44 新たな展開
ライアット王子は雲のかけらを緊張した面持ちで、皇帝夫妻に差し出す。
バーバラがフォローを入れる。
「雲のかけらを作るのは単純な魔法じゃが、かなりのスキルが必要なのじゃ。火属性の魔法でこの筒を熱し、風魔法で筒を回転させ、出て来たものを棒に掬い取る。普通は3人一組で作らせるのじゃがな。
それを考えれば、このライアット王子は魔法の才があると言えますな」
皇帝陛下と皇后陛下はライアット王子が作った雲のかけらを口に運ぶ。
「ライアット。これは旨いぞ。とろけるようだ」
「本当だわ。ライアットの魔法を生かしたものが食べられるなんて・・・」
二人とも感動しているようだ。
「父上、母上。僕に魔術の研究を続けさせてください。そしてできれば、このままバーバラ様に弟子入りさせてください」
あれ?そんな話だったっけ?
そこまではこちらも想定していなかったんだけど・・・・
「うむむ・・ライアットに類稀な魔術の才があることは分かったが、ライアットは武を誇るランカシア帝国の皇子でもあるし・・・・」
ここで意外な人物が声を掛ける。サンクランド魔法国の国王だ。
「皇帝陛下、恥ずかしながらご忠告申し上げる。我は娘に貴殿と同じように接して来た。その結果これだ。ロトリア王国の皆のお陰で今日、こうして娘と和解できたのだが、このままではご子息が家出してしまうかもしれませんぞ」
一応、アイリスは留学ということになってはいるが、ランカシア帝国ほどの諜報能力があれば、それは事実とは違うと見抜いているのだろう。サンクランド魔法国の国王も、それを分かった上で、隠し立てすることなく、発言した。本当にライアット皇子のことを思っての発言なのだろう。
「そうじゃなあ、皇帝陛下がライアット皇子に剣術や武術も習ってほしいというのなら、こちらも配慮しよう。ケルビン!!」
バーバラは、最強のNPCケルビンを呼び出した。
一体いつの間に仲良くなったのだろうか?
「このケルビンでよろしければ、ライアット皇子の指導はさせてもらいましょう」
これには皇帝陛下も納得する。
「ライアットの指導者が「氷結の魔女」殿と「剣聖」殿とは・・・。断れるはずもなかろうに。不肖の息子だが、よろしく頼む」
アイリスもライアット皇子も両親と仲直りしちゃったけど、ライアットもここに住むってことだよね・・・。
これはいいのだろうか。
★★★
翌日、両国の首脳は、和やかな雰囲気の中、帰路に着いた。
これで一仕事終わった。充実感とともに今まで気づかなかった疲労感を感じ始める。明日はゆっくり休むか!!
と思ったらそうは行かなかった。ロトリア王国国王から直々に呼び出しを受けた。
呼び出された場所に行くと国王だけでなく、ムリエル王女、サマリス王子、そして勇者パーティーのメンバーが勢揃いしていた。
国王が言う。
「トンネルの掘削事業及び先日の記念式典の関係について、改めて礼を言いたい。本当にありがとう」
御礼は心からのものだろう。誠実な国王の態度がそう思わせた。
でも、このメンバーが揃っているってことは、あれだよね?勇者パーティーの関係でなんかあったのよね。
「そこで、申し訳ないのだが、また一つ仕事を依頼したいのだ。詳しくはダグラス、お前が話せ」
やっぱりね・・・
「クリス、実は我々の旅が暗礁に乗り上げているのだ。詳しく説明すると俺達はあのグレハルト砂漠を横断しなければならない。魔物が強いとかいう話ではなく、環境的に徒歩で絶対に渡れない。情報を集めたところ、砂漠を横断するにはしっかりと休憩できる馬車が必要だ。それに砂漠でも問題なく動ける馬も必要なのだが・・・・今のところ、その目途がたっていない」
砂漠横断に馬車?
ゲームでは、そんなに苦労した覚えはないんだけど。
でも馬車を手に入れてからは、楽しかったな。8人まで仲間を増やせるし、冒険の幅が広がる。装備を整えるのにお金がかかるけど、それはそれで楽しかった。友達と誰を仲間にするかを話し合って盛り上がったものだ。ある男子は主人公をサマリス王子にして、周りはすべて女性キャラで固めていた。ネームドキャラを含め、足らずは冒険者ギルドからの派遣だったのだが、「これで夢が叶った」と言っているのを聞いて、小学生ながらドン引きしたのを覚えている。
「おい、ちょっとクリス、聞いてるか?」
「す、すいません。ダグラス王子の苦労を考えると少し涙が・・・」
本当は、思い出に浸っていただけなんだけどね。何とか誤魔化せたと思う。
それにしても、すんなり馬車は手に入ったような気がするが・・・・
あれ?ヤバい!!
ゲームでは、草原地帯のモンダリア騎馬王国で事件を解決して、馬車を手に入れる流れだったと思う。
詳しくは、リルとリラが騎馬戦力に目を付けて、魔王軍の戦力アップを図ろうとしたのだ。リルとリラは、ドーラ一家に騎馬王国の牧場の襲撃を依頼して、軍馬を大量に集めた。そして、ドワーフの技術者を拉致してきて、高性能の馬車を製造させていた。そして、軍馬による戦車部隊を構築しようとしていたのだ。
情報を聞いた勇者パーティーがアジトに向かい、リルとリラの計画は失敗に終わる。そういえば、リルとリラとドーラが初めて共闘するイベントだったなあ。このころからリルとリラは無能な働き者だった。
ドワーフの技術者に作らせていた馬車は勇者に鹵獲され、さらに砂漠を横断できる屈強な軍馬もリルとリラが集めた軍馬の中から選ばれたので、勇者は馬車と馬を手に入れ、砂漠を横断することができたのだ。
砂漠を横断できたのも、リルとリラのお陰といっても過言ではないのだ。
冷静に考えるとリルとリラもドーラもムリエリアにいる。
馬車獲得イベントを起こそうにも起こせないのだ。
これは詰みパターンか?
私は考えを整理しようと思った。
「国王陛下、ダグラス王子、少し時間をください。できることはさせていただきます」
「そうだな。期待しているぞ」
★★★
この世界はゲームとはかなりかけ離れてきている。起こるはずのイベントが起きないのだ。
どうしたらいいんだろうか?
私はアイリスを呼び出した。アイリスは私と同じ転生者だし、別の意見を聞けばアイデアが思いつくかもしれない。
会長室でアイリスと二人で話す。お茶とお菓子を用意させてリルとリラも下がらせた。
雑談の後、アイリスに事情を話す。
それと、あくまで仮説だが、大いなる力、ゲームの修正力についても話した。
「そうなんですね。大いなる力に導かれたってのは何となく実感があります。それで、少し気になったことがあって、こちらから質問いいですか?ゲームでは私達三人はどんな感じでしたか?クリストフとバーバラが騒いだりしてましたか?」
「それがそんなことはなかったと思うわ。どちらかというと、大人しい感じだったし。クリストフはアイリスのことが大好きキャラというだけだったし、バーバラは『妾の氷結魔法でイチコロじゃ』くらいのことしか言わなかったと思うんだけど。二人があんな騒ぎ方をするのは少しびっくりしたわ」
「なるほど・・・・私も仮説なんですけど、バーバラとクリストフが騒いだのって、私を勇者パーティーに入れるためじゃないかって思ったんですよ。でもそれだと辻褄が合わなくて。
それなら『絶対にダグラス王子に着いて行くとか言わないでくだされ』とか言うはずじゃないですか?
勇者パーティーがここに来たとき、そんなことを言ってきたら、どうやって断ろうかと思ってたんですけど、一向に言ってこないんですよ」
アイリスは一端言葉を切る。
「だからこう考えたんです。もう私達は勇者パーティーに入ってるんじゃないかって。
クリスさんの話だと、ムリエリアには主人公キャラが二人もいて、しかも私を含めた準主人公キャラが勢揃いしているんですよね?
だったら、大いなる力?システムの修正力?が私達のほうを勇者パーティーと認定してもおかしくないってことじゃないでしょうか?」
私はアイリスの推理力に感心するとともに憂鬱になった。
その仮説が正しければ、私はバッドエンド確定じゃないか・・・・
私が困惑しているとアイリスが言う。
「す、すいません。本当に根拠のない、とりとめのない話をしてしまって・・・」
「いえ、その仮説を検証する価値はあるわ。ちょっと時間は掛かるけど一度ゲームとのずれを確認していきましょう」
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