30 人手不足解消 5
「どんな理由があるにせよ、孤児院の子供達を奴隷にして売りさばこうとした貴方を、私は許さないわ」
ライラが言う。それは私も思う。この世界の大いなる力が影響したにせよ、孤児達を奴隷として売り払おうとしたことは、本当に許せない。
「ああ、その件はすまなかったね。あれも子分が持ってきた話でね。そいつが嬉しそうに言うんだよ。『大臣と伝手ができた。孤児達を虐待している酷い孤児院から孤児達を助け出せば、取り立ててくれる』ってね。
ずっとこんな稼業をやってても仕方ないから、どうせならって思って、その話に乗ることにしたのさ。ただ、こちらで調べてみても、孤児院の悪い噂は聞かないし・・・・クリス、アンタにアジトを襲撃されたとき、「輸送ルートは整ったんだから、早く孤児を攫え」ってバッドと大臣に催促されていたのさ。こっちとしては、納得いかない仕事はしたくなかったから、孤児を攫うのは少し待っていたのさ」
ここでアイリスが言う。
「クリスさん、どうにかなりませんか?ドーラさんのことは他人事とは思えなくて・・・」
同じような境遇のアイリスは同情するところがあるのだろう。ドーラも大いなる力に導かれなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。
「そうね・・・難しい問題だから、私の一存では・・・」
ここでサマリス王子が口を開く。
「私としてはドーラ達を「ファースト・ファンタジー株式会社」の従業員として雇用しようと思っている。当然犯罪者だから、一般の従業員とすべて同じというわけにはいかないが、それ相応の待遇は保証しよう。ロトリア国としても、犯罪者の社会復帰は課題だからな。
クリスには、ドーラ達の処遇について色々と相談に乗ってほしい。ムリエルはどう思う。領主としての意見を聞かせてほしい」
あれ?コイツはこんな奴だっただろうか?
まるで勇者のような振る舞いじゃないか?まあ、主人公の一人だから、勇者になれる素質はあるんだけど・・・
「私もお兄様の意見に賛成です。
それと私は非常に怒っています!!私達が一生懸命助けた人質のほとんどが、犯罪者で、しかも暴動の原因となった者達だなんて、ふざけてます。今回の捜査は徹底的に行って、膿を出し切ろうと思います。
なので、しばらくの間、私は王都で捜査の指揮に当たります」
まあ、ムリエル王女が怒るのも頷ける。
ただ、ムリエル王女もここまで、積極的な性格ではなかった気がする。どちらかと言えば控え目で、周りに流されるタイプだったと思ったのだけれど。
うーん、ゲームとは、もう違う物語に成り掛けていると思う。
ドーラ達の処遇などを話し合っていたところ、なんとあの狸宰相がやって来た。
どの面下げてやって来やがった!!
そう思ったのは私だけでなく、場はとんでもない雰囲気になっていた。
やって来た狸宰相は、部屋に入ってくるなり、土下座を始めた。
「申し訳ありませんでした。連絡ミスがあったようです・・・」
宰相が言うには、私達には「作業員の当てがある」と言い、「騎士団には増援部隊が来る」と説明したが、増援部隊は別に送るつもりだったと言ってきた。
「こちらも聞いてびっくりです。クリス殿が刑務所に乗り込むなんて想像もしてませんでした。刑務所の囚人を作業員として使うことを考えていたのですが、無理そうならば、改に募集を掛けねばならず、クリス殿に一度現場を見てもらおうと思った次第です。
なので、慌てて増援部隊を率いてやって来たのですが、もうすべて終わった後だったのですね」
お前、狙ってやっただろ!!
すべてが片付いたのを見計らって、姿を現したに決まっている。
しかし苦しい言い訳だが、絶対に嘘だと証明できないところがもどかしい。確かに宰相は私に「現地で話を聞いてくれ」とは言ったが、「突入して暴動を鎮圧してくれ」とは言っていない。騎士団にしても、私達を増援部隊と思ってしまった。むしろ思わせるように仕向けたのだろうけど。
「それで、今回の功績をもってクリス殿を騎士爵にという話になっております。国王陛下からも許可をいただいておりますので、すぐにでも爵位を授与したいのです。それで、騎士爵となられましたら、ムリエル王女の騎士になっていただきたいのです。国王以外の王族は3人まで爵位持ちの騎士を召し抱えることができますので・・・・」
「まあ、それは素晴らしいわ!!お姉様、是非お受けになってください」
ムリエルは大喜びだし、他の商会のメンバーも沸き立っている。これじゃあ、断れそうにない。
私達が暴動を鎮圧して、私が徐爵する流れを予め用意していたのだろう。段取りが良すぎる。私達を罠に嵌めた怒りを私を騎士爵とすることで誤魔化そうとしている。
それにメリットもある。ヤマダ商会をロトリア王国の商会ということにできる。そうなれば、国家間のもめごとが起きたとき、ヤマダ商会はロトリア王国の味方をしなければならない。
私としてもメリットが無いわけではないのだが・・・・
「有難き御言葉、謹んでお受けいたします」
アントニオさんといい、この狸宰相といい、そっち方面では、まだまだ私は遠く及ばないと感じる出来事であった。
★★★
トンネル掘削の作業員となったドーラ達だが、想像以上の成果を上げている。工期を大幅に短縮できそうだ。
彼らの待遇面だが、月に1500ゴールドを支給することになった。ただ、少し特殊な形で支給している。1500ゴールドの内、1000ゴールドを現金で支給し、残りの500ゴールドの内100ゴールドは税金、100ゴールドは教育費、300ゴールドを強制貯金にして、刑期を終えたら支給するようにする。
これはドーラが提案したものだ。
「仕事は真面目にさせるから、何でもいいから教育を受けさせてやってほしい。刑期を終えたら何とかして自立できるようにね。それと、有れば有るだけ遣っちまう奴が多いから強制でもいいから貯金をさせてやってほしい。刑期を終えたとき無一文じゃあ、また犯罪者に逆戻りだしな。それに真面目に勤め上げたらある程度まとまった金が手に入ると思ったら逃げないだろうし」
強制貯金は、日本では違法だが、まあこの世界ならOKだろう。それに先に教育費を強制的に徴収することによって、何か教育を受けなければ損だという雰囲気になっている。犯罪者集団なだけあって一番人気は戦闘訓練だ。ヤマダ商会の子会社には警備会社もあるので、将来的にはそっち方面での活躍を期待したい。
ただ、この戦闘訓練は地獄そのものだった。レベル20を超える猛者がゴロゴロいるからだ。今もバーバラとクリストフが騒いでいる。
「姫様!!戦闘訓練などという野蛮なことはお止めください」
「そうです。片っ端からフルボッコにするなど、絶対にしないでください」
「やるわ!!やればいいんでしょ」
アイリスは10人以上の訓練参加者を滅多打ちにしていた。
そのお陰か、本当に根性のある者以外は、自分の適性に合った職業訓練に流れていった。将来楽しみな人材も多くいる。ヤマダ商会の未来も明るいだろう。
そういえば、今日は女子会の日だった。
同年代の女子が増えたからそのような話になったのだが、かなり楽しみだ。
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