31 プライベートを充実させよう
私、リル、リラ、ライラ、ムリエル王女、アイリス、バーバラ、ドーラの8人で女子会をしている。勇者パーティーは最大8人なので、このまま魔王を討伐に行ってもいい位のメンバーだ。
会場は新しくオープンした「居酒屋ヤマダ」を借り切って行っている。「安い!!上手い!!多い!!」がコンセプトの大衆居酒屋だ。
ひとしきり、食事を楽しんだ後、恋バナになった。
「ところでアイリスは、クリストフさんとどうなの?」
「うーん・・・難しいところですね。最近、サマリス王子もカッコいいなって・・・」
「お兄様ですか?整った顔をしてますけど・・・でも最近お兄様はドーラと一緒にいることが多くて」
「あれは、訓練の一環だよ。一方的に私が殴っているだけだからね」
「「アイツは変た・・・」」
私は、慌ててリルとリラの口を塞ぎ、話題を変える。
「ところで、ライラはクリストフさんと一緒のいることが多くない?」
「それは研究に協力してくれてるだけだからね。それにやっぱりクリストフさんは、姫様命だし・・・。そうだ、クリスもどうなのよ。ダグラス王子とは?」
「それは聞きたいかもです。遠距離恋愛なんですよね?」
「うーん、ちょっとまだ分からないわ。それにほとんど一緒にならないしね」
「お主らもまだまだじゃな。若いうちはしっかり楽しむがよいぞ」
「お子様が無理に話に入ろうとしてる」
「お子様には早い話だよ」
「妾はもう卒業しておるのじゃ。舐めた口を叩くなら、氷漬けにしてやるぞ!!」
「「いやー!!」」
バーバラが怒ったので、気を利かせたアイリスが話題を変えてくれた。
「ところで、クリスさんは、趣味とかないんですか?仕事も慣れてきたので私も何か趣味でも始めようかなと思ってまして」
趣味か・・・・RPGゲーム。
就職してからは、それ以外に趣味と言えるものはない。学生時代はこう見えてもダンス部に入っていて、全国大会にも出場したことがあるのだ。でも社会人になって、全く踊ってない。ちょっと見栄を張って言ってしまった。
「だ、ダンスかな・・・最近やってないけど・・・」
「それは凄いですね。私もやってみたい!!」
意外に食いつきが良かった。それにムリエル王女も「お姉様やアイリスがやるなら私も」と言ってきた。あれよあれよという間にみんなで「踊り子」に転職して、本格的に習おうという話になってしまった。アルコールの影響もあったし、それにダンスに青春を懸けていた私なので、つい言ってしまった。
「よし!!じゃあみんなで「踊り子」に転職だ!!アイリス、転職料は経費で落とそうと思っているから、理由を考えて予算請求の申請書を出してね。落とせるか、落とせないかギリギリのラインだから、よく考えて書いてね」
「もうクリスさんは、本当に仕事人間なんだから!!」
ちょっと呆れられた。
★★★
結局3日後、アイリスが作成した申請書が上がってきた。新人にしてはよく書けていると思う。リルやリラに書かせたら「会長が白と言ったら、黒い物でも白だ。お前ら会長に逆らうのか!!」とか言って無理やり経費で落とそうとするだろう。実際に何度かそういうことをして叱ったこともあるしね。
アイリスが考えた理由はこうだった。
ドーラ達の頑張りもあり、もうすぐ、トンネルが向こうの大陸とつながる。つながったからといって、すぐに通行は許可できない。安全性を確認したり、補強工事もしなければならない。しかし、仕事としては一段落だ。正式な開通式は国王の許可を得て、勇者パーティーをゲストで呼んで盛大に行われるのだが、ムリエリアの住民達を中心に簡単なお祭りをしようということになっている。
そこで、メインイベントとしてダンスを披露するというものだった。
ダンスをする理由も住民との触れ合い活動の他に新商品の武器を持って、その武器をPRするということであった。申請書末尾には、少し見通しが甘いものの販売予想などの資料も添付されており、新人でここまでの仕事ができる者はそうはいないだろう。日本でもアイリスのような部下は欲しいところだ。
アイリスは頑張ってこの書類を作ったのだろうし、例え経費で落とせない決定をしたとしても、ムリエル王女がポケットマネーで出すとか言い兼ねないし・・・許可するか!!
結局、「踊り子」に転職するメンバーは、私、アイリス、ムリエル王女、ドーラ、バーバラになった。当初は、ドーラとバーバラは転職に消極的だった。
「アタイはまだ、刑期を終えてない身だし、それにこんなゴツくてデカい女が踊ったからって、誰が喜ぶわけでもないしね」
「そうじゃ!!妾のような、ババアが踊って誰が喜ぶのじゃ!!」
本人達は気付いてないだけで、二人は人気がある。ドーラは数こそ少ないが、サマリス王子をはじめとしたコアなファンがいるし、バーバラは愛くるしい見た目で老若男女を問わず大人気だ。
バーバラは特別の業務が無ければ、2日に1回、海を氷結魔法で凍らせるのだが、今では登場するだけで歓声が上がる。トンネルが開通しても観光産業としてやっていけるくらいだ。
「小さい魔女さんが来た!!」
「可愛らしいけど、本当に凄いわね!!」
「聞いた話だと、生き別れた両親を探すために一人で旅をしているみたいよ」
「そうなの?だったらお菓子でも買ってあげようかしら?あんなに小さいのに頑張ってるんだもの」
謎の設定が追加されているが、バーバラ自身はお菓子がもらえて嬉しそうだ。
説得の結果、二人は渋々ではあるが、転職を承諾した。
因みにライラは足がまだ本調子ではないことと、研究が大詰めを迎え、今「錬金術師」から転職することはできないという理由で、リルとリラは「忍者」になるまで転職はしないとの理由で断っている。私としてはもったいない気がする。
なぜ私がここまで「踊り子」の転職にこだわるかというと、単純にダンスがしたいという理由だけではない。レベル30で覚えるスキルが破格の性能なのだ。それは「剣の舞」というスキルだ。与えるダメージは少し下がるが、4回攻撃ができるのだ。
私は両手にぶっ壊れ武器の「女帝の鞭」と「ミスリルの鞭」を装備しているので、全体攻撃が8回可能になる。ゲームではないので毎回8回出るというわけではないが、それでもかなりの能力なのだ。アイリスにあっては「五月雨斬り」という4回攻撃ができるスキルと併用すれば、16回攻撃が可能となるのだ。
このレベル30というのは、一つのターニングポイントで、その職業のマスタースキルを習得できるのだ。どのジョブにもマスタースキルは用意されている。
たとえば、不遇職の「商人」がレベル30で覚えるマスタースキルは「空間収納」だ。これは異空間にアイテムを収納する便利なスキルだが、ゲームでは使えない。勇者が最初からアイテム袋という「空間収納」と同じようなアイテムを持っているので、わざわざ習得する必要はない。ただ、実生活では本当に便利だ。
そして、もっともガッカリするマスタースキルは「レンジャー」の「フレイムピラー」だろう。名前こそ強そうなスキルだが、初級魔法と中級魔法の間位の炎の柱を相手にぶつけるものだ。私も全くステータスの上がらないクリスをレベル30まで上げたことがある。その絶望感と言ったらなかった。
ネットでは私の心を代弁するような書き込みが溢れていた。
クリスさん!!レベル30でそれですか?クビ決定!!
何とクリスはレンジャーを極めた結果、ボーイスカウトになりました。
クリス様の人生を懸けたキャンプファイヤーをご覧あれ!!
もはやキャンプファイヤーとネタにされる始末だった。
思い出話はこれくらいにして、私はアイリスが提出した申請書に但し書きを加えて、承認処理をした。
転職後、早急にレベル30にすることを条件に認める。
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