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4 私が町を出られない理由

クリスの日記を読む。衝撃の内容だった。


駆け出しの冒険者だったクリスはパーティーを組んでいた。ゲームでは、人格に問題があり、パーティーを組めないヤバい人という設定だが、実は違っていたのだ。

その時のパーティーメンバーは、今は酒場を経営しているルイーザさん、ルイーザの旦那さんで今はアリレシアの冒険者ギルドのマスターのラクーンさん、それとライラという猫獣人の女性だった。


クリスの才能を見抜いたルイーザさん達は、貴族の娘で高飛車な性格を心配してパーティーに加えて面倒を見てくれていた。ルイーザさんは熊獣人でパワー型の戦士タイプ、ラクーンさんは狸獣人で斥候タイプ、ライラは猫獣人で魔導士タイプだった。クリスは貪欲にパーティーメンバーの長所を吸収し、実力を付けていった。万能型のキャラになったのも頷ける。


順調に成長を続けていたクリスだったが、悲劇が訪れる。3年前、アリレシア随一の冒険者パーティーということで、大規模な魔族掃討作戦にクリスのパーティーは招集された。場所は隣国のレートランド王国だった。

作戦は順調だったのだが、魔族側に寝返っていたパーティーからの奇襲を受け、そこに魔族の大群が現れて冒険者部隊は壊滅してしまった。

命からがら逃げ帰ったクリス達だったが、現実は残酷だった。ライラは冒険者を続けられないほどの大怪我を負い、更にクリスのパーティーこそ魔族のスパイではないのか?と疑いの目を向けられ、連日厳しい取調べを受けた。

最終的には無実が証明されたのだが、この一件でクリスは人間不信に陥ったようだった。


パーティーはというと、長年苦楽を共にしてきたライラ

が引退したことにより、ルイーザさんもラクーンさんも揃って引退した。

クリスとしても冒険者は続けるが、もう仲間が傷付く姿を見たくないし、これ以上のパーティーはないと思い、ソロの冒険者としての道を歩みはじめ、以後パーティーを組むことは無かった。


これがクリスの冒険者としての始まりの物語だが、肝心の資金の使い道はというと、孤児院の運転資金だった。ルイーザさん達は獣人の孤児の為に孤児院を運営していたのだ。

この世界では獣人は差別される対象だ。このロトリア王国ではあからさまな差別は禁止しているものの、差別意識の強い市民や官僚は多くいる。なので補助金も少なく、孤児院の財政は危機的な状況だ。それに孤児の数も増えている。近隣の村が魔物の襲撃に遭って被害を受け、多くの孤児が生まれたからだ。


そんな状況の孤児院を救うため、クリスは稼いだ資金の大半を孤児院に寄付していたのだった。


「意外にいい奴じゃん、クリスって・・・。ゲームをプレイしていたときに、この辺りの事情が分かっていれば、クリスの評価も違っていたのに」


ここで、私の中に葛藤が生まれる。孤児院を見捨てて遠い町で暮らすか、それとも自分を犠牲にして勇者パーティーに加入して孤児院を助けるか・・・・


考えたあげく、私は行動することにした。


「とりあえず、孤児院に行ってみよう」



★★★


孤児院に入ると一斉に獣人の子供達が群がって来た。


ああ、モフモフが・・・・気持ちいい・・・・


なんだか実家で飼っていた猫達を思い出してしまった。私は買ってきたお菓子を子供達に配る。

これも日記に書いてあった。「甘いドーナツが大人気だ」と。

子供達は口々に言う。


「ありがとうクリス姉」

「モフモフして」

「一緒に食べようよ!!」


子供達にもみくちゃにされている中、足を引きずった猫獣人の女性に声を掛けられた。


「クリス!!久しぶり。すぐにお茶を用意するわ。冒険の話を聞かせてよ」


多分、この女性がライラなのだろう。


「ひ、久しぶり。怪我の調子はどう?」


当たり障りのない会話が始まった。


別室に案内され、買ってきたドーナツを食べながらお茶を楽しむ。私にクリスの記憶が残っているようで、意外に会話は弾んだ。

ライラは言う。


「クリスは、雰囲気が変わったね。なんか話しやすくなったというか・・・」


「そ、そうだっけ・・・前はどんな感じだった?」


「そうね・・・例えば今だったら、『哀れな獣人の貴方にドーナッツを恵んで差し上げますわ』とか言うかなあ?それに子供達にモフモフするときも『どうしてもモフモフして欲しいというのなら、モフモフしてあげても構いませんわ』とか言ってからモフモフすると思うんだけど・・・」


クリスはツンデレさんのようだ。ゲームではデレの部分がなく、ツンツンしているだけの嫌われキャラだったけど。

私は取り繕うように言う。


「勇者パーティーに選ばれたら、性格を治さなきゃ受け入れてもらえないからね。この性格で受け入れてくれたのはライラやルイーザさんだけだし」


「それもそうね。でも無理に変える必要はないと思うわ。尖っているクリスも可愛かったし」


そんな会話が続いた後、孤児院の運営の話になった。


「クリスやルイーザさんから結構な額を寄付してもらっているけど、かなりカツカツの状態よ。それに申請している補助金もなかなか下りないし。担当者が言うには『獣人中心の孤児院だからじゃないか』って言うんだけど、国王陛下や王子様達はそんな人達ではないと思うし・・・」


それは私も思ったところだ。

1ゴールドは日本円で約100円位。クリスだけで1万ゴールド以上、日本円で100万円近く寄付しているのに経営がカツカツというのはおかし過ぎる。


「ちょっと帳簿を見せてくれないかしら?どうも腑に落ちないことがあって」


「いいわよ。帳簿なんて読めるの?あっそうか!!クリスは領地経営も勉強してたんだっけ?」


勝手に納得してくれた。もちろん日本での経験があるからだけど。


しばらく帳簿を見たら分かった。これはヤラれてる。


「ライラ!!補助金の申請書類と物品や食材の購入伝票も持ってきて」


「ど、どうしたの?まあ、いいけど・・・」



どの世界にも悪人はいるものだ。ゲームの本編の陰でこんな卑劣な犯罪が行われているなんて。

どうせ私は、ここを出て行くかもしれない身だ。好き勝手に無茶苦茶してやろう。

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