禁される。このころには戦闘では役立たずで、身ぐるみも剥がされているため、何の支障も出ないのは非常に悲しい現実だ。
なので、私の知っているキアラだと人間に対して敵対心を剥き出しにしており、トラブルメーカーになるかもしれない人物なのだ。
私の説明を聞いたアイリスは言う。
「私やライアット皇子は気にしないと思いますが、取り巻き連中は問題視するかもしれないですね。獣人が迫害されて来た歴史を考えると、ある意味仕方ないのかもしれませんけど」
「そうよね。だからムリエル王女やライアット皇子に合わせる前にヤマダ商会で研修というか、接待をして、少しでもいいイメージを持ってもらおうかなと思ってね」
「私もそれには賛成です。でもキアラ王女が態度を変えなかったらどうしますか?」
「最悪、私が悪役になろうと思ってるのよ。ボコボコにするから、アイリス達が優しく止めてね」
アイリスは引き攣った笑いを浮かべた。
冗談だったんだけどな。
★★★
そして今日、キアラ王女がヤマダ商会にやって来た。
「お初にお目にかかります。獣人国ビースタリア第一王女キアラ・ビースタリアでございます。忙しい中、お時間を取っていただきまして、本当にありがとうごいます」
あれ?こんな感じだったっけ?
もっとこう「我は人間に呼びつけられる謂れはない!!」とか言うと思ってたのに・・・・。
アイリスも少しびっくりしていた。私に聞いた話と全然違うからね。
こちらも挨拶を返し、早速研修を始める。
まずはライラが責任者をしている研究施設に案内した。
「ここの責任者のライラは猫獣人で、私の昔の冒険者仲間で、一緒にパーティーを組んでいました。彼女のお陰で様々な新商品が開発されました」
「獣人を大切に扱っていただき感謝しています。彼女達に労いの言葉を掛けさせてください」
そう言うとキアラ王女はライラやスタッフに声を掛けていた。ライラやスタッフは王女様に声を掛けられたことで、かなり緊張していが、次第に打ち解けていく。
その後、獣人スタッフが多い店舗を視察し、子供向けの学校を訪れた。バーバラが教壇に立って、子供達に初級魔法を教えている。
「あの方が「氷結の魔女」バーバラ殿ですね。お噂はかねがね聞いております。それにこの学校は種族関係なく、仲良く学んでいますね。素晴らしいです」
子供達ともキアラ王女はすぐに打ち解けていた。
昼食の時間となったので、私達はヤマダ食堂に移動した。ここでライラとバーバラ、それに授業を受けていた子供達を誘って会食することにした。
しかし、キアラ王女の言動がどうもおかしい。誰かに操られているのでは?
そんな懸念もあり、私はリルとリラにこの町に来てからのキアラ王女の行動を探るように指示した。
「ええ!!私もお昼食べたかったのに!!」
「とんだブラック商会ですね」
「夜は高級レストランに連れてってあげるからね」
「それならいいですけど」
「まあ、それなら」
何とか宥めすかして、調査に向かわせた。
★★★
昼食会が始まる。
バーバラと子供達は魔女っ子ランチ、他のメンバーは色々と頼んでシェアする形にした。
「本当にどれも美味しいですね。それに安い。特にこのグレートボアの生姜焼きが気に入りました。是非我が国にも出店してもらいたいと思ってます」
絶賛してくれている。
「キアラ王女よ、魔女っ子ランチはどうじゃ。妾がプロデュースしておるからのう。それに今日のおまけのおもちゃは三連式のピロピロ笛じゃ。面白いぞ」
バーバラと子供達が一斉にピロピロ笛を吹き、キアラ王女も付き合わされていた。
もしかしたら、キアラ王女はクリスと同じパターンで、実はいい人だったとか、なのだろうか?
そんなとき、リルとリラが帰って来た。やっぱり昼食を食べたくて急いで調査したみたいだった。
報告を聞く。
キアラ王女は2週間前からムリエリアに入っていたようだ。ムリエリアもバーバリアも獣人に対して偏見がないという話だったが、どうも信じられなかったようで、普通に視察したのでは、獣人が実際は差別や不当な扱いをされていても、上手く隠されてしまうと思い、こっそりと身分を隠して生活をしていたようだった。
しかも、訓練所の臨時職員として働いてもいる。
どうやら訓練所で何かあったようだ。訓練所の職員となってからは、早朝から清掃をするなど、勤務態度は真面目なようだ。アイリスに説明し、訓練所の様子を聞く。
「うーん・・・特に印象にないですね。いたと言われればいたような・・・」
とりあえず、訓練所に行ってみるか。
「キアラ王女は武術の達人と伺っております。午後は訓練所にご案内しようと思っています」
キアラ王女は一瞬、顔が引き攣った。
しかし、落着きを取り戻して言った。
「遅かれ早かれバレることですから・・・実は・・・」
キアラ王女はリルとリラが報告して来た内容のとおりのことを話始めた。
「それで、訓練所で素晴らしい出会いをしたのです。その方に出会ってから、私の人生は一変しました。その方は訓練所職員で、物凄く強いのに紳士的で奢らず、誰に対しても分け隔てなく接しているのです」
そんな素晴らしい人っていたっけ?
アイリスに聞いても覚えはないようだ。キアラ王女は続ける。
「以前の私ならどうやって自分を大きく、そして強く見せようか必死でした。しかし、その方は違ったのです。謙虚で、達人クラスの実力を持ちながら、未だに誰よりも朝早く来て清掃をしています。一度その方に伺ったことがあります。
「なぜ誰に対しても丁寧な態度で接しているのか?」と。
するとこう言いました。
『そんなの決まってるじゃないですか。保身のためですよ。この町には怪物みたいなのがゴロゴロいます。調子に乗って上から目線で接していたら命がいくつあっても足りませんよ』
私とは全く逆の発想でした。
しかし、訓練所の職員をしてみて、その方の言っている意味がよく分かりました。それに上には上がいるということも。
それで私は、その方の教えを守り、実力がつくまではひっそりと目立たないように訓練をしていました。
そちらのアイリス王女は何度か訓練所でお見掛けしたことがございます」
「す、すいません。全然気付きませんでした」
「お気になさらずに。『素早く強者を見つけ出し、気配を殺してやり過ごすのも大事だ』という、その方の教えを守っていただけですから」
「そうなんですね。早くその素晴らしい職員さんに会いたいですね」
私達は訓練所に向かった。
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