58 転職神殿をぶっ潰す 7
「会長、街道に盗賊が頻繁に出るようになりました。幸い我が商会には被害はありませんが、積荷を根こそぎ強奪された商会もいるそうです」
「そうか、そういう感じできたか・・・多分犯人は分かるんだけど。分かったわ、被害に遭った商会にはヤマダ商会から無担保、無利子、返済期限なしで資金援助をしましょう。私達に原因がないわけではないからね」
盗賊の正体は多分、転職神殿の奴らだろう。資金が少ないのに武器を買い集めたり、傭兵を募集したりしていたからだ。こうなるのも分かる。本国から連れて来た神官騎士団は壊滅し、転職神殿は内部崩壊、おまけに不正蓄財していた財産はサマリス達の盗賊団に根こそぎ奪われた。
因みにサマリス達の盗賊団は「大盗賊」のジョブ持ちのサマリス王子がお頭となり、配下にリルとリラを加えた組織だ。サマリス王子は言う。
「やっぱり、この盗賊スキルを世のため、人のために生かしたいんだ。ロトリア王国の王子は世を忍ぶ仮の姿で、本当の僕は義賊なんだ」
発想が厨二病だが、なぜかリルとリラの心には響いたようで、一緒に活動を続けている。それとなぜか、「盗賊」に転職したクリストフも行動をともにしている。どうしてなのかは分からない。危ない方向に走らなければいいのだが。
流石に調子に乗り過ぎては困るので、定期的にムリエル王女に指導してもらっている。
「お兄様、いくら義賊の活動が忙しいからって、王族として最低限の仕事はしてくださいね」
少し話は逸れたが、街道に現われた盗賊団は何とかしなければならないので、対策を打つことにする。
★★★
私とアイリス、バーバラ、ドーラは数名の女性スタッフを連れて、ポートシティに来ていた。前回盗賊の襲撃に遭った商会関係者から聞いたのだが、ポートシティを出た直後に襲われたそうだ。そのことから考えて、この町のどこかで、実入りの良さそうな獲物を狙っているに違いない。
それにドーラが言うには、普通の盗賊ではないようだった。というのも、普通の盗賊であればある程度交渉の余地があり、積荷を根こそぎ奪うなんてことはまずしないそうだ。細く長くが基本で、高い通行税程度の金額を取るのが普通だという。
「素人か、それとも別の目的があるか、ってことね」
「素人ではないと思うけどね。襲われた商会のスタッフの話じゃ、軍隊みたいに統率が取れてたみたいだし」
「だったら間違いなく、あいつらね・・・」
「多分ね、じゃあ、ここからアタイ達は別行動だ。じゃあ、お前ら行くよ!!」
「「「ヘイ!!」」」
ドーラの指示にサマリス王子、リルとリラ、クリストフが従う。サマリス王子とリルとリラが頭をどっちがするかで揉めたみたいで、仲裁していたドーラが頭をする羽目になったそうだ。因みに名前は「謎の盗賊団」に改名したらしい。こちらのほうはサマリス王子とリルとリラの意見は一致したようだ。自分達で「謎」って言っていれば世話はないと思うけど。
「では妾もそろそろ準備をするかのう。ノリノリのアップテンポの曲を中心に構成しておるから楽しみにするとよいぞ」
「じゃあ、お願いね。期待してるから」
バーバラはポートシティの広場でステージに立ってもらう。囮となるなら目立ったほうがいいからだ。そして、不審な者がいたら「謎の盗賊団」が尾行して正体を確かめる作戦だ。「謎の盗賊団」はかなり能力が高い。元「盗賊」で「将軍」のジョブを持つドーラがトップで、「大盗賊」のサマリス王子、「忍者」のリルとリラ、そして上級職の「パラディン」から異例の転職をした「盗賊」のクリストフと、ここまでの能力を持った諜報部隊は大国でも持ち合わせていないだろう。
一商会が持っていい戦力ではない。
ステージが始まると大歓声があがる。バーバラは日頃から練習に励んでいるだけあって、日増しに上手くなっている。これが「アイドルスター」の実力なのだろう。
「いいぞバーちゃん!!」
「魔女っ子バーちゃん最高!!」
「こっち向いてくれ!!」
ステージは大盛況に終わった。
アイリスは言う。
「あれだけバーちゃんって呼ばれるのを嫌ってたのに芸名は「魔女っ子バーちゃん」ですからね。変われば変わるものですね」
「そうね。楽しそうだからいいんじゃない。魔法の才能があるからといって、魔法使いになりたいわけじゃないからね」
ここからはヤマダ商会がバーバラの集めた客に営業を掛ける。雲のかけら(綿アメ)、かき氷、ラーメンの屋台を中心にヤマダ商会がかなり資金を持っていることをアピールする。
そんなとき、リルとリラから報告が入る。
「噴水の辺りにいる男3人が怪しいです」
「商人でもないのにしきりにヤマダ商会のことを聞き回っていました」
「ありがとう、ちょっと接触してみるか」
私は雲のかけら(綿アメ)を数本持ち、その男達に声を掛ける。
「ヤマダ商会名物の雲のかけらですよ。甘くて美味しいのでお一つどうですか?」
「もらおうか。ところで、大分儲けているようだが?」
「お陰様で。普段はバーバリアやムリエリアで商売をしているんですが、街道が整備され、安全が確保されたのでポートシティまで来たんですよ。スタッフは女性ばかりで、護衛を雇うにも伝手がないので、本当に助かってます」
「それは良かったな。ところでいつ帰るんだ?」
喰いついた!!
「明後日ですね。明日はここで仕入れるだけ商品を仕入れるので。護衛料がかからないので、いつもよりいっぱい仕入ようと思います」
「そうか、そうか。美味しかった。ありがとう」
男達は去って行った。
もちろん尾行をさせる。報告によると盗賊一味に間違いなかったようだ。
★★★
ポートシティを出て、2時間程進んだところで30人程度の盗賊に囲まれた。
「命が欲しかったら馬車から降りてこい!!積荷と金を全部置いて行けば、命だけは助けてやる!!」
お決まりのセリフを聞いた。
私も少し彼らに乗っかる。
「貴方達は何者ですか?・・・命だけは・・・」
「こ、こわいのじゃ・・・幼気な妾に一体何をさせる気なんじゃ・・・」
バーバラも乗ってきた。
「悪く思うな、これも仕事だからな。お前達に恨みはないんだが」
「そんな・・・積荷を全部持っていかれたら、これからどうやって私達は生きていけば・・・どうかご慈悲を!!」
「妾を助けてくれたら、何でもいうことを聞くぞ」
しばらく話してみたけど、依頼主については流石に話さなかった。まあ、依頼主がいるということが、分かっただけでも良かったと思おう。
「おい、別嬪さんばかりじゃないか!!それにこれは馬車じゃなくて、新型の竜車だ。計画変更といこう。馬車も女どもも全員連れて行くぞ」
「そ、そんな・・・どうかお助けを・・・」
「妾は嫌じゃ!!行きとうない」
アイリスは、私とバーバラをジト目で見ながら言ってきた。
「一体いつまで、三文芝居をするつもりですか?もういいんんじゃないですか?」
「そうね。じゃあ、私が正面、バーバラが左、アイリスが右でお願い。後方の奴らは逃がしてあげてね。それと、リーダー格の男は生け捕りにしてちょうだい。後はできればでいいから、なるべく命だけは助けてあげてね」
「お前ら何ごちゃごちゃ言ってんだ!!状況が分かってんのか?」
「分かってないのはどちらでしょう?」
戦闘が始まる。まあ、戦闘と呼べるものではなかったけど。
私は二人になるべく人命優先と指示しただけにかなり手加減をした。鞭で足や手などの致命傷にならないところを狙って鞭を振っていたので、多少時間は掛かった。倒し終わって二人を見ると、すでに盗賊たちは地面に転がっていた。
その後、バーバーラが作った氷の監獄に放り込んでいく。
しばらくして、警備隊に連絡し、引き渡すことにした。引き渡した警備隊の隊長が言う。
「お前らも哀れだな。「殲滅の鞭姫」、「氷結の魔女」「疾風の切り裂き姫」を一遍に相手にしたんだから。命があっただけでも幸運と思えよ」
「そ、そんな・・・俺達が勝てるわけないじゃないか」
★★★
取調べの結果、依頼者はパーヨックだったらしい。少しでもバーバリアに対して嫌がらせをしたかったようだ。それに逃げた盗賊も転職神殿に入って神殿関係者に接触したところで、「謎の盗賊団」によって拘束している。しかし、パーヨック自体は行方不明になっているようだった。
神殿内を捜索したところ、最初に襲った商会の積み荷や金品もほとんど手つかずで残っていた。これらを被害者に返却したところ、被害に遭った商会長は涙ながらにお礼を言ったという。サマリス王子、リルとリラも大満足のようだった。
まあ、これで転職神殿は終わりだね。
パーヨックはどこに行ったか分からないけど、一件落着だ。
めでたし、めでたし。
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