6 正義の味方クリス 2
ドーラ一家のアジトに突入することにした私だが、全くの無策ではない。新しい武器も手に入れている。それは「トゲトゲの鞭」だ。それを2本入手している。一つは「始まりの洞窟」の宝箱で入手し、もう一つは町の武器屋で購入したのだ。1000ゴールドと少しお高めだが、必要な出費なので仕方がない。
私は「鞭使い」と「両手攻撃」のスキルを持っているので鞭を使って2回攻撃ができるのだ。それにゲームでは鞭は全体攻撃ができる。試しに魔物相手にやってみたが、やはり全体攻撃だった。なのでレベル上げについては全く心配していない。だって、この付近の魔物はすべて瞬殺してしまうからだ。
この方法は当時、画期的で瞬く間にプレイヤーに広まった。発見当初、「ムチムチクリス」「鞭クリ姐さん」と呼ばれていたので、よく覚えている。実際に試したところ、私の戦いを見た冒険者の何人かが「僕も鞭で叩いてください」と申し出て来た。
どの世界にも変態はいるものだと実感した。
意を決してアジトに乗り込むとすぐに「トゲトゲの鞭」で大臣の護衛やドーラ一家の下っ端を一瞬で打倒して無力化した。不意打ちだったことで、全く反撃は受けなかった。無事なのはバッドと大臣とドーラだけだ。
ドーラが言う。
「てめえ!!何者だ!!アタイらをドーラ一家と知ってのことか?」
「私は冒険者のクリスです。アンタらの企みは分かってんだ!!大人しく自首しろ」
まあ、言ってはみたものの、そんなことするわけないよね。
できればドーラとの戦闘は避けたかったけど。
ゲームでドーラは何度か勇者パーティーと戦う。最初に戦うのは大体レベルが15前後だ。今の私のレベルだと結構しんどい。しかし、こうなってしまっては仕方がない。私にはレベル以上にゲームの知識がある。
ドーラは、その大きな体を生かしたパワーファイターだ。手にしている特大の棍棒を振り回して攻撃してくる。ただ、このドーラには弱点がある。動きは遅いし、物理攻撃以外はできない。
なので、基本戦術は防御魔法を掛けまくって完封する戦術か、目くらましの魔法か道具を使って攻撃を当たらないようにする。これならレベルが足りていなくても何とかなるのだ。
私は用意してた煙玉をドーラに投げ付けた。ドーラはまともに喰らったようで、目が開けられない。
「クソ!!なんも見えねえ」
それでも闇雲に棍棒を振り回しているので容易には近付けない。振り回した棍棒は近くにいたバッドにヒットし、バッドは気絶してしまった。
私は遠距離から「トゲトゲの鞭」で2回攻撃を繰り返している。かなり長い時間打ち続けたところ、ドーラは床に突っ伏した。私の勝利だ。
私は床に転がっている関係者を拘束し、大臣とバッドを尋問する。
「孤児院の横領の件と奴隷の売買について、詳しく教えてくれますよね?」
「儂は何も知らんぞ。こいつらが勝手にやったことだ」
「そ、そんな・・・大臣に言われて私は・・・・」
見苦しい。
私は「トゲトゲの鞭」を大臣とバットの間の床に打ち付け、言い放つ。
「正直に言わないと滅多打ちにするよ!!それに証拠の資料も出しな」
ちょっとやり過ぎたか?これならどっちが悪者か分からない。
全部ではないが、証拠資料を提出させ、尋問を続ける。犯行に至った経緯だが、目の前で拘束されている総務大臣が宰相になるための資金獲得が目的だったようだ。大臣の主導で犯罪組織のドーラ一家と不祥事を起こして役人をクビになったバッドを加えて今回の事件を引き起こしたらしい。
しばらくして、警備隊がやってきた。私が警備隊に事情を説明していると大臣が急に叫ぶ。
「この者を殺せ!!今なら間に合う」
この警備隊は、大臣の息のかかった警備隊だった。大臣は警備隊も買収していたようだ。
警備隊は一斉に剣を抜き、私に向かってくる。
でもそこら辺の警備隊なんてたかが知れている。両手に「トゲトゲの鞭」を装備した私に勝てるはずがない。すぐに滅多打ちにして、床に転がせた。
「警備隊にこんなことをして、タダでは済まされんぞ。貴様はもう終わりだ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。これでも同じことが言えますかね?」
私が大臣に見せたのは拡声の魔道具だった。私と大臣達とのやり取りは王都アリレシア全域に拡散されていたのだ。
「そ、そんな・・・・」
「証拠資料もいっぱいありますし、それに奴隷売買の最高刑は死刑ですよね?」
大臣は青ざめて何も言わなくなってしまった。
★★★
しばらくして別の警備隊がやってきた。今度はまともな警備隊のようだった。しかし、この状況では、裁判やその過程でもみ消されてしまう恐れがある。大臣の息のかかった役人はかなり多いと思われるからだ。
もうひと騒動起こすか?それにやるなら徹底的にやろう。
「誰があなた達を信用すると思うのですか?私から話を聞きたいなら私に勝ってからいいなさい」
仕方なく、警備隊は剣を抜いて私に向かってきた。
「事情は理解しましたが、貴方を拘束させてもらいます」
しかし、今回も私の圧勝だった。
私は拡声の魔道具を持って叫ぶ。
「アリレシアの皆さん!!こんな役人達を誰が信用できるのでしょうか?私から話を聞きたいなら王子様か、騎士団長でも連れて来きなさい!!それでも私に勝てればの話ですけど」
それから別の警備隊がやってきたが、これも私が瞬殺した。
そしてとうとう大物がやって来た。
ロトリア王国の軍事顧問、ケルビン・ダンベルだった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!