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43 晩餐会

よし、この晩餐会を乗りきれば、大きなイベントは終了だ。


この晩餐会は少し緊張する。というのも、ある計画を練っていたからだ。

ここまで、接待を続けて来て、ランカシア帝国の皇帝夫妻とサンクランド魔法国の国王夫妻はお互いをライバルとして競い合っている雰囲気ではない。ただ、取り巻き連中が両国の対抗心を剥き出しにしている。接待するこちらとしては大変だった。

取り巻き連中は、相手国と待遇で差をつけようと必死だが、こちらとしては待遇に差が出ないように必死だった。


そんな状況なのだが、ロトリア王国としては今後とも両国とより友好な関係を築いていくと宣言している。つまり、今後もこの二ヶ国と付き合っていかなければならない。なので、ある程度二ヶ国間の敵対関係を緩和したいと画策していたのだ。

そして、もう一つの計画もあった。


★★★


晩餐会にはポーシャさんに来てもらっていた。というのも正式な晩餐会の食事について、私も含めてだが、ヤマダ商会のスタッフには、王族をもてなすような晩餐会の料理を担当した者なんていない。なので、ポーシャさんにアドバイザーになってもらったのだ。


「まずは、前菜とスープね。ここでガツンとびっくりさせてもいいんだけど、クリスさんの計画を聞く限りでは、ここは両国ともに親しみのある料理を出したほうがいいわね」


ポーシャさんのアドバイスで、ランカシア帝国、サンクランド魔法国、ロトリア王国の三ヶ国の代表する食材を用いた三種盛りを前菜にした。

ざっくり言うとランカシア帝国は魚介類、サンクランド魔法国は肉類、ロトリア王国は野菜が特産品だ。


続いてのスープだが、定番のコーンポタージュスープにした。やっぱり、この味は落ち着くわ。

私の個人的な感想だが、これを飲んで攻撃的になる人はいないと思う。作り方も難しいものではないし、材料も高価ではないが、落ち着いた、和やかな雰囲気を演出するためには最適の料理だと思う。


次は魚料理だ。

そろそろ、驚かせてやるか。


「なんだ、これは・・・。ビッグサーモンだとは思うのだが・・・まさか!!生か!!」


ランカシア帝国皇帝は、思わず言葉を漏らした。

ビッグサーモンというのは、日本でいう鮭を巨大にした魚だ。ランカシア帝国で好まれて、食される。ただ、加熱処理しないと寄生虫がいるので食中毒になってしまう。この世界では火を通して食べるのが常識のようだ。

会場がざわつく中、ムリエル王女が解説する。


「ビッグサーモンのルイベです。調理は、サンクランド魔法国筆頭宮廷魔導士のバーバラ殿自らされております。新鮮なビッグサーモンをすぐに冷凍処理しております。寄生虫の心配もありません」


「これは旨い」

「本当ね。ビッグサーモンにこんな食べ方があったなんて」


評価は上々のようだ。


そしてメインディッシュだが、ビッグブルのカツレツと白身魚のフライのトマトチーズソース添えだ。

こちらの世界では揚げ物は珍しいようだったので、これを選択した。メインディッシュも評価は高い。


当初、ビッグブルのカツレツはもっと肉厚にしていたのだが、ポーシャさんのアドバイスで、上流階級がより好みそうな形に変えた。肉を叩いて伸ばして薄くしたのだ。それに白身魚のフライも、下処理に時間を掛け、臭味が出ないようにした。魚を食べ慣れていない者は、匂いを受け付けないことが多いからだ。

そしてソースにもこだわった。私としては、ウスターソースかタルタルソースをたっぷりとぶっ掛けて食べたかったのだけど、ロトリア王国の名産のトマトとチーズを使って、より上品に仕上げた。


高い評価にポーシャさんをはじめとしたスタッフは喜びの表情を浮かべている。



そうだよね。何度も作り直して、頑張ったもんね。


全員が食べ切ったところで、ムリエル王女が話始める。


「今回のコースのコンセプトをご説明させていただきます。

まず前菜ですが、三ヶ国の特産品をそれぞれ個別に食していただきました。それぞれ特徴があって美味しかったと思います。

しかし、ビッグサーモンのルイベでは、ランカシア帝国の特産品にサンクランド魔法国の魔導士が調理したものを食していただきましたし、ビッグブルのカツレツと白身魚のフライのトマトチーズソース添えのように三ヶ国の特産品を上手くマッチさせたものを食していただきました。

これが今回のコースのコンセプトです。

三ヶ国とも素晴らしい国だと思います。しかし、もっと交流を深め、友好関係を築いていけば、私達により良い未来が待っていると思っております」


料理を褒めた手前、両国の取り巻き達も「我が国のほうが素晴らしい」とは言えない。

すると、ランカシア帝国の皇帝夫妻とサンクランド魔法国の国王夫妻は拍手を始めた。


「そうだな。我は素晴らしいと思うぞ。この際、今までいがみ合ってきたことは水に流して、友好関係を築いてはどうだろうか?」

「我もそう思う。いきなりすべて上手くいくとは思わんが、それでも我らがそのような姿勢を見せることで、徐々にでも前に進めばいいのではないか?」


計画どおりだった。

トップはもう両国で張り合うことを馬鹿らしく思っていたので、こちらがそっと背中を押した形だ。


建て前は「ロトリア王国から頼まれたんだから、仕方ない」っていう感じだ。これなら、どちらも歩み寄りやすいだろう。



★★★


さあ、ここからはもう一つの計画だ。


場も和やかになったところで、ムリエル王女が話始める。


「それでは、デザートを召し上がっていただきます。デザートも少し趣向を変えております。アイリス王女、ライアット皇子、お願いします」


食事をしていたアイリスとランカシア帝国の第三皇子ライアット殿下が席を立ち、中央に移動した。


ライアットは13歳の金髪青目の美少年だ。武勇を誇るランカシア帝国において、魔法の才能があり、本人も魔法の研究にのめり込んでいた。両親と一緒にムリエリアを訪れたのだが、バーバラに懐いてしまい、ここに来てからは四六時中一緒だ。本人は弟子入りした気でいる。

ゲームでは、たまたまランカシア帝国に訪れた勇者パーティーの馬車に潜り込み、家出を兼ねて勇者パーティーに加入するのだが。

まあ、家出をするくらいだから、両親との仲も良くない。

そして、ここに両親と折り合いの悪いアイリスがいる。


もう分かったと思うが、もう一つの計画は彼らの両親との仲直りだ。


これも料理を使う。


ライアットには雲のかけら(綿アメ)、アイリスにはその場でアイスクリームを作ってもらうのだ。

どちらも大した材料は使わないが、魔法が使えないと作れない。アイスクリームは氷結魔法がある程度使えれば問題ないので、氷結魔法を覚えたてのアイリスでも十分使える。金属製の筒にアイスクリームの元を入れ、それをスタッフが回転させる。そこにアイリスが氷結魔法を放ち、アイスクリームを凍らせるのだ。

これに驚いているのはサンクランド魔法国の関係者だ。


「ひ、姫様が魔法を!!」

「そ、そんな・・・それに氷結魔法だ」


まあ、ゲームをプレイした人間なら、アイリスが魔法なんて使うキャラじゃないのは、良く知っているけどね。


バーバラが言う。


「姫様はわらわにこう言ったのじゃ。

『お父様とお母様に是非とも、私が作ったアイスクリームを食べてもらいたい』と。

ムリエリアに来てから、姫様は少しずつじゃが、魔法を勉強されております。姫様は剣術が得意なだけで、魔法が嫌いなわけではありません。もちろん国王陛下ご夫妻のことも」


ここでアイリスが言う。


「お父様、お母様、家出をして申し訳ありませんでした。今までお二人が愛情をもって育ててくれたことは本当に感謝しております。家出という方法ではなく、もっと違った形で私の思いを伝えるべきでした」


「我も同じだ。頭ごなしにお前を押さえつけなければよかったと反省している」

「私もよアイリス。貴方がいなくなってから、本当に毎日がつらくてね・・・」


「お父様・・・お母様・・・」


バーバラも涙を浮かべている。

その照れ隠しのようにこう言った。


「感動的な場面をもっと見ていたいところではありますが、せっかくのアイスクリームが溶けてしまいますぞ」


アイリスのほうは上手くいったようだ。


一方、ライアットのほうだが・・・・。

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