51 転職神殿をぶっ潰す 3
バーバリアの城壁も完成し、インフラの整備も進む。
会長室で報告書を読んでいると気になる情報を見付けた。私達がターゲットにしている転職神殿で窃盗事件が多発しているそうだ。
私は指示してないけど、どういったことだろうか?
そんなとき、秘書室のリルとリラの会話が聞こえて来た。
「連日、夜活動すると本当に眠いわ」
「でも、一緒に盗みに入るだけで、結構なお小遣いもらえるし・・・」
「そうだね。昼の仕事は適当にして、ゆっくり寝ておこうよ」
「そうだね・・・」
「アンタら!!何を仕事サボってるの!!」
「「ひい!!」」」
二人の悲鳴があがる。
二人を問い詰めたところ、どうもサマリス王子が関係しているらしい。二人に聞いたところ、こんなことを言っていたそうだ。
「そうか、義賊か・・・よし、これからは我々は「正義の盗賊団」だ。どんどんと盗むぞ!!」
ああ、ジョブが「大盗賊」だから、仕方ない面もあるけど。
この件は、サマリス王子に言って、止めてもらうことにした。泥棒をした私が「泥棒をするな」と注意するのもおかしいが。
しかし、サマリス王子の活躍で後々私達の活動が加速することになる。
★★★
「ドーラ、ポートシティまでの街道は整備できた?」
「通るだけなら大丈夫だよ。少し舗装が必要なところはあるけど、まあ許容範囲だよ」
「じゃあ、そろそろ宣戦布告といきますか」
ここまで私は、水面下で色々と動いてきた。まずは、転職神殿の弱体化だ。スタッフを引き抜き、「転職の水晶玉」を盗み出した。それにサマリス王子が勝手に色々なものを盗んだことで、転職神殿に残っているスタッフ同士が疑心暗鬼に陥っているらしい。このことを聞いて、もっともめごとを起こさせるため、盗んだ物の一部を転職神殿に戻すことにした。
このことがきっかけで神官同士が喧嘩になったそうだ。
更に転職神殿を通らない流通経路も確立した。
もちろんシャーロック商会の協力もあったが、一番活躍してくれたのはドーラ達だ。この大陸の玄関口である港湾都市ポートシティとバーバリアとの街道を整備してもらったのだ。
転職神殿は、大陸交易の中継基地としても発展している。ポートシティから転職神殿、そこからそれぞれの都市にという形だ。
バーバリアがそのポジションを奪うことができれば、確実に転職神殿にダメージを与えることができる。ドーラ達のインフラ整備と並行して、商人を通じて噂を流すことにした。
「人間至上主義のクラン派は、今度は獣人と取引しただけで、私財を没収するらしいぜ。もうこの付近での商売は無理だ。バーバリアにでも行こうぜ」
実際、獣人や亜人を多く雇用しているヤマダ商会とシャーロック商会が取引停止になったことは商人の間では常識だ。それにどこの商会も一人二人は獣人スタッフがいるから気が気ではなかった。なので、この噂は瞬く間に広がった。そして、徐々に転職神殿から商人の姿が消えることになる。
そして最後はバーバリア転職神殿のサービスの充実化だ。
どんなにライバルの転職神殿を弱体化させたところで、こちらのほうが優れた転職神殿でなければ、競争に勝てない。
こちらのほうはアイリスが中心になってやってもらった。こういう仕事は彼女が好きな分野で、ちょっとコンサルに近いかもしれない。
まず、転職料はそのままにした。
よくあることだが、不毛な値下げ競争は利益を生むどころか、共倒れになる。なので、別方面で差別化を図ることにした。それは研修制度の見直しだ。以前の転職神殿では、アントニオさんやポーシャさんのような優秀な指導者がいる一方で、評判の悪い指導者も存在していた。
評判の悪い指導者を再教育したり、それでも改善しない場合は解雇したりした。そのお陰で、以前よりも研修制度は充実したと思う。
それに加えて、就職先の斡旋も行った。戦闘職は王国騎士団、魔法職は宮廷魔導士団の入団試験を受けられるようにし、採用とならなくても、警備隊への就職やバーバラ魔法学校への入学が認められることになった。バーバラ魔法学校というのは、バーバラが子供達に魔法を教えていたことが始まりで、魔法職が増え、講師クラスの実力を持つ者も多く出て来たことから、しっかりとカリキュラムを決めた学校を設立したのだ。バーバラ以外の講師は、ミレーユとライアットがその筆頭で、ムリエル王女も公務の合間で教えに来ている。
因みに警備隊の指導はケルビンが担当しているが、アイリス、サマリス王子、ドーラのような猛者も参加しているので、戦力的には騎士団よりも上だと言われている。
その他「商人」や「建築士」などの非戦闘職は、ヤマダ商会かファースト・ファンタジー株式会社が就職先となっている。一応孤児のためにジョブの転職サポートはしているが、勝手にジョブ持ちの就職希望者がやって来るので、かなり美味しい思いをしている。
準備は整った。
これまでは、バーバリア転職神殿の活動は細々としていたが、ここからは一気にやってやる。リルとリラだけでなく、獣人や亜人に不当な扱いをした奴らにはそれ相応の報いを受けてもらわなければ。
★★★
「クリスお姉様、あの船です。それでは車列を組みましょう。ライアット皇子、準備をお願いします」
ムリエル王女が指示を出す。
私達が到着を待っているのはランカシア帝国の皇帝ご夫妻の一団だ。サンクランド魔法国の一団はすでに出発している。今回ポートシティまで、出迎えに行ったのには訳がある。ポートシティからバーバリアまでの街道が安全で有益だということをアピールするためだ。
それにこの車列にも工夫が凝らされている。勇者使用の竜車が5台と新型の車両が一台だ。この新型の車両は現代でいうホバークラフト型だ。竜車と同じ原理で浮き上がらせるのだが、後部に取り付けてあるプロペラを回転させて推進力に変えている。
プロペラの動力も魔石にしようとしたが、コストが係り過ぎることと、重量や積載量の関係から、魔導士が魔力を込めて回転させる方式にしている。開発者のトルデコさんはこれでもまだ納得がいかないようで、更に進化することは間違いないだろう。
本当の本当はリニアモーターカーを設置したかったんだけど、コストも工期も間に合わないからね。こちらは地道に出資者を集めるところから頑張ろう。
ランカシア帝国の皇帝ご夫妻と合流を済ませると早速、ご夫妻と側近をホバークラフトに乗車してもらった。ご夫妻も側近もびっくりしている。
ここでライアット皇子が声を掛ける。
「父上、母上ご無沙汰しております。この車両は私が操縦致します。魔力の関係でムリエル王女にもサポートしていただきます。世界初の技術ですので、存分にお楽しみください」
このホバークラフトの欠点は、魔力量の多い魔導士がいないと動かせないところだ。なのでこちらはライアットとムリエル王女、サンクランド魔法国側をバーバラとミレーユが担当している。このクラスの魔導士だと一人でも十分なのだが、もしものときのために二人体制にしているのだ。
「ライアットよ。こんなことができるとは、我の見る目の無さを許してくれ」
「本当だわ。こんなことができるなら、皇帝にでもなれそうよ」
「嬉しいお言葉ですが、これもすべて、ムリエル王女を始めとした皆さんのお陰です。私はこれからも、この地で一生懸命に頑張っていきます」
道中は熱烈な歓迎を受けた。
これで街道の安全性をアピールできたし、竜車や新型車両のアピールもできた。
記念式典ではもっと驚くことになりそうだけどね。
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