41 トンネル開通式 1
~リンダ・ドナルド視点~
当てもなく、ムリエリアの町をぶらつく。
意外なことに私はかなり人気があるようだった。同じビキニアーマースタイルの女性がチラホラ目に付き、声も掛けてくれる。
「リンダ様ですよね?握手してください」
「ちょっとだけ、冒険の話をしてくれませんか?」
「それはいいかも?そこのヤマダカフェでお茶しながらでも、忙しくなければですが・・・」
私は称賛されることに飢えていた。彼女達と一緒にお茶をすることにした。
楽しかった。
同じビキニアーマースタイルの女子達に囲まれ、称賛されるのだから当然だ。悩みも同じだった。私は彼女達をヤマダ商会に連れて行き、懇意になった販売スタッフのマルチナに紹介する。彼女達は嬉しそうに「除毛クリーム」と「天使のパレオ」を購入した。こっそりマルチナが耳打ちをしてきた。
「もっと連れて来てくれたら、キックバックが増えますよ。とりあえず、今日の分です」
思ったよりも多かった。これだけでこんなにもらえるのか・・・・
「ところで、ビキニアーマー女子は他にもいないのか?パレオもクリームも推めてあげたいのだが」
「それなら訓練所に行ってみてはどうでしょうか?私達は常時ビキニアーマーですが、訓練中のみビキニアーマーを着用する一派もいるんですよ。常時着用している私達とは少し考えが違っていて・・・あっそうだ!!リンダ様がそちらに行かれるのであれば、常時着用派に勧誘してくださいよ」
私もどちらかというとビキニアーマーの着用は必要最低限にしたいのだが。
訓練所に着くとチラホラとビキニアーマーを身に付けた女性がいた。少し話を聞いたところ、ここでも私は称賛される。
「筋肉の動きを確認できて、素早く動けるので訓練では最適です」
「ただ、リンダ様のように常時着用するのは恥ずかしくて・・・」
「そうなんですよね。これから訓練だぞ!!ってスイッチを入れるために着てますね」
「姐さんもそんなこと言ってましたよ」
どうやら私の他にもビキニアーマーを着用した猛者がいるようだ。これから式典や晩餐会などで、訓練できないから、久しぶりに手合わせでも願おうか?
そう思っていたら衝撃の光景が飛び込んできた。ビキニアーマーを着用した大柄の女性がハンマーを振り回して、四つん這いの男性を滅多打ちにしている。女性は必死の形相で、男性は打たれ過ぎて錯乱しているのか逆にニヤニヤしていた。
あれ?まさか・・・・
滅多打ちにされていたのは、なんとサマリス王子だった。
私は気が付くと剣を抜き、訓練所の中央でやりあっていた男女の間に入り、女の振るっていたハンマーを受け止めた。ずしっと来た。危うく膝をつきそうになった。
「貴様!!自分が何をやっているのか分かっているのか?それにこの方をどなたと心得る?」
戸惑いながらその女性は言った。
「何をって?・・・訓練だけど。それにどなたって?言われても、サマリスだろ?それにしてもお前こそ何者だ?」
「王族を呼び捨てにするとは何たる無礼だ!!私はリンダ、お前こそ名を名乗れ!!」
「私はドーラだけど・・・・」
ドーラ!!ドーラ一家のドーラ。こんなところにいたのか。噂ではサマリス王子の特別な計らいでトンネル掘削の作業員となる見返りにそれなりに自由な生活をしている。サマリス王子の説明では再犯防止の施策だという。「厳しいだけでは人は更生しない」、人格者のサマリス王子らしい御言葉だった。
その御あるサマリス王子に対してその態度はなんだ?
「訓練でも、もっとやりようがあるだろうが!!こんなのは訓練ではない」
「いや、それはサマリスが本気で殴らないと怒るからな・・・」
私とドーラのやり取りをサマリス王子が止めに入ってきた。
「リンダ、これは私が頼んだことなんだ。強い男になりたくて・・・」
ああ、サマリス王子。なんとお労しや。
ここで引けば、王族としての威厳が失われると思っているのだろう。分かりました。このリンダ、この馬鹿女にお灸を据えてやります。
私はドーラに手袋を投げ付けた。
「ドーラ拾え!!決闘だ」
「いや・・・アタイはまだ刑期を終えてないし、流石に・・・」
★★★
「リンダとドーラが決闘?なんでそんなことに・・・」
私は部下から報告を受け、詳しい状況を聞く。
なるほどね、ドーラに同情するわ。
とりあえずドーラを呼んで話を聞く。
「アタイはいつもこうなんだよ。真面目にやってるときこそ、厄介ごとに巻き込まれるんだ。一応サマリスが取りなしてくれたけど、向こうさんはどうも収まりがつかないようだし・・・とりあえず『囚われの身だから、私に決定権はない』と言ってはぐらかしているけどね」
「冷静に対処してくれて、ありがとうドーラ。下手するとこれは大きな問題になるからね」
アイリスが尋ねる。
「それはどういうことですか?」
「それはね。ドーラとリンダだけの問題ではないのよ・・・・」
まずドーラだが、サマリス王子の肝入りで、囚人の身分でありながら、ムリエリアに連れてきている。犯罪者組織の大親分のドーラの扱いには賛否があったのだが、サマリス王子が押しきった形だ。
一方のリンダだが、言わずと知れた勇者パーティーの一員だ。それに騎士団の所属でもある。
つまり、勇者のダグラス王子とサマリス王子の王位継承を巡る代理戦争と捉えられるかもしれない。
「それは面倒ですね・・・」
「そうなのよ。それにリンダじゃ、ドーラに歯が立たないわ」
というのもドーラは上級職の「将軍」に転職し、レベルが20になっているのだ。レベル15の「軽戦士」が勝てる相手ではない。
「私が負けてやってもいいんだよ。これでも地下格闘場の剣闘士もやったことがあって、八百長はお手の物だったからね」
「流石に見る人が見れば、八百長だって分かるわよ。そうなったらもっと大変な事態に・・・」
どうしてこうなるの?ただでさえ、おもてなしの準備で大変なのに・・・・
そんなとき、アイリスが提案する。
「私に考えがあります。つまり、決闘はするけど、問題にならないようにすればいいんですよね」
アイリスの話を聞くと納得した。
それなら、上手く行くかも。
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