59 悪魔神官 1
旧転職神殿の関係者でパーヨックに加担していたのは、人間至上主義のクラン派の連中ばかりだった。まあ、まともな人間はこっちに来るよね。パーヨックや一部の関係者は見付かってないので、捜索は続けるようだ。
問題は、転職神殿の跡地をどうするかね。商社時代には経営難で潰れたテーマパークの跡地の再開発事業を手掛けたことがある。当時は下っ端だったからそこまで苦労しなかったけど、上司を見ていると大変そうだった。だって住民の説明会で「あの遊園地は私達の思い出の詰まった場所です。どうか存続を!!」とか言い出したりするんだもん。
上司は後日飲み会で、「もうその話は終わってんだよ!!俺に言うな!!」と愚痴っていたのはいい思い出だ。
まあ、この世界では王族がいるし、「王が決めたことだ!!」と言えば反対する者はいないだろうから、その点は楽だろう。しかし、ランカシア帝国、サンクランド魔法国、マリシア神聖国の三大国とロトリア王国の事情が複雑に絡み合っているので、そっちはそっちで難しいだろうな。
なるべくなら関わらないようにしたい。多分無理だろうけど。
そんなことを思いながら業務をこなしていると、スタッフが飛び込んできた。
「大変です、会長!!旧転職神殿から大量のアンデットが発生し、旧転職神殿の住民達が大勢避難してきています。それで、ムリエル王女からバーバリアの領主館で対策会議をするので、出席するようにとのことでした」
「分かったわ、すぐに準備するわ。それから、避難して来た住民は手厚く保護してあげて」
スタッフに指示を出すと私は、バーバラのいる領主館に向かった。
すぐに全員が集まって来た。
メンバーはバーバラ、ライアット、ムリエル王女、サマリス王子、アイリス、ドーラだ。
ムリエル王女から状況説明を受ける。
「現在のところ、バーバリアに避難してきた住民は1万人を超えています。バーバリアだけでは受け入れできないので、ムリエリアでも受け入れる予定です。お父様には事後承諾してもらいます。人道的配慮なので、文句は言われないと思います。
続いて原因ですが、旧転職神殿のスタッフだった者が言うには、パーヨックが「こうなったら最後の手段だ。悪魔召喚してやる」と言っていたそうです。そのスタッフは怖くなってすぐにこちらに避難してたようです。
状況から考えて、パーヨックはバーバリアに恨みを持っており、ここにアンデットが押し寄せることは目に見えてます」
悪魔召喚?そんなこと、ゲームではなかったような・・・・ってあったわ!!
ゲームでは、マリシア神聖国に勇者パーティーが訪れた際に神官の一人が悪魔を召喚し、悪魔に憑りつかれて悪魔神官となって勇者パーティーと戦うイベントがあった。原因は政争に敗れ、自身の将来を悲観して、逆恨みしたことだったと思う。ボスの名前は「悪魔神官」とだけ表示されていたので、パーヨックが悪魔神官になるなんて、予想だにしなかった。
いや、予想できた。悪魔神官は「パ、パ、パ、パ、パーヨック!!」と謎の雄たけびを上げて登場するのだが、当時、一体なんの意味があるのかと話題になり、兄と恭子ちゃんもよく議論していた。
「絶対に何かの呪文だよ。そうじゃなかったら一生お前の奴隷になってやるよ」
「何かの名前よ。そうじゃなかったらあなたに一生尽くしてあげるわ」
まあ、そんな二人が結婚し、兄が恭子ちゃんに奴隷のような扱いを受けているのは、当然の報いかもしれない。こんなことなら、こっそり暗殺でもしておくんだった。
思い出話はこの辺にして、悪魔神官の脅威に怯えるマリシア神聖国だったが、唯一レナードが勇者パーティーへの加入を申し出たのはこのころだったと思う。
今思うとレナードは、戦いたくない神官達の身代わりだったのかもしれない。
そう言えば、レナードはバーバリアにいるし、もう勇者パーティーに入ってる扱いなのか?
レナードがここに来たことでフラグが立ったのか?
物思いにふけっているとサマリス王子が言う。
「ここにはランカシア帝国、サンクランド魔法国、ロトリア王国の王族がいる。それぞれの国の立場を明確にしておきたい。まずロトリア王国だが、正直関係ないというスタンスだ。だって、トンネルを封鎖してしまえば、被害は出ないからね」
「そ、そんなお兄様!!それはあんまりです!!」
ムリエル王女が食って掛かる。
「落ち着いてムリエル。多分、あの狸宰相だったらこう言うと思う。でも私はファースト・ファンタジー株式会社の代表だし、王族も多くの貴族や商人達が株主だ。その立場から見ると他人事とは思えないだろう。大陸間の貿易にかなり依存しているし、バーバリアが壊滅したら大損害だ。その点を踏まえた上で、ムリエルには父上や宰相と交渉して欲しいんだ。あの狸宰相のことだから、援助を出し渋るかもしれないからね」
「分かりました。必ず最大限の援助を引き出します」
続いて、バーバラが言う。
「せっかくもらった領地じゃし、愛着もあるから妾は最後まで戦うぞ。姫様、それでよいですな?」
「もちろんよ。私も戦います」
アイリスも答える。
ライアットも続く。
「当然戦いますよ。最終的なパーヨックの狙いは、こちらの転職神殿でしょうからね。それに父はよく『我がランカシア帝国は建国以来、1ミリも領土を譲ったことはない』と言ってます。もし僕が逃げたら、一生国に帰れませんからね」
サマリス王子がまとめる。
「三ヶ国の意思統一はできたところで、クリス、案はあるかい?」
ここで私?なんか私が勇者みたいじゃないの。
まあ、無くはないけどね。
「まず、発生源のパーヨックを討伐すればアンデットは消滅すると思います。確実ではありませんが、何かの文献で呼んだ記憶があります」
これはゲームの知識だ。悪魔神官を倒したらアンデットは出現しなくなった。私はアイリスに合図を送る。
「私はクリスさんの意見に賛成します。パーヨックを倒しましょう」
いいよ、ナイスフォロー。
「それで、ライアット皇子の見解のとおり、アンデットの狙いはこちらの転職神殿でしょう。なので、こちらの戦力をパーヨック討伐班とバーバリア防衛班に分けてはいかがでしょうか?一か八かで討伐班に全振りするのはリスクが大きいと思います。
それと、リルとリラには偵察に出てもらってます。バーバリアにアンデットの大群が到着するのにどれくらいの猶予があるか知りたいですから」
「流石はクリスお姉様ですわ。もちろん私はクリスお姉様と行動を共にします」
★★★
結局このようなメンバー構成になった。
討伐班
私、「謎の盗賊団」のドーラ、サマリス王子、リルとリラ、クリストフ
ライラ(竜車の御者兼アイテム係)
元神官騎士団の団員達60名(レナードを含む。旧転職神殿の崩壊後に更に増えた。普段は別の仕事をしている)
防衛班
ムリエル王女、バーバラ、ライアット、ケルビン
増援で来たロトリア王国騎士団
ルイーザさん、ラクーンさんを含む冒険者の有志
ケルビン率いる警備隊
若干、ムリエルが不機嫌だった。
「私もクリスお姉様と一緒に行きたいです!!」
まあ、王族が二人も討伐に行くのは流石にどうかと思うし、それにムリエルはムリエリアの領主でもあるから、残ることが得策だろう。
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