32 エピローグ
「ギヤー!!竜です!!アースドラゴンです!!うわ!!サイクロプス!!終わった・・・」
「なんで私達まで!!転職してないのに・・・・」
リルとリラが悲鳴を上げる。
私達が今いる場所は、ゲームでは「無慈悲の3マス」と呼ばれるエリアにいる。「恐怖の2マス」と同じような原理で、こちらは転職神殿の近くにあり、レベル20前後が推奨の地域にありながら、魔王領でも最奥のエリアに匹敵する魔物が出現するのだ。因みに推奨レベルは50だ。
転職神殿付近で、ある程度レベルを上げてからこの地にやってきた。
「だから!!「罠師」に転職しろって、あれほど言ったのに・・・」
リルとリラの師匠であるラクーンさんが言うには、「罠解除」はすぐに習得できたのだが、「罠設置」は、かなり経験を要するらしく、地道に魔物を罠に嵌めて、経験を積まないと習得できないらしい。訓練をサボりがちだったリルとリラは、未だに習得できていなかった。こんなことなら、強制的にでも「罠師」に転職させるんだった。
ライラが叫ぶ。
「リル、リラ!!早く罠に誘導して!!こっちは準備OKだから」
「そんなこと言われても・・・」
「マスタースキルの「逃走王」を習得してなかったら死んでますよ」
命からがら、二人はアースドラゴンとサイクロプスを罠に誘導した。因みに「逃走王」は「斥候」のマスタースキルで、普通の魔物であれば、ほぼ100%逃げることができる。ある意味、最強のスキルだ。
「リル、リラ!!退避して!!爆発するわよ」
ドゴーンという轟音が響き渡り、新兵器のブラストボムが爆発した。
「た、助かった・・・」
「い、生きてる・・・」
「じゃあ、早く素材を回収して!!できたら次に行くわよ」
「「お、鬼だ」」
ライラは意外に乗り気だった。そもそも上級職の「錬金術師」で今回は転職を見送るのだが、レベルを上げれば更に高度な錬金ができるので、志願して着いてきたのだ。リルとリラとは根性が違う。
一方、リルとリラ、ライラ以外のメンバーは元々戦闘職なのと実験段階のライラ特製の身体強化薬をガブ飲みしているので、それなりに戦えていた。
ただし、余裕はない。
「クリスさん、凄すぎです・・・今までで一番、命の危険を感じました」
「どうりでアタイが勝てないはずだよ。こんなことずっとやってんだからな」
「妾もじゃ!!魔力切れでもう動けん。魔力切れを起こしたのは、50年ぶりじゃ・・・」
「でも負けません。お姉様に少しでも近付くために・・・」
苦労の末、アイリス、ドーラ、バーバラ、ムリエル王女は無事にレベル30になった。
「よし!!それじゃあご飯にしようか!!リルとリラはテントの設置をお願いね。今日も「罠設置」のスキルが習得できなかったから、罰として夜間の警戒をしてもらうからね」
「「ま、魔王だ!!」」
討伐した魔物を解体し、BBQを開始する。特にアースドラゴンの肉は絶品だった。
「疲れましたけど、凄く充実した体験でした。野営とか好きじゃなかったけど、こんな感じなら、結構好きかもしれません」
「妾はもう、懲り懲りじゃ。早くスイーツが食べたい・・・」
感想はそれぞれのようだ。
「これが休暇扱いなんて信じられませんよ」
「そうです。特別手当をもらってもいいぐらいです」
「ふーん、そんなこと言うんだ。仕事だったら損失を補填してもらわないとね。アイリス、説明してあげて」
「はい、まずリルとリラは、かなりの数の罠を使用しました。もっと効率的に使用すればコストは抑えられたはずです。それにブラストボムなどのアイテムも大量に使用しています。
私達、戦闘職の人間も余裕がなかったので、身体強化薬をガブ飲みしています。それと最初の頃は、討伐した魔物を素材が採取できないくらい破壊してしまっています。なので、討伐数の割には素材は取れてません。その他、もろもろの経費を差し引くと一人頭、500ゴールドの赤字ですね」
「休暇でいいです」
「お願いします」
納得したようだ。短期的には赤字だが、長期的に見たら大きな成果だ。かなりの戦力アップを図れたと思う。多分、勇者パーティーよりも圧倒的に強いだろう。
「じゃあ次の長期休暇もこんな感じでやりましょうか?時代は女子キャンですよ。転職からのレベル上げ、次は料理も凝ったものを作りましょうね!!私が企画しますから」
アイリスはノリノリだ。しかし、悲鳴が聞こえる。
「イヤー」
「死ぬー」
「姫様!!絶対に!!絶対に企画してはなりませんぞ!!」
「大丈夫だよ。次回は収支がプラスになるようにするからね」
バーバラの余計な一言により、次回も地獄の女子キャンは開催されることだろう。
★★★
予定通りトンネルが繋がり、ムリエリアでお祭りが開催された。近隣の貴族や商人達も大勢訪れたので、大盛況だ。
ふうー、ちょっと落ち着こう。
そろそろ私達の出番だ。
実はステージに立つ前に少しだけ、トラブルがあった。
サマリス王子とクリストフさんが、我が商会の新製品「デンジャラスビキニアーマー」を持ってきて、騒ぎ出した。
「ドーラ、君にピッタリの衣装を用意したんだ!!」
「姫様!!絶対にこのような卑猥な衣装を着て踊ってはなりませんよ!!王女としての自覚をもって・・・」
「こ、これは流石に・・・クリスさん、これを着ないといけない流れですか?」
訳あって開発した「デンジャラスビキニアーマー」だが、これを着る勇気はない。だって露出してる部分が多すぎる。二人には衣装もすべて、プロモーションの関係で決まっていると説明し、お引き取り頂いた。実際に私は以前から販売している「ロイヤルローズウィップ」、アイリスは新製品の「疾風の剣」、ドーラは「ウォーハンマー」というようにプロモーションする武器が決まっている。その武器に合った衣装を用意しているのだ。
まあ、「デンジャラスビキニアーマー」を着て踊れば、かつてないほど盛り上がるだろうけど・・・
練習の甲斐もあり、私達の息はぴったりだ。ダンスは佳境を迎える。ダンスの構成はムリエル王女をセンターにした。ムリエリアの領主でもあるし、メインで売り出したい「虹色の扇」を装備してもらっているからだ。
「虹色の扇」は貴族令嬢向けに開発した武器だ。武闘派貴族の令嬢や騎士団の女性騎士には人気のある「ロイヤルローズウィップ」だが、一般的な貴族令嬢にはウケがあまり良くなかった。軽量化しているとはいえ、力の弱い令嬢には厳しい。
そこで、開発されたのが「虹色の扇」だ。7色の魔石を散りばめ、デザインもよく、かなり豪華に見えるので普通のアクセサリーとしても使える。
緊急時には結界魔法を発動でき、ある程度の攻撃を防ぐことができる。また、中級の風魔法「ウインドカッタ―」も3発、発動することができるのだ。
高価な上にに一度使うと魔石の交換が必要なので、かなりコストがかかるのだが、貴族にとっては、持っていること自体がステータスで、いざというときにすぐに使える。モニターとして高位の貴族令嬢に贈呈したところ、大喜びされた。なので、商品化に踏み切ったのだ。
ダンスの後、貴族や貴族向けの商品を扱う商人から、多くの注文が入ったことは言うまでもない。
メインのダンスが終わり、少し落ち着いた。私は祭りを見て回ることにした。みんな笑顔で楽しそうだ。期待のアイリスはというと、バーバラやクリストフと共に企画から開発まで手掛けた綿アメ(こちらの商品名は「雲のかけら」)とバーバラのお小遣い稼ぎのために考案したアイスキャンディーを販売している。
本当に仕事熱心だ。
今思ったのだが、魔物との戦闘があるだけで、商社時代とあまり変わらない生活をしている。
こんな日々が、ずっと続けばいいのにと思う今日この頃だ。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!
今回で第2章は終了となります。クリス以外の視点の物語を少し挟み、第3章が始まります。
勇者パーティーとの絡みが増えて来る予定です。




