46 そうだ!!馬車を作ろう 1
私はアイリスに事情を話しながら、トルデクさんの工房に向かう。
「なるほど、順番が逆ってことですね」
「そうなのよ。だからトルデクさん経由で妹さんを紹介してもらうのよ」
トルデクさんの工房に入ろうとしたところで、怒鳴り声が聞こえて来た。
「お前はいつまで、そんな馬鹿なことをしてるんだ!!」
「分かってないのは兄貴のほうだ!!これは世界が変わるかもしれない画期的な技術だよ。兄貴だって分るだろう?」
「技術は素晴らしいけど、コストがかかり過ぎる!!うちの工房では扱えないって言ってるじゃないか」
「だから、兄貴の伝手でヤマダ商会に出資してもらおうって言ってるじゃないか!!」
「こっちは信用第一だ。そんなあやふやな段階でクリスさんに話ができるか!!」
そのクリスは私ですが・・・・
アイリスと二人で喧嘩を止めて、事情を聞く。
トルデクさんと喧嘩していたのはなんと、妹のトルデコさんだった。
トルデコさんは、魔石を大量に使用した乗り物を考案したそうだ。私が試作品を見せて欲しいと頼んだところ、大喜びした。
「やっぱり会長さんは分かってらっしゃる。じゃあ、これから実演しますね」
これは凄い!!
トルデコさんが見せてくれた試作品はただの台車だったのだが、専用のスイッチを入れると中に搭載されている魔石が起動して、50センチ程宙に浮いた状態で静止したのだ。
「簡単な原理を説明しますね。まず、地面には微量ですが魔力が流れています。そこで、地面と反発するような魔力を台車に流すと宙に浮くんですよ。まあ、これ以上の高さになると魔力が膨大に必要なので今のところ無理です。それと一定の高さに維持するのにもかなりの技術がいるんですよね」
前の世界でいうと磁力を応用したリニアモーターカーの先駆けのようなものだろう。磁力の代わりに魔力を使っているが・・・。
アイリスが素朴な疑問をぶつける。
「ところで、どうやって動かすんですか?浮いてるのはかなり凄いと思うんですけど」
ここでトルデクさんが答える。
「そうなんだよアイリスさん。動力が問題なんだ。結局人力で移動させるか、馬で引っ張るかになるんだ。もちろん地面との摩擦がなくなるので、かなり動かせやすくはなるんだが、魔石代が馬鹿高いので、採算が取れないんだよ。だから、俺はもう少し改良を加えてからクリスさんに紹介しようと思ってたのに」
「だからだろ!!もう開発費が無いんだ。このままじゃ・・・」
これなら、大丈夫だ。
私は事情を説明して出資することを承諾した。
「つまり、勇者パーティーが砂漠の横断に使うから好きなだけ開発費がもらえるってことですね!!やったあ!!」
「クリスさんいいのかい?一応注意して見ておくけど、コイツは好きなだけって言うと、本当に好きなだけ使うからな」
「その点は大丈夫です。ヤマダ商会だけでなく、ロトリア王国がスポンサーですので。それにシャーロック商会にも話を通せば、技術者を派遣してもらえるでしょうし、それに今後の販路も確保してもらえるでしょうから」
ここで一瞬、トルデコさんの表情が曇る。
「で、でも、馬車はすぐに作れても、動力は馬かなんかになっちゃいますよ。どう贔屓目に見ても推進力に応用するには5年はかかりそうなので・・・」
「最終的にはすべて魔力で動くようにしたいのだけど、たちまちは勇者パーティーが砂漠を横断できればいいんだからね。馬車を引く馬はこちらで用意します」
結局この宙に浮かぶ馬車の試作品ができるのは、中古の馬車を改良するだけなので1週間後だそうだ。それにトルデクさんも手伝ってくれるので心強い。
これで何とか馬車は確保できそうだ。
問題は馬なのだが・・・・・。
★★★
「砂漠を横断できるだけの馬ですか?馬じゃなくてよければリルリランドにいますよ」
「騎竜は馬よりも賢いし、体力ありますからね」
えっ!!いるの?
「転移スポットを使えばすぐなんで、これから行きますか?」
「そうですね。久しぶりにリルリランドに行きましょう」
私はリルとリラとともにリルリランドに向かうことにした。そして、今回からアイリスも情報共有のため、同行することになった。
私達が向かうリルリランドなのだが、元々は魔族領にあるリルとリラの故郷の村だった。もう村自体は廃村となっていたのだが、ヤマダ商会の資金を入れて、開発を進めていたのだ。リルとリラとしては、バラバラになった村のみんなや魔族領で虐げられているハーフの為の町を作りたいとのことで、私も協力することにした。
もちろん、リルとリラのためだけではない。魔族領に拠点があれば、何かと便利だからだ。まず、最悪の場合、魔族領に亡命できる。これは本当に最後の最後の手段だ。
そこまでいかなくても、情報が集められるし、魔族領の貴重な素材も手に入る。馬車に使う大量の魔石もこちらで準備できるのだ。
ただ、リルリランドに行くのはあまり好きではない。ここでは私はリルとリラの部下ということになっている。なので、リルとリラが調子に乗るのだ。今もアイリスと言い合いをしている。
「アイリス、お前も私達の部下だから、ちゃんとリル様、リラ様と呼ぶように」
「そうだ、クリスと一緒に私達を敬うのだ」
「でも・・・」
「我々はリルリランドの領主なのだ、えらいのだぞ!!」
「それに可愛くて、カッコいいのだ!!」
「それも全部クリスさんのお陰じゃない?そういう設定だからって、調子に乗り過ぎだと思うわ」
まあ、止めに入るか。
「アイリス、腹立たしいかもしれないけど。バレないようにするにはこれくらいでいいと思っているわ」
というのも、リルとリラは魔王軍で大出世してしまったのだ。まず、一般工作員を飛び越して幹部工作員となったのだ。それに魔王軍で「魔将」という地位も得てしまった。リルとリラに「「魔将」ってどれくらい凄いの?」と聞いても、「とにかく凄いです」としか答えなかった。まあ、待遇から考えてかなり上の方だとは思うのだが。
「魔将」の待遇としては定期報酬が支払われ、領地の税制の優遇措置もある。それに執事と従者を魔王軍持ちで付けてくれるのだ。執事はセバスという魔族の男性なのだが特に優秀だ。この男が執事になってから、商談やリルリランドの運営はかなり楽になったのだが、逆にリルとリラがボロを出ないかと気が気ではない。
因みに昇格となった功績の主なものは三つだ。
〇アイリス、バーバラ、クリストフの勇者パーティーへの加入阻止
アイリスらには好待遇でヤマダ商会に雇用して、「ここでずっと働きたい」との言質を取っているとの内容で、信憑性を高めるためにも今回アイリスを連れて来た。
〇魔王領での商品開発
寒冷地で、作物が育ちにくい魔王領にあって、ジャガイモとサトウダイコンの栽培に成功。かなりの収益を上げている。このおかげで、ヤマダ商会のスイーツ販売戦略が軌道に乗る。コロッケも開発された。
〇人族各国の情報提供
取り立てて大きなものはないが、直近の国際情勢や勇者パーティ―の動向などをこまめに報告していたことが評価の対象になったそうだ。
ゲームだけの感覚だが、リルとリラの功績は群を抜いているのではないかと思う。だって、他の魔王軍がやることといったら、ほとんどが町を襲撃したり、人攫いくらいだからだ。それに比べて、リルとリラは恒常的に魔王軍に利益をもたらしている。魔王軍の幹部がまともなら評価するに違いない。
リルリランドに着くと、住民総出で出迎えてくれた。リルとリラは、この町では英雄なのだ。
すぐにセバスが声を掛けて来る。
「リル様、リラ様、帰られて早々申し訳ありませんが、処理していただかなければならない案件が・・・」
「うるさい!!まずは子供達が優先だ!!事務処理ならそこのクリスにでも頼んでおけ!!」
「そうだ!!アイリス!!子供達が待っている。早く準備しろ」
「かしこまりました!!」
リルとリラはアイリスを連れて、広場に行ってしまった。子供達に雲のかけらとアイスクリームを振舞うのだそうだ。こういうところは、優しくていいんだけどね。
ただ、残された私とセバスのことを少しは考えて欲しい。
「セバスさん、とりあえず私達で、できることはやりませんか?」
「そうですな。そうするしかないでしょう」
途方に暮れる二人だった。
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