47 そうだ!!馬車を作ろう 2
取り残された私とセバスは打ち合わせを始める。まずは私が直近の功績を記載した活動実績報告書をセバスに手渡した。リルとリラに教えたが、報告書の類は全く書けなかったので、なし崩し的に私が作成するようになっている。
活動実績報告書を見たセバスが言う。
「なるほど、ランカシア帝国の第三皇子ライアットの勇者パーティーへの加入阻止がメインですね。魔王様もお喜びになられるでしょう。ところで、本日来られた目的は?」
「こちらをご覧ください。騎竜の販売を考えております」
セバスは私が用意した企画書を確認する。しばらくして、従者を呼び、指示を出す。
「大人しめの騎竜を4頭用立ててくれ。それとクリス殿、貴方の目の付け所は素晴らしい。人族領で騎竜がポピュラーなものになれば、より大きな利益が見込めますな!!」
セバスは大喜びだ。
セバスはかなり商才があると思う。ジョブはそのまま「執事」なのだが、領主や大臣になってもやっていけるだろう。
ある程度、仕事が片付いたところで、セバスと雑談を始める。
「今更で恐縮なのですが、リル様とリラ様に与えられた「魔将」というのはどれ位の地位なのでしょうか?」
「恐縮されることはありませんぞ。人族のクリス殿が知らなくても当然のことです。魔王軍は魔王様を筆頭に上から、「魔王」、「大魔将」、「魔将」、「準魔将」に分けられております。「準魔将」が人族でいう男爵以下の下級貴族、「魔将」が伯爵~侯爵、「大魔将」が公爵というようになっております。
「大魔将」は現在四家しかおられませんので、四天王と呼ばれておりますね」
えっ!!リルとリラってかなりの幹部じゃないの・・・
更にセバスは驚きの発言をする。
「これは内密の話ですが、魔王様はリル様とリラ様を「大魔将」に昇格させることを検討しております。なので、魔王軍の案件にも携わってほしいのです。まあ、その前にこの山積みの書類を捌いてほしいのですが・・・」
リルとリラが四天王と同格?
もしかして勇者パーティーと戦うの?
本当におかしなことになっている。
私は動揺を抑えて、セバスに言う。
「私でよければ処理しますが、流石に機密情報は勝手に見るのはよくないですし・・・・」
「お気持ちだけで十分ですよ」
★★★
商談をしたり、処理できる範囲の事務処理をしてあげたら、セバスだけでなく、従者達にも感謝された。
ある程度、仕事が片付いたところで、リルとリラ、アイリスが帰って来た。
「アイリス、なかなかよかったぞ」
「次も頼むぞ。そろそろ寒くなるから、ラーメンを作れるようにしておけ」
「ハイ、ハイ」
「ハイは一回だ!!」
「そうだ、最近たるんでいるぞ」
相変わらずだ。見ていて面白い。
アイリスが帰ってきたので、私とアイリスは騎竜の扱いを習っていた。騎竜は、馬よりもかなり賢い。人間の言葉もある程度は分かるそうだ。騎竜の扱いで一番大事なのは信頼関係だという。なので、騎竜に自分が信頼できる者と証明する必要がある。
一番簡単な方法は、騎竜が信頼している者に紹介してもらうことだ。その者を介して、餌をあげたり、撫でてあげたりするれば、懐いてくれるのだ。
私達も魔族の伝統に従って、騎竜の相手をしていたら、自然と懐いてくれた。勇者パーティーに引き継ぐときも同じ要領ですればいいそうだ。
一方リルとリラはセバス達に捕まって、強制的に仕事をさせられていた。
ほんとんどは簡単な決済物だったのだが、中には魔王軍の会議の出席や魔王軍の編成案の提出などの重たい案件もあった。リルとリラの出した結論は・・・・
「セバス、お前が会議に出席しろ」
「この関係はお前に任す。勉強と思って頑張れ!!」
なんとセバスに丸投げだった。
涙目のセバスを置いて、私達は騎竜に乗り、帰還することとなった。
★★★
帰還してから、試作品の馬車ができるまでは勇者パーティーへ、騎竜の扱いをアイリスと指導していた。特に問題なく、引継ぎができそうだった。結局2頭を勇者パーティーに、もう2頭はムリエリアで面倒をみることになった。
騎竜の入手先について、聞かれたが、謎の行商人から買ったと言い切った。これは怪しまれたが、何とか誤魔化している。
そうこうしているうちに試作品の馬車が完成した。一応車輪も付けているが、基本的には浮遊状態で移動できる。馬車を騎竜に引かせて走らせてみる。かなりのスピードだ。
開発したトルデコは涙を浮かべている。
「本当にこんな日が来るなんて・・・夢のようです」
「何言ってるのよ。これはまだ始まりでしかないからね」
私はすでにある計画を思い付いていた。
それから2日間は新型馬車改め竜車のテストが繰り返された。問題はないどころか、かなりの高性能だ。普通の馬車が時速10キロ位なのだが、竜車は時速30キロは出せる。なんたって、車の部分の重さが魔力で実質ゼロなのだ。
そして、協議を重ねた結果、勇者パーティーは試作機のまま出発するとのことだった。トルデコさんは最後まで反対していたが、ダグラス王子が押し切った形だ。妥協案として、試作機で砂漠横断に挑戦し、機を見てムリエリアに帰還し、新型の竜車と交換するというものだった。
「職人として、完成品ではないものを引き渡すのは心苦しいですが、世界平和のためなら仕方ありません。なので後1日だけ、最後のメンテナンスをさせてください」
トルデコさんの熱い思いに一同が感服するのだった。
★★★
勇者パーティーが旅立った次の日、私はヤマダ商会の関係者とともにトルデコさんを訪ねた。今後の方針を決めるためだ。
まず、今後の販路について販売スタッフのマルチナから説明をさせた。
「すぐに食いついてきたのはシャーロック商会ですね。すでに所有している鉱山のトロッコにこの技術を応用しようとしています。それと竜車なんですが、これは勇者パーティーのマリア様に商談のサポートを頼んでいます。感触のいい商人にはムリエリアに行くように話をつけてくれるそうです」
トルデコさんが言う。
「いきなり大儲けとは行かないのが常だ。その方向で俺はいいと思うけど・・・トルデコはどうだ?」
「私としては、やっぱり動力も魔力で行きたいと思っています。なので、その研究費を出してくれたら・・・・」
「これ以上クリスさんに甘えるのもなあ・・・。俺は商売に関しては素人だが、それでも採算が取れなさそうだし」
私はここである提案をする。
「私も物づくりについては素人ですが、ちょっとした模型を作ってきました。これなら、すぐに実用可能ではないでしょうか?」
私が持ってきた模型はリニアモーターカーをモチーフにしたものだ。
「レールを敷くのです。このレールの下側と左右に魔力を込めれば推進力になると思うのですけど・・・」
しばらく、考え込んでいたトルデコさんは言った。
「いける!!いけますよ。レールが敷いてあるところ以外は走れない欠点がありますが、それでも魔力だけで動く車が作れます。まずはこれを実用化できるようにします。よし、今日中に模型を作るぞ!!」
後年、これが元で王都アリレシアとムリエリアをわずか20分で結ぶリニアモーターカーが開通することになる。機関車も電車もすっ飛ばし、いきなりリニアモーターカーとは・・・・日本の技術を超えてしまった。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
今回で第三章は終了です。次回からはクリス達が勇者パーティーじゃないかと思うほどの事件が発生します。どうぞ、お楽しみください。




