34 姫ちゃんの業務日誌 2
旅を続けてきた私だが、どうも野営は慣れない。ゆっくりベッドで眠りたい。そうなると必然的に町や村で泊ることになる。
すると、なぜか厄介ごとに巻き込まれる。そうなると、バーバラとクリストフが騒ぎ始める。
「姫様!!盗賊団のアジトに乗り込むなど、お止めください!!」
「そうですよ。この娘の身代わりになって潜入するなど、もってのほかです」
いつもこんな感じだ。
普段はいい人達なんだけどね。
「分かりました。私が身代わりとなりましょう。安心してください」
そんなことを繰り返しながら、旅を続ける。この世界は戦闘を繰り返すとレベルが上がるシステムらしく、自然と私は強くなった。それにジョブというものがあり、ジョブによってステータスが上下するらしい。因みに私は「剣士」だ。
しかし、実際のところ、戦闘は好きではない。血が飛び散って怖いし、匂いも受け付けない。早く、普通に就職とかして、のんびり暮らしたいけど、どうしていいか分からない。
そんなことを思いながら行く当てもない旅は続く。サンクランド魔法国の領土ではいつしか私達の活動を「姫の世直し旅」と呼ばれるようになっていた。特にそんなつもりはないんだけどね。
ある程度国内を周ったところで、港町に着いた。また、二人が騒ぎ出した。
「姫様!!絶対に船に乗って、別の大陸に行くことはなりませんぞ」
「そうですよ。もう帰りましょう。海外に行くのは新婚旅行にしましょう」
何となくだが、ターニングポイントで二人は騒ぎ出す。ここが物語の世界なら何かの力が働いているのかもしれない。
このとき、私は船に乗る決断をするのだが、これが元で素晴らしい出会いをすることになる。
★★★
サンクランド魔法国を出国した私達は、ポートシティという町に着いた。ポートシティは、この大陸で屈指の港町でかなり賑わっていた。船の中で仲良くなった船乗りさんに聞いたところ、世界中の美味しいものが集まってくるらしい。
「お嬢ちゃん達も色々巡ってみたらいいぞ。安くて旨いものがいっぱいあるからな」
私はテンションが上がった。これまでの活動の謝礼金などで、船代を差し引いても、私達の手元にはそれなりにまとまったお金があった。
よし!!異世界グルメを満喫するか!!
船乗りさんに聞いたグルメストリートを三人で歩いていたら、懐かしい匂いが漂ってきた。
これはまさか!!
私は匂いに吸い寄せられるように進む。そこには、大きな看板に「ヤマダラーメン」と書いてある店が
あり、私は迷わず店に入った。メニューを見ると一種類だけで「豚骨ラーメン」と書かれていた。注文し、一心不乱にラーメンを食べた。
ああ、懐かしい。
しかもクオリティが高い!!これなら日本で出店しても行列ができるだろう。
私はラーメンを食べ終わると店主に感動を伝え、あれこれと矢継ぎ早に質問した。店主も嬉しかったようで色々と教えてくれた。
「ウチのラーメンを気に入ってくれてありがとう。実は転職神殿に系列店があるんだけど、興味があったら行ってみたらどうだい?新メニューがあるらしいからな」
店を出たところで、また二人が騒ぎ出した。
「姫様!!この先の温泉地に行ってはなりませんぞ!!危険な魔物が巣くっていますからな」
「そうです。それに混浴露天風呂なんて破廉恥です」
私はこの旅で初めて、二人の意見を無視した。
「そこには行かないよ。もう行く場所は決めているからね」
★★★
転職神殿に着くと真っ先に「ヤマダラーメン」を探した。転職神殿はジョブを変更できる施設なのだが、私は全く興味がなかった。すぐに「ヤマダラーメン」は見付かったのだが、その横に「ヤマダ食堂」という店舗を見付けてしまった。
ヤマダラーメンに続いて、ヤマダ食堂?
迷うけど、今回はヤマダ食堂にしよう。
私がヤマダ食堂に入ろうとすると、バーバラが言った。
「妾はもう一度あのラーメンが食べたいのじゃ。年寄りの頼みを聞いてはくれませぬか?」
私はバーバラを説得する。
「この店もヤマダラーメンの系列店だから絶対美味しいって!!」
「姫様がそこまで言われるなら・・・・」
渋々納得したバーバラとクリストフとともに店内に入る。テーブル席に案内され、メニューを渡された。
種類は豊富で、ミートスパゲティ、あっさりラーメン、唐揚げ、ハンバーグ、コロッケ等があった。
迷うなあ・・・・
そんなとき、店員さんが声を掛けてきた。
「おすすめの新メニュー、カツカレーはいかがでしょうか?」
カツカレー!!
その言葉を聞いとき、私の口はカツカレーの口になっていた。迷わず注文する。バーバラもクリストフも同じ物を注文する。
「カツカレーは少し辛いので、そちらのお嬢様には、ちょっと・・・・」
「妾を子ども扱いするでない!!姫様!!こんな店出ましょう。ヤマダラーメンでラーメンを食べればよいのじゃ」
「そんなこと言わないでさあ・・・そうだ、これなんかどう?色んな物が入っているよ。それに私のも、少しあげるからね」
「まあ、今回だけですぞ。二度とこの店には来んからな!!」
「カツカレー2つとお子様ランチでお願いします」
カツカレーもクオリティが高かった。特にカレーがスパイスが効いて美味しい。バーバラはというと、美味しそうに食べている。少し、カレーをあげてみた。
「かなり辛いですが、このバーバラにかかれば、大したことはありません」
我慢している感じがする。
「バーバラのお子様ランチは正解だったね。ハンバーグに唐揚げ、スパゲティにウインナー、ご飯もカレー味だし、一番得したかもね」
「そうじゃな。妾は非を認めなければなりませんな。おい!!そこの者、店主を呼んでまいれ、妾自ら謝罪し、礼を言おう」
バーバラに呼ばれてやってきたのは、ポーシャさんという初老の女性だった。バーバラはポーシャさんにこれでもかというくらい称賛の言葉を浴びせる。ただ時折、お子様ランチのおまけに付いていたピロピロ笛を吹きながら喋るので、笑いそうになった。
「味だけでなく、このように吹けば伸び縮みする斬新な笛で妾を楽しませるとは、感服したぞ。そなたは天才じゃ」
「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、アイデアを出したのは私じゃないの。ここから南に行った別の大陸にある「ヤマダ商会」の会長さんが考案したのよ。私はそのアイデアを形にしただけだからね」
ヤマダラーメンからのヤマダ食堂、そしてヤマダ商会。絶対に私と同じ日本人がこの世界にいる。
私は大陸の横断の仕方、ヤマダ商会の会長のいる場所などを聞いた。
「それなら、すぐに出発したほうがいいわ。今日は大陸を横断できる日だからね」
私達はすぐに転職神殿を出発した。ポーシャさんの話では、建設中の町があるからすぐ分かるとのことだった。
その建設中の町に着くと驚いた。海が凍っており、対岸に渡れるのだ。なんでも、氷結魔法で凍らせているそうだ。これもヤマダ商会の会長が考案したらしい。
一体どんな人なんだろう?いい人だったらいいけど・・・
私は期待と不安を胸に氷の海に踏み出した。
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